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中国製品のリコールで「メイド・イン・アメリカ」の玩具が再び脚光を浴びている

  • 米国在住ジャーナリスト

<記事概要>

デボラ・エバノフさんは、両親が1960年代に始めたローテクの玩具会社を引き継いだとき、それまでの輝かしいシリコンバレーでのキャリアを捨て、これから退屈な生活が始まるんだと思った。しかし、そうした彼女の思いとは裏腹に、4ドルで販売中のゴムを利用して石を飛ばすパチンコ玩具は11カ国から受注が舞い込み、同社にとっては記録的な生産体制を敷くことになった。

それというのも、今年に入ってから中国製玩具のリコールが相次いだことが原因だ。消費者が中国製以外の玩具を求め始めたため、多くの米国の中小玩具メーカーは舞い込む受注をこなしきれない状態が続く。あるメーカーではオンラインセールスが最大で昨年の5倍に達し、人員増、生産体制強化、倉庫の拡大を行いながら対応しているという。

エバノフさんはいう。「この夏は(中国製玩具の)常に新たなリコールが起きていたから、その度に私たちは多くの受注を受けた。休む暇もなかった」。

専門家は、この夏に始まった米国製の玩具ブームはこれからしばらく続くだろうと見る。現在流通する中国製玩具は2100万個を超えるが、これらの中には鉛含有量の多い塗料を使ったり、乳幼児が飲み込んでしまう危険性を持った小さな磁石を使ったものが大量に含まれているからだ。 

USA TODAYから。


<解説>

中国製品に含まれる有害物質の問題は、米国にも大きな影響を及ぼしている。ペットフードを食べた犬や猫が死亡したのに加え、歯磨き粉に毒物のジエチレングリコールが含まれていることが明らかになった。

玩具でも同様。この8月、マテル社は販売する中国製玩具950万個を自主回収することを決めた。鉛の含まれた塗料が使われていることと、磁石が脱落しやすいことが理由。全世界では1820万個のリコールに上る。米国メーカーのなかにはグローバルな市場展開を行う企業も多く、一旦リコールされると数も膨れ上がる。

マテルはバービー人形などヒット商品を抱え、年間8億個の玩具を製造する大メーカー。そのおかげで中国製品のリコール率は全体の0.3%以下にとどまった。だが、仮に零細企業で大規模なリコール問題が発生すれば、倒産も免れない事態を呼び込んだ可能性もある。

消費者はこうした問題に敏感だ。今夏の売り上げが3割増えたという従業員50人の米国の玩具会社では、小さな子供を持つ多くの母親や祖母から電話をもらい、「中国製はもう買わない」と聞かされたという。

いままで、コスト面ではかなわない中国製に押されっぱなしだったこうした米国の玩具会社は、いまがチャンスとばかりに「メイド・イン・アメリカ」を強調している。玩具ショーや自社広報資料にも、米国内の自社工場の写真を持ち出し、「安全」をアピールする。

こうした米国製人気とは裏腹に、トイザラスなどの大手玩具小売店は中国製リコール騒動をさほど重要視していない。中国製は商品の中でも大きなウェートを占めるが、これから年末にかけて始まる商戦でも打撃は少ないと予想。中国製から他に切り替える予定もないという。

米国で売られている玩具の8割がすでに中国製であるという現状がそうさせているようだ。圧倒的なシェアを持つのは低コストという理由があるからで、そう簡単に消費者志向が変わらない以上、地位は揺るがないと読んでいる節がある。米国の玩具メーカーも「来年の今頃になっても、中国製に『ノー』という声がでているか分からない。消費者のムードしだい」と冷静だ。

低コストを背景に影響力を拡大していた中国製品は、今回の品質問題で消費者の信頼を失ってしまったことは間違いない。しかし、歴史を振り返れば、過去にも輸入品の品質問題は米国で常に起きていた。

自動車を例に取ると、トヨタ自動車や日産自動車が米国に輸出を始めた1960年代ごろの市場での評判は散々だった。当時の日本車は米国人から見れば、高速安定性が悪く、車内は狭く、おまけに貧相。品質を改善して認められるまでに10年以上を要しており、誰も今の日本車ブームを予測できなかった。1980年代に米国進出した韓国車も同じ道筋をたどっている。

このあたりは米国社会の懐の深さといっても良い。一度市場から排斥されても、セカンドチャンスは残されている。良い意味で消費者の変わり身も早い。中国の製造業者が一連のリコール問題を真摯に受け止め、真面目に品質改良に取り組むようなら、経済で台頭し始めた国がぶつかるよくある壁のひとつとして、何事もなく位置づけられるはずだ。

