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「キャリアのスタートに最適な職場」ランキング─米国企業の「ジェネレーションY」争奪戦─

  • 米国在住モチベーション・コンサルタント&コーチ 
  • 菊入 みゆき

<記事要約>

ビジネスウィーク誌に、「キャリアのスタートに最適な職場」95社のランキングが発表された。1位に輝いたのは、大手会計事務所デロイト・トウシュ。2位、3位は、同じく大手会計事務所のプライスウォーターハウスクーパース、アーンスト アンド ヤング。以下、IBM、グーグル、マイクロソフト、ウォルトディズニー、アクセンチュア、ロッキードマーティン(航空機等開発)、ティーチフォーアメリカ(新卒者を教育指導等のボランティアとして派遣する官民共同出資の団体)と続く。

昨今の会計監査業務の需要増加で、優秀な人材はのどから手が出るほど欲しい会計業界をはじめとして、情報機器、インターネット関連などいずれもビッグネームが名を連ねる。また、ティーチフォーアメリカがベストテン入りしているのは、アメリカの若者のボランティアへの関心を象徴していて興味深い。

各社とも、その特徴は、ジェネレーションYといわれる若い世代の採用に、非常に熱心なことだ。彼らの嗜好を研究し、それに合わせた職場作りもする。

こういった動きの根底には、ベビーブーマーが定年を迎えたことによる、ビジネス界全体の人手不足感がある。さらに大きな要素は、「ジェネレーションY市場にアプローチするには、社内にジェネレーションYがいることがマスト」という企業側の確信だ。IM(AOL社のインスタントメッセンジャー。日本ではYahooメッセンジャー、Windowsメッセンジャーなどが主流)や、You Tubeを使いこなす20歳代の大卒社員が、どうしても欲しいのだ。

2007年9月13日BusinessWeekより


<解説>

ジェネレーションYとは、いったい誰なのか。正確な生まれ年には諸説あるが、ビジネスウィーク誌の記事では、1982─2000年生まれの7800万人と定義される。ベビーブーム世代(1940年代─50年代生まれ)、ジェネレーションX(1960年代─70年代生まれ)に続く年齢層のグループで、多くはベビーブーマーの子どもたちだ。アメリカ人口の3割近くを占める一大勢力である。

略してGen Yと呼ばれるこの世代は、温室育ち、インターネット世代など様々に形容される。企業にとって、今後の最重要マーケットであり、また、従来型の販促が通じない、むずかしい市場でもある。ちなみに日本では、1970年代後半以降に生まれたポストバブル世代、団塊ジュニア世代が、日本版Gen Yと言えるだろう。

デロイト・トウシュ・USAのCEO、バリー・ソルツバーグ氏は語る。「若い社員を採用し定着させられるかどうかは、企業にとって、今後ますます重要になるでしょう。ジェネレーションYは、いろいろな意味で我々の未来を象徴しているのです」

ビジネスウィーク誌の、新規大学卒業者に最適な職場ランキングから、Gen Yの望む企業の特徴を見てみよう。ランキングは、大学の就職センター責任者、企業、大学生を対象とした調査をもとに作成された。

まずは、給与だ。ランキング内の95社中18社が年間55,000ドル(約645万円)以上の初任給を支給する。ランキング1位のデロイト・トウシュでは、新入社員の6割が45,000─55,000ドル(約528─645万円)の年収プラス4,000ドル(約47万円)近いボーナスを手にする。JPモルガン・チェース・アンド・カンパニー(ランキング17位)は昨年、新入社員に平均68,000ドル(約797万円)のボーナスを支給した。やはりY世代にとっても、給与は魅力だ。

しかし、もちろん給与だけで動くわけではない。Y世代は、仕事のやりがいへの欲求も強い。
ランキング47位のニューヨーク生命保険は、インターン学生を甘やかさない方針を採る。ビジネスマナーの研修を毎週受講させ、自社製品をジェネレーションYにアピールするためのブレーンストーミングにも参加させる。この取り組みにより、これまでインターン学生のわずか3%しか正社員登用に応募しないという状況だったのが、9割が「応募したい」と言うまでになった。担当者は語る。「Y世代は、チャレンジしたいんですよ。彼らを子ども扱いしてはいけません。従業員として扱うべきです」

