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芸術界に一石を投じる:ジャクソン・ポロックを巡る、ブルーカラー女性の戦い

(記事要約)

5/6放送の米国CBSのドキュメンタリー番組「60 minutes(シックスティーミニッツ)」から。タイトルは“ジャクソン・ポロック(Jackson Pollock)、その絵にまつわるミステリー”。

元トラック運転手の女性、テリー・ホートン氏は、ある時リサイクルショップで一つの絵を5ドルで手に入れた。そして今、彼女はその絵に5000万ドル(60億円)の価値があると思っている。なぜか?  ホートン氏はこの絵が20世紀の偉大な抽象画家、ジャクソン・ポロック(Jackson Pollock)によって描かれたものに違いない、と考えているのだ。

しかし、問題がある。彼女はそれを証明することができないでいるのだ。少なくとも、アートの世界の専門家たちによると、この絵は彼の作品ではないという。CNNのアンカーマンとして知られる、ジャーナリストのアンダソン・クーパーがホートン氏の15年に渡る聖戦を解決すべく、様々な方向からこの絵にまつわる情報を検証した。

5/6/2007 CBS「60 minutes」(米国3大ネットワーク番組)より
http://www.cbsnews.com/stories/2007/05/03/60minutes/main2758110.shtml?source=mostpop_story

(記事解説)

意外なところで宝物を見つける─たった5ドルで購入した絵が、5000万ドルの価値があるかもしれないという、まるで夢のようなお話しは、芸術作品の価値=お金にまつわる話しに限らず、芸術界のエリート意識に対する疑問符を投げかける話しへと発展していく。

番組内で、これまで15年かけて証明しようとしてきたホートン氏の絵の出所について、まるで刑事ドラマを見るかのように「指紋検証」がされた。絵に付着した指紋と、ポロックが当時使っていたペンキ、また別の絵についた指紋と一致したことで、かなりの確率でこの絵がジャクソン・ポロックによって描かれたものだ、と証明された。

しかし、残念ながら絵の入手経路が不明瞭なため、アートの世界にいる人々は、この作品がジャクソン・ポロックの描いた「本物」だと認めない。科学的根拠は何の役にも立たないのだ。

ホートン氏が、あるコレクターからの200万ドル(2.4億円)のオファーを蹴るというエピソードが紹介された。彼女曰くこの絵をたとえ5ドルで買ったとしても、この絵の価値の妥当な値段が5000万ドルなら、その対価を自分は得る権利があるし、自分がいわゆるアートコレクターらしくないとはいっても、安売りには応じない、と語る。

この絵を描いたと考えられているジャクソン・ポロックは、20世紀を代表する米国の抽象表現主義の画家で、第2次大戦後に活躍。彼の作品の影響力は絶大で、ニューヨークの現代美術館(MoMA: http://www.moma.org/)は、一部屋を彼の作品で埋め尽くすほど、高い評価をしている。
http://www.moma.org/collection/browse_results.php?criteria=O%3AAD%3AE%3A4675&page_number=13&template_id=1&sort_order=1


キャンバスを床に平らに置き、缶に入った絵具やペンキを直接スティックなどでしたたらせる「ドリッピング」という独特の技法を用いた作風を持つポロックは、1956年飲酒運転による自動車事故で亡くなった。

これまでにもポロックが描きかけで捨てた作品が、アトリエがあったロングアイランドのゴミ箱から発見されている。当時はその絵は何の価値もないと思われていたのだ。が、これらは、現在美術専門家が「本物」と認め、高い評価をしている。

しかしホートン氏の所有する作品だけは、今もこの芸術界から「本物」として認められていない。これは究極にいうと「芸術」の定義に関わるともいえる。もしホートン氏が200万ドルで、名のあるコレクターに売った場合、この作品が本物のポロックの作品と同じだけの価値があるものと、後世認められることになるかもしれない。

番組内でアート関係の専門弁護士スペンサー氏のコメントが紹介された。「アートの世界はDNAというものを理解しないのと同じように、指紋についても全く受け入れない」。

ジャーナリストのクーパーはこう締めくくる。「ホートン氏からすれば、芸術界は傲慢でエリート意識が強く、自分を仲間に加えたくないと思っている」と。

ホートン氏の戦いはこれからも続く。


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