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「日米同盟」の舞台裏で軋み増す両国の軍用航空宇宙ビジネス

2001年9月の米同時多発テロ(9・11)から6年経た。この間、ブッシュ米政権は「日米同盟は世界規模」と持ち上げて、自衛隊の一層の国際貢献を求めつつ、「テロとの戦い」を主導してきた。同時に日米間の軍需産業協力では、ミサイル防衛(MD)共同開発合意のような最先端の軍用航空宇宙事業は表向き「円滑に」進められている。

だが、米軍需産業と一体の米政府は先の自衛隊支援戦闘機F2開発で日米共同開発の名の下、日本の独自技術は無料、無条件で提供させたが、一方で最新鋭機ステルス戦闘機F22の対日輸出禁止に象徴されるように依然、米側技術漏洩防止のために不平等な対処を続けている。


▼ステルス機禁輸解除要請を門前払い  

在日外交筋によると、8月上旬に訪米した小池百合子防衛相(当時)はチェイニー副大統領、ゲーツ国防長官らと会談した際、航空自衛隊の次期主力戦闘機(FX⇒あくまで次期戦闘機導入にかかわる計画を指す語であって、特定の機種を指す語ではない)としてF22を有力候補と位置づけていることを強調し、対日禁輸解除を訴えた。しかし、米側は米下院歳出委員会がF22禁輸条項を国防予算に盛り込んでしまったことを改めて伝えるにとどめ、米議会の措置を「隠れ蓑」に日本側の要求を事実上門前払いした。

逆に、米側の対日要求はエスカレートするばかりだった。副大統領は今年1月の中国のミサイルによる衛星破壊実験を取り上げて、中国が急進展させている軍備のハイテク化に対応するため、MD共同開発プロジェクトの促進を呼びかけ、暗に日本のMD現行予算額約1兆円を上積みするよう求めたという。また、副大統領、国防長官ともに海上自衛隊によるインド洋での米艦船への給油活動の継続を強く要請した。


▼テロ特措法延長圧力と安倍辞任 

皮肉にも9・11テロ発生6周年の翌日、安倍晋三前首相は(対テロ戦第1弾の場)アフガニスタン支援の柱である海自の給油活動の法的根拠となるテロ対策特別措置法(テロ特措法、11月1日期限切れ)延長の見通しが立たないことを最大の理由に辞意表明した。7月の参議院選で大敗し、テロ特措法延長を拒否する野党・民主党に参院で過半数の議席を占められたことが、米国から大きな圧力を招き、前首相辞任への引き金になったことは疑う余地がない。

実際、9月8日にオーストラリア・シドニーで開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)に並行して行われた日米首脳会談後に、追い詰められた安倍氏は側近の制止を無視して「(特措法延長に)職を賭する」と辞任を示唆した。

片やブッシュ大統領は同3日にイラクを電撃訪問した後シドニーへ直行。日本メディアは報じていないが、5日の米豪首脳会談で両国は兵器通商協力条約に締結、約150億ドルの開発費を投じる米の次期主力戦闘機・JSF開発プロジェクト、MD関連兵器開発事業などへの豪企業の参入を促す技術供与、豪製兵器・軍用部品の対米輸出自由化などを盛り込んだ。


▼対日技術流出を徹底警戒

08年に実戦配備予定のJSF(ステルス性統合戦闘攻撃機F35⇒第5世代機。F-22以外の他機に比べ、ステルス性が高いと言われている)は米最大の軍需企業ロッキード・マーティンが中心となって開発した。この事業には英、豪、カナダなど英連邦系を中心に8カ国企業が出資した。日本はF22と双璧をなすF35への開発や出資はおろか、売却対象国からも外されている。日本とオーストラリアは今年3月に日米安保条約を補完する日豪安保協力宣言を行い、日米豪の安保トライアングル形成が謳われた。だが、米政府の軍事技術をめぐる日、豪への対応は180度違うと言える。

こんな中、防衛省は国産ステルス機となる次期主力戦闘機(FX)の試作に着手した。だが、予算不足から08年度は研究費157億円の概算要求にとどまった。10年以内の運用を目指すFXは、当初の国産機計画が米国の介入でロッキード・マーティンの協力の下、日米共同開発へと変更、3700億円を投じて2000年に運用開始されたF2の後継機だ。

しかも、米側は日本が自主開発してもコスト高で価格競争力をなくすよう、早々と日本の武器禁輸完全解禁を想定してF35共同出資の8カ国などに輸入禁止を働きかけているもよう。日米共同開発により日本で生産されたMD関連ミサイルや衛星及び関連機器に関しても同様だ。日本側関係者の間にくすぶり続けてきた「必ず日の丸機を開発する」との反米感情を高揚させている米国の対日政策は、適切さに疑問の声が上がっている。

 

【関連情報】

○ステルス戦闘機の歴史
http://rouge.pinky.ne.jp/military/slbm/history.html


○Hyper Arms
 最強の現代兵器をピックアップ!また、歴史上の人物にも焦点をあてて・・・
 そして、最新の軍事テクノロジーを解説!
http://www.f5.dion.ne.jp/~mirage/message00/ss001.htm


○フジサンケイ ビジネスアイ 2007/08/30
【来年度予算概算要求】防衛省ステルス実証機開発計上
http://www.business-i.jp/news/sou-page/news/200708300054a.nwc


○週刊オブイェクト 2007/08/27
  【珍説】とある東京の軍事消息筋が語る「日本、戦略爆撃機を独自開発へ」
http://obiekt.seesaa.net/article/52806663.html


○Japan Aviation & Railway News 
 「日本、F-22輸出禁止解除を申し入れ」 2007/05/05
http://www.aviationnews.jp/2007/05/f22_525d_1.html


○そこに魂はあるのか? 2007/04/10
 【次期主力戦闘機FX】F-22Aラプターが有力?
http://soko-tama.cocolog-nifty.com/blog/2007/04/f22a_2c6d.html


○話題のナレッジベース  2007/02/17
 「F22 Aラプター 最新鋭ステルス戦闘機日本にデモ配備」
http://www.yamaguchi.net/archives/004635.html


○団藤保晴 ブログ時評
 「安倍スキャンダルは本物――自民党崩壊の地響き」 2007/09/15
http://dando.exblog.jp/7446546/


○内田樹の研究室 「お疲れさまだよね」2007/09/13
 (安倍首相辞任について)
http://blog.tatsuru.com/2007/09/13_1830.php


○木走日記 「国民不在の蟲のような寿命の政権はもう勘弁してほしい」 2007/09/13
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070913/1189663797


○Munchener Brucke 「安倍内閣前半の異常な時代を忘れてはいけない」 2007/09/13
http://d.hatena.ne.jp/kechack/20070913/p1


○イザ! 「安倍首相は臆病者」英メディア酷評   2007/09/13
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/politicsit/84379

 


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