もうひとつ重要なのは、採用の際、どれだけ会社や仕事の実態を理解してもらうか、だ。ジェネレーションYは、子どもの頃から企業の製品や宣伝に慣れ親しんでいる。期待と実際が違うと感じれば、すぐに他の製品に目を向けてしまう。この行動パターンが、職場選びにも反映されるのだ。

JPモルガン・チェース・アンド・カンパニーやデロイト・トウシュは、職場の実態を伝えるために、オンライン上で、社員の日々を追ったドキュメンタリーやコメディ・ドラマの動画を提供し、学生から好評を得ている。

ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)を使ったアプローチも、ジェネレーションYには有効だ。アーンスト・アンド・ヤングは昨年から、Facebook(フェイスブック)というSNSでのキャンペーンを開始した。Facebook(フェイスブック)は、2004年にハーバード大の学生によって創設されたもので、大学生のコミュニケーションや就職活動などの場になっており、登録者数900万人を越える。

アーンスト・アンド・ヤングのオープンフォーラムには、同社の従業員と就職希望者、計1万人が集まり、採用の手続きや将来の職場について語り合う。

ジェネレーションYの上司となる世代も、対応を迫られる。日常的なフィードバックを求めるY世代の嗜好に合わせ、配属後3ヶ月はひんぱんに面談の機会を設けたり、Y世代に対応するための特別な研修を受講したりと、自らの行動を変えていかなければならない。

これからのアメリカ経済の核となるジェネレーションY。生産、提供の役割を担うようになった彼らが、どれだけのモチベーションを持ち、どれだけ有益な製品やサービスを提供してくれるのか。それは、私たちの生活に大きく影響するだろう。企業の取り組みが成功し、Y世代一人一人が、生き生きと仕事をすることを祈りたい。

・記事サイト
http://www.businessweek.com/careers/content/sep2007/ca20070913_595536.htm?chan=search

 


【関連情報】

○夕刊フジBLOG  2007/05/06
 「人気企業ランキング」40年間の変遷
http://www.yukan-fuji.com/archives/2007/05/post_9278.html


○梅田望夫 My Life Between Silicon Valley and Japan
 「サバイバルという言葉が嫌いなら使わないで話そうか」 2007/06/17
 「次の十年」、いまの大学生が三十代に入る頃、さらに加速した変化が「仕事をめぐる世界」
 「職業をめぐる世界」に起きているだろう。いまは「そういう時代なんだ」ということを
 認識して「緊張感を持って生きる」ってどういうことかを考えてほしいな。
http://d.hatena.ne.jp/umedamochio/20070617/p1


○海部美知 Tech Mom from Silicon Valley 「大企業で働くのも悪くない」2007/04/04
http://d.hatena.ne.jp/michikaifu/20070404/1175707852


○カウンセリングルーム:Es Discovery  2007/04/04
 「キャリアデザインと主観的選好を巡る大企業志向とベンチャー志向の価値認識の差異」
http://charm.at.webry.info/200704/article_5.html


○fake24 「なぜ企業の採用がうまくいかないか?11の特徴の解説」2007/07/22
http://d.hatena.ne.jp/fake24/20070722


○CNET  2007/08/06
 「就職サイトに関する調査--モバイルインターネットユーザーも就職サイトは
  PCを利用している」
http://japan.cnet.com/research/column/webreport/story/0,3800075674,20354159,00.htm


○ITmedia News  「内定ブルー」をSNSで解消へ 2007/06/04
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0706/04/news016.html


○ITmedia オルタナティブ・ブログ 2007/05/07
 「就職戦線!内々定時期の企業と学生のWeb2.0活用を考える」
http://blogs.itmedia.co.jp/business20/2007/05/web20_480a.html


○新卒採用コンサルティング 『採用を科学する』 2007/10/16
 「新卒採用のマーケット情報が、連日のように紙面を賑わす季節が始まってきたようです。」
http://recruit-specialist.at.webry.info/200710/article_2.html


○POP*POP  2007/03/30
 後悔しないために知っておきたい『面接でやってはいけない10のこと』
http://www.popxpop.com/archives/2007/03/post_206.html


