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「中国の危うい株式狂乱相場」が暗示する米中関係の真相 

今年3月に上海など中国の主要証券取引市場で株価が急落。この衝撃はニューヨーク、ロンドン、東京の株式相場に連鎖して中国発「世界同時株安」と呼ばれた。急激な経済成長と金余りを背景とする中国での株フィーバーはさらに過熱してほぼ絶頂に達したようだ。

1980年代後半から90年代初めまで日本を見舞った金融バブルはその絶頂期に膨らみきった風船が破裂するかのように崩壊した。中国当局は日本の苦い経験、そして97年のアジア通貨危機を教訓として危機回避に躍起だ。

その舞台裏を覗くと、米国の対中戦略が浮き彫りになる。中国の株狂乱の背後には米資本が介入し、煽っている嫌疑は濃厚だ。その理由は何か。


▼抜け道から流入する裏資金

ドイツのある有力日刊紙は5月末、逼迫する中国の金融バブル崩壊に関する特集記事で「過去2年足らずの間に中国の株式相場はほぼ4倍に膨らんだ。今年5月には中国の株式取引高が東アジアの全証券市場中トップに躍り出た日もあった。今や1億を超える中国人が我先にと銀行預金を下ろし、借金してまで株に賭博的投機を行う異常な興奮状態にある」と株狂乱ぶりをレポートした。

ここまでの内容は日、米メディアの報道と大同小異だ。その特色は「中国政府の厳格な規制を潜り抜け年間4─5百億ドル規模の裏資金が主として株投機に向かい流入している」との鋭い指摘にある。

この国外から注入された資金が中国の金融バブルをさらに煽り、追い詰められた中国政府は大胆な制度改革を迫られている。非公式な米ファンドマネーの「侵入」には米国の政財界の意図が潜んでいるのは間違いない。極言すれば、「中国は米国の手のひらの中で踊らされている」とも言えよう。


▼中国の危機回避策は

中国の株取引が焦げ臭くなってきたのは、国内でだぶつく資金と取引可能な株券との極端な不均衡に理由がある。この需給格差解消には株供給拡大が自然な解消策だが、社会主義国の中国では政府が主要産業の企業を国営にしたままで株式公開もしていない。したがって、米国は有力国営企業の民営化促進と株式公開を求めてきた。実現すれば、株売買の過熱は確実に沈静化するはずだ。

これを受けてか、国家資産管理運営部門の中国当局幹部は最近、「2010年までに160の主要国営企業の半分を民営化する。残る国営企業にも有力外資に49%の株式保有を認可して経済改革を高度化する」と発言。間接的ながら、株供給量を飛躍的に増大させて株バブル崩壊を防ぎ、経営形態を国際基準に適応させると約束したのだ。

さらに大きなバブル崩壊阻止の決め手は、中国政府の通貨規制緩和である。年間2000億ドルに達した貿易黒字額、同600億ドル規模の外資流入で中国国内の通貨供給量は膨らむばかりだ。

自由な為替取引を中国政府が禁止しているため、流入した外貨はすべて中国通貨・元へと強制交換させられている。

これが通貨供給過剰を招き、行き場をなくしたマネーが株式市場に殺到している。為替取引自由化と本格的な元切り上げによる輸出抑制=貿易黒字幅調整を組み合わせれば株加熱に冷や水を浴びせることができるはず。当面のバブル崩壊防止には最高の処方箋と言える。

▼ほくそ笑む米政財界

米国政府は一貫して元の本格切り上げを中国に要求している。中国政府が通貨管理を緩和して元の対外価値を高めれば、それを見越して対中投資している米投機筋は莫大な為替差益を得る。また、民営化された有力企業の多くが米国企業に買い占められるだろう。中国の今回の金融危機が回避できれば米財界は大変な利益を得るからこそ、中国政府に表と裏の2つのルートから圧力を掛けていると見るべきだ。

また、中国は1兆ドルを大きく超えた外貨保有で「世界の銀行」にもなった。だが、中国の輸出製品が機械類を中心に高度化しているのに伴い、輸出における外資比率は06年には60%にも達した。中国になだれ打って進出し、中国製品の対米輸出ラッシュを誘引した日米欧の主要企業が、十分な配当を得てほくそ笑む姿は表には決して出ない。

米国の経常収支の巨大な赤字は中国の外貨保有によって支えられている。異常状態の続く米経済は中国と日本の米国債購入が破綻を回避させている。一方、中国の奇跡の経済成長は世界の貿易額の約2割を占める米国の巨大な輸入力、過剰消費で実現した。いずれにせよ、ともに金融破綻の危機にある米中両国には「経済での協調徹底」しか危機回避の選択肢は見当たらないはずである。



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