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米 VS ロシアのエネルギー戦争熾烈さ増す─日本経済直撃も

1991年のソ連崩壊後、ロシアは米欧型民主主義と市場経済導入を試みましたが、汚職の蔓延、国有企業の略奪的な民営化などで経済は大混乱に陥り、国力は著しく衰退しました。 2000年にエリツィン前政権の負の遺産を受け継いだプーチン大統領は米国に再挑戦可能な超大国ロシアの再興を目指しました。この目標達成に絶好の機会が米国で生まれました。

ニューヨークのマーカンタイル取引所WTI原油価格に、先物取引の過熱で高騰の兆しが出て、それがロンドンや東京の原油取引市場に飛び火。98年時点で1バレル=12ドル程度だったWTI価格が05年には同60ドル台にまで上昇したからです。

石油生産でサウジアラビアに匹敵、天然ガスの埋蔵、生産で世界一のロシアは皮肉にも米国発の原油価格の爆発的高騰で富国強兵戦略を一気に加速させ、米欧相手に熾烈なエネルギー戦争を開始しました。 来年にはベネズエラなど反米の砦と化した南米諸国を加えた天然ガスカルテル機構がロシア主導で正式結成される見通しです。今後の動向次第では日本経済にも深刻な影響が出そうです。


▼ロシアは米に新冷戦宣言

ロシアのプーチン大統領が2月9日、ミュンヘン安全保障会議に出席、参加40ヶ国の国防相、外相、各国軍トップらの前で米国の対外政策を激しく非難しました。 特に、米国がイラクでの宗派対立を煽る情勢泥沼化の元凶とみなすイランに対し、核開発停止拒否を理由に臨戦態勢を敷いているため、「最新鋭の地対空迎撃ミサイルをイランに配置した」とけん制しました。

ドイツの有力紙などは「ロシアはイランの核兵器開発に技術、資材提供を行っている」と繰り返し報道しています。 サウジアラビア、イラク、イランは世界の3大石油埋蔵国です。前記2国が米国の傘の下にあるため、ロシアは「米・イスラエルの不倶戴天の敵」とされるイランを自陣営に引き込むことが、今後の対米エネルギー戦略の要になると考えています。

このため、同大統領は米主導のイラン戦争会議と揶揄された欧州安保の年次会合に乗り込み、ロシア国境まで東方拡大した北大西洋条約機構(NATO)軍の盟主・米国に新たな冷戦を通告したわけです。

4月9日にはロシアの呼びかけで中東カタールの首都ドーハで14の主要天然ガス輸出国の担当閣僚が会議を開き、石油輸出機構(OPEC)の天然ガス版となるカルテル機構結成に向けてのワーキンググループが組織されました。

反米路線を強く打ち出しているベネズエラ、ボリビアとアルゼンチンの南米3カ国とイランの代表はカルテル機構を直ちに創設したいと意思表明したといわれます。今回の参加14カ国中、少なくとも10カ国で08年にモスクワで開かれる次回会議で天然ガスの価格談合連合(カルテル機構)が結成されることになりました。


▼カスピ海─トルコ回廊めぐる攻防 

このドーハ会議を受け、焦る米国と欧州連合(EU)はワシントンで直ちに緊急の合同エネルギー会議を開き、「ロシアに追随する天然ガス生産国は経済制裁を含めあらゆる不利益を受ける」と警告を発したものの、ロシアはこれを無視しました。

しかし、米欧は本音では天然ガス供給と価格決定をロシアに独占される恐怖に慄いています。01年の米同時テロ発生とそれに続く対テロ戦争の結果、ブッシュ米政権と一体の米シェブロンと英BPの石油メジャーは06年、日本企業も参加させ、アゼルバイジャン、グルジア、トルコを経由する、カスピ海から地中海にまで至るBTCパイプラインを完工させました。

同パイプラインはトルコ・ジェイハンからイスラエル・アシュケロンまで伸張する構想が練られており、実現すればカスピ海から紅海までの石油・天然ガス輸送ができ、イスラエルはアジアの巨大石油市場で大きな発言権を持つことになります。

これに反発し、旧ソ連領で西側に傾斜するBTCラインの要衝グルジュアでは06年初来、天然ガスパイプ破断事件が相次ぎ、米ロは激しい非難合戦を展開中です。 こんな中、ロシアが米の対イラン攻撃に備える一方、ペルシャ湾、東地中海では、米、英が率いるNATO、イスラエル軍が臨戦態勢を敷いています。

実際に軍事衝突に至れば世界規模の戦争にまで展開しないとは言い切れないと内外の中東問題専門家らは憂慮しています。カルテル機構結成に加え、もしホルムズ海峡の民間船通過停止となれば、日本が70年代の石油ショック並みの打撃を受ける可能性も否定できません。  


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