○ナマケログ  教育って「仕事ができる人」を作るシステムだっけか 2007/07/27
 学生時代の成績やら論文やらで高い評価を得ることと、社会に出てから要求される
 能力とは全く別種のものだ。はっきり言って、あれは「与えられたルールの中で
 望まれた答えを返す能力」の高さを示すだけの数字であって、未知の問題を解決する
 だとか全く新しい発想を生みだすとかの、それこそイノベーションとやらに必要な
 能力については何の担保もしない。
http://d.hatena.ne.jp/faultier/20070727/1185502916


○内田樹の研究室 「若者はなぜうまく働けないのか?」 2007/06/30
 労働は本質的に集団の営みであり、努力の成果が正確に個人宛に報酬として
 戻されるということは起こらない。報酬はつねに集団によって共有される。
 個人的努力にたいして個人的報酬は戻されないというのが労働するということ
 である。個人的努力は集団を構成するほかの人々が利益を得るというかたちで
 報われる。
http://blog.tatsuru.com/2007/06/30_1039.php


○仙石浩明CTO の日記 「技術者の成長に役立つ会社とは?(1)」2007/04/24
http://sengoku.blog.klab.org/archives/53861672.html


○FIFTH EDITION  「労務政策の歴史と今後の見通しの話」2007/04/25
 個人的には、絶え間ない競争と技術革新が当たり前の状況になりつつある今、
 日本では、今後、「長期雇用の保証」を行なえる会社か、「労働者に労働市場
 での価値向上を付加できる」会社が、人気を集めるのではないかと思います。
 日本では、所得保証のほうは、あんまし労働者は求めてない感じなので、
 そっちはあまり盛り上がらないんではないでしょうか。
http://blogpal.seesaa.net/article/39960134.html


○小野和俊のブログ  2007/05/31
 「梅田望夫氏が言うように、好きなことを貫いて仕事にしていくためには
  どのようにすればよいのか」
http://blog.livedoor.jp/lalha/archives/50167531.html


○雑種路線でいこう 「自己選択や天職という幻想」 2007/07/23
http://d.hatena.ne.jp/mkusunok/20070723/co30s


○Casual Thoughts 「一流企業の一流社員に求められる泥臭い馬力」2007/09/02
http://d.hatena.ne.jp/ktdisk/20070902/1188722892


○作家 森博嗣 MORI LOG ACADEMY 「憧れの仕事が危ない?」2007/08/24
http://blog.mf-davinci.com/mori_log/archives/2007/08/post_1356.php


○すちゃらかな日常 松岡美樹 「自分探しシンドロームを超えろ」2007/08/03
http://blog.goo.ne.jp/matsuoka_miki/e/41dc4587924fb9f7f1ebb327b36f16db


○アンカテ 「なぜドーパミンが出ない所で仕事を探すんだろ?」 2007/08/23
http://d.hatena.ne.jp/essa/20070823/p1


○「ぼくが大企業のえらいおじさんたちからおしえてもらったこと。」2007/08/05
http://anond.hatelabo.jp/20070805030121


○Life is beautiful 2007/04/04
 「自分がやりたいこと」と「会社にとって必要なこと」のベクトルを合わせることが
 できた時に大きな力が出る
http://satoshi.blogs.com/life/2007/04/post_2.html


○FPN  「自分らしく働くために本当に必要な9つのモノ」 2007/04/02
 http://www.future-planning.net/x/modules/news/article.php?storyid=2200


○GIGAZINE  2007/09/09
 「Googleの面接試験、一体どのような質問をされるのか?」
http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20070909_google_job_interview/


○転職業界News「内定者をつなぎとめるためのサービス」  2007/09/25
http://news.jobmark.jp/2007/09/naiteijitaiwofusege.html


○転職業界News「人材を育てるしかない。企業が新卒技術者を教育へ」  2007/08/15
http://news.jobmark.jp/2007/08/kigyou_kyouiku.html


○広告β 「電通と博報堂の違い」2007/08/12
http://kokokubeta.livedoor.biz/archives/51087495.html


○冬は間近だはぶにっき 「SIなんてつまらん仕事ですよ」 2007/06/20
http://d.hatena.ne.jp/habuakihiro/20070620#1182310769

 

 


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