Entry

内外の教育市場を切り拓くインドIT企業と変わる教育機関の授業方法

<記事要約>

 いくつかのインドのソフトウェア開発企業が、アメリカやイギリスの学生の学習事情にも影響を与え始めている。

  Educomp SolutionsやCore Projects and Technologies 、Everonn SystemsといったIT企業は現在、隙間事業として、オンライン指導、クラスルームマネージメント、ウェブベースでの学習によるLD(学習障害者)の手助けなどの教育関連分野のソフトウェア開発に着手しはじめている。

  これらの事業はアメリカ市場やイギリス市場への足がかりを得る試みにおいても、よい成果をあげている。

  Educomp SolutionsとCore Projects and Technologiesの両社はこの9月に外国企業の買収をした。Educomp Solutionsは、カナダベースの企業Saavicaの株70.5%を買収し、一方、Core Projects and TechnologiesはイギリスのAzzuri EducationとアメリカのKCMG(KC Management Group)という2つの教育サービス提供会社を買収。

  Core Projects and Technologiesのハリ・アイヤール氏は次のように語っている。

  「Azzuri Educationの買収によりイギリス全土にある約1000の学校に、KCMGの買収によって、ミシガンやノースカロライナを含む米18州に手を伸ばすことになるだろう」

  教育関連分野に着手をし始めたこれらIT企業は、ターゲットを海外の市場だけに絞らず、インド政府機関SSA(Sarva Shiksha Abhiyan)の先導を追うかたちで、国内の教育分野のソフトウェア開発市場にも目を向け始めているという事だ。

(Hindustan Times 10月3日)


<解説>

 インドでは最近、ネットを通じた通信教育や、教育関連のソフトウェア開発のニュースをよく目にする。記事が示すとおり、インドIT企業は海外の教育関連市場にもすでに進出しており、ビジネス的観点から見ても教育業界は、インドのIT企業にとって期待大のようだ。


 それらの企業の実績は株式市場にも反映された。アナリスト達が、TCS(TATA Consultancy Service)などの重要な株の動向を観察していたところ、これらの株のリターンは3ケタに上がっていた。Educomp Solutionsが273%リターン、Core Projects and Technologiesが238%リターン、Everonnは、それより2ヶ月前のリストで371%のリターンという結果が出ている。

  アメリカのITによる教育市場は著しい成長率を示しており、2010年までに75ビリオンドル市場になるという予想も出ている。このように、インドIT企業の教育関連分野への海外進出は、かなり好調で有望のようであり、インド国内の教育分野においても政府ともどもソフト開発に積極的なようである。

 また、インドの教育レベルの地域格差の緩和の観点から見たITの教育分野への関わりについてのニュースもよく目にする。

  先日も、インドの学校において、ITを使った“新しい授業方法”が展開されているというニュースを見かけた。2つの例が紹介されており、それらは両者とも、Technology for Emerging Markets をリードする外山健太郎氏が研究主任を勤める、バンガロールのMSR(Microsoft Research)Indiaオフィスで開発されたということだ。

  マイクロソフトによるこれら“新しい授業方法”のひとつは、地方の学校の生徒達がDVDを通して、都市部のより質の高い学校の先生の授業を受けるといったもの。これにより、授業内容の質が大幅に向上し、生徒達の授業に対する理解の度合いは、劇的によくなっているそうだ。DSH(Digital Study Hall)と名づけられたこのプロジェクトはウッタルプラデーシュ州ラクナウ近郊で施行され、現在はバンガロールやプネ周辺でも導入の予定である。

  もうひとつは、バンガロールのいくつかの公立学校において、子供達に授業でコンピューターゲームをさせているというもの。そのコンピューターゲームの注目すべき点は、ひとつのマウスではなく、いくつものマウスを同時に使って遊ぶようになっているという点だそうだ。複数の子供達が、ときには競い、ときには協力して、質問に答えたり問題を解くようになっているのである。このプロジェクトも非常にいい効果を出しており、そのうち、全国の学校に広がるだろうと予想されている。

  外山健太郎氏は「私達(MSR)を、インドにある平均的な多国籍調査ラボとして捉えないでほしい。私達は、まるでアカデミックな学校のように、ここで本当に純粋な調査を行っているのです」と語っている。

  IT企業は教育分野へ進出し、教育機関はITを通じて教育の水準を高めているのが昨今のインドのようだ。

 

【関連情報】

○MediaSabor
  「よいゲーム、悪いゲーム」   2007/10/04
http://mediasabor.jp/2007/10/post_228.html

○Blog@Yuiはてな出張所 2007/08/04
 藤本徹(著)『シリアスゲーム 教育・社会に役立つデジタルゲーム』
http://d.hatena.ne.jp/tame_hiro/20070804/p1


○ヘルス・コミュニケーション 2007/05/01
  【書評】「シリアスゲーム」(藤本徹 著)&「ハイコンセプト」(ダニエル・ピンク著)
http://healthcomm.blog32.fc2.com/blog-entry-495.html


○北村士朗の日記 「ゲームとeラーニング(藤本徹氏講演より)」2006/08/09
 ゲームで育ってきた「ワカモノ」、ゲームが日常的なメディアになっている
  「ワカモノ」に対して、ゲームを使っていくことは、「ワカモノ」を相手に
  することが多い学校や企業の教育部門としては当然のことだと思う。
http://kit.cocolog-nifty.com/kits_diary/2006/08/post_93f4.html


○越後のCMS問屋の四畳半社長 「シリアスゲームとエデュテイメント」2006/03/24
 日本におけるシリアスゲームの歴史は、カツ虹さんが指摘されているように三国志や
  信長の野望の存在感が目立ちますが、大戦略で各国の兵器につい学んだり、地形や
  地勢についてまなぶこともできますし、僕は近作の「現代大戦略」シリーズを遊ぶたびに、
  どうやって国防をやっていけばいいのか頭を悩ませます。
http://shi3z.cocolog-nifty.com/blog/2006/03/post_2cf8.html


○ZDNet Japan  2007/07/31
  ゲームランドジャパン通信vol.2 ゲーム業界未来のキーワード「シリアスゲーム特集」
 中国では英語版の市販オンラインゲームを学校の英語教育に利用する事例が最近
  紹介されています。この例は、ゲーム会社にとって、市販ゲームのマーケティング方法の
  一つとなる可能性を示しているといえます。イギリスでは大手ゲームメーカーが
  スポンサーとなり、市販ゲームを学校教育に利用する研究が進められています。
  以上のように、各国様々な特徴を持ちながら、シリアスゲームは発展をとげてきており、
  今後も更なる成長が期待できる分野であると考えられるでしょう。
http://japan.zdnet.com/release/story/0,3800075480,00020811p,00.htm


○CNET 2007/02/13
  「教室に浸透するEラーニング2.0:学習の現場を変えるウェブアプリケーション」
  インターネット企業の中でも、Googleは特に教育分野に積極的に取り組んでいるようだ。
  同社の「Google for Educators」サイトには、「教材のプラットフォーム」という説明が
   ついている。
http://japan.cnet.com/column/rwweb/story/0,2000090739,20342820,00.htm


○CNET 2006/03/28
  スクウェア・エニックスと学研、シリアスゲーム事業で新会社「SGラボ」を設立
http://japan.cnet.com/news/tech/story/0,2000056025,20099450,00.htm


○ITmedia News 2007/05/16
  数学学習支援ソフト「Microsoft Math 3.0」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0705/16/news018.html


○ITmedia オルタナティブ・ブログ
 「SNSを学校教育に活用する」 2007/04/17
http://blogs.itmedia.co.jp/business20/2007/04/sns_ec0e.html


○NAKAHARA-LAB.NET BLOG :明日の教育、こうなる、こうする
  <教育学研究者・中原淳(東京大学)のblog> 
 「オンラインコースは、高校生のドロップアウトを救うか?」2006/10/15
http://www.nakahara-lab.net/blog/2006/10/post_435.html


○あべたか.jp Side-A  2006/12/26
 「シリアスゲーム」から考える「(テレビ)ゲーム」と「学び」の可能性
 なるほどつながった!
http://blog.abetaka.jp/?eid=580735


○教育家庭新聞
 「教育に役立ちそうなシリアスゲーム3つ」 2006/10/11
http://www.kknews.co.jp/wb/archives/2006/10/post_552.html

 

 


  • いただいたトラックバックは、編集部が内容を確認した上で掲載いたしますので、多少、時間がかかる場合があることをご了承ください。
    記事と全く関連性のないもの、明らかな誹謗中傷とおぼしきもの等につきましては掲載いたしません。公序良俗に反するサイトからの発信と判断された場合も同様です。
  • 本文中でトラックバック先記事のURLを記載していないブログからのトラックバックは無効とさせていただきます。トラックバックをされる際は、必ず該当のMediaSabor記事URLをエントリー中にご記載ください。
  • 外部からアクセスできない企業内ネットワークのイントラネット内などからのトラックバックは禁止とします。
  • トラックバックとして表示されている文章及び、リンクされているWebページは、この記事にリンクしている第三者が作成したものです。
    内容や安全性について株式会社メディアサボールでは一切の責任を負いませんのでご了承ください。
トラックバックURL
http://mediasabor.jp/mt/mt-tb.cgi/413