 


【関連情報】

○MediaSabor  「ペットラーのガス室?」  2007/09/04
http://mediasabor.jp/2007/09/post_204.html


○くまさんの自立 「中国製って、なぜ?&Made in Japan」2007/08/21
 どうも、人の心がすさんでしまっていて、品質の良い製品がかすんでしまっている
  ように感じる。製品製造に対する品質管理や製品に対するマナーが欠落している。
  また、中国製品の一番問題点なことは、粗悪と言うよりは、人的に有害ということだ。 
http://shigemaro.cocolog-nifty.com/kumasan/2007/08/made_in_japan_9426.html


○かぴたん “ジャンク de バーガー” 「新・情報分析室 23」2007/05/30
 かつて日本製品がそうであった様に、品質のお粗末さは仕方ありません。
  しかし、口にするものから汚れや違法の薬物検出、それも命にかかわる
  ようなものが出てくるのは、やはり問題です。こういう、国民性か経済効率の
  ためかはわかりませんが、目に見えないところに対する無頓着さが
  「メイド・イン・チャイナ」の命取りになるのでしょうか。
http://frinne001.jugem.jp/?eid=35


○オンラインライブラリー
 「チャイナ・フリー」 2007/09/30
 こうなると、消費者としては自分の健康は自分で守らなければなりません。
  サンデー毎日(8月12日号)に『中国産食品の「毒消し法」』という
  特集記事がのっています。『(野菜類については)基本的に水でしっかり洗い、
  皮を厚めにむく。ゆで汁を捨てる“ゆでこぼし”も効果的。果物も基本的に
  流水で洗って皮をむくのが基本。
http://www.orionnet.jp/blog3/index.php?UID=1191133708


○FIFTH EDITION 「ゴッドランドの歴史学」 2007/02/13
 日本企業が、アメリカ企業に挑戦を始めた当時、「メイドインジャパン」は
  粗悪品の代名詞だった。ソニーのトランジスタラジオ、ホンダのバイクは、
  お話にならない技術のレベルの低さだったが、それでも、市場のニーズを
  汲み取ることで、市場に入り込むことに成功した。
http://blogpal.seesaa.net/article/33551598.html


○編集者のつぶやき  住宅ビジネスのヒント 「メイド・イン・ジャパンに学ぶ」
 敗戦後、日本企業は国際市場、特に米国市場で「粗悪品」との評判に苦しみ、
 「メイド・イン・ジャパン」は「安かろう、悪かろう」の代名詞だったという。
  この打破に向け日本企業が総力をあげて取り組んだのが、品質のカイゼンだった。
http://blog1.s-housing.jp/article/18186705.html


○むの字屋の日本酒痛快速報3年目 「メイド イン ジャパン」2007/03/30
 日本酒は日本製の商品では遅れて世界に紹介された秘密兵器だったのである。
http://munojiya.exblog.jp/5055875/


○ITmedia News 「知財の常識が通用しない世界」  2007/07/06
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0707/06/news097.html


○杜父魚文庫ブログ 「猛毒中国の余震、世界でつづく (宮崎正弘)」2007/08/24
http://blog.kajika.net/?eid=652851


○イプサム 「中国製毛布からホルムアルデヒド」2007/08/23
 中国製毛布を回収=皮膚炎や呼吸困難の恐れ─NZ 
http://ipusamu.at.webry.info/200708/article_11.html


○世界の三面記事・オモロイド 2007/08/21
 「中国製の子供服から大量の発癌性物質ホルムアルデヒドが検出される」
http://omoroid.blog103.fc2.com/blog-entry-81.html


○イザ! 駄文!と ダメ立体画像と 「中国製 衣料品」 2007/08/23
 中国製衣料品などから検出されている発癌物質ホルムアルデヒドですが
  水溶性であるため、一度洗濯をすると落ちてしまいます。ですので
  中国製衣料を買ったらまず洗濯、これを常にしておきましょう。
http://q-sans.iza.ne.jp/blog/entry/276351/


○ファッション記者は見た!(日本繊維新聞編集部ブログ)
 「中国製子供服に有害物質」の衝撃 2007/08/21 
http://www.apalog.com/nissen/archive/265


○香取俊介の道草日誌 2007/07/19
 北京の段ボール入り肉まんは「やらせ」というのだが
http://katorishu.exblog.jp/7147880/


○旅行情報は From VALVANE
 「チャイナ・フリー」表示で変わるのか? 2007/07/22
 しかし加工製品に含まれる原材料の産地が全く明記されておらず、消費者が
  中国産を避けたいと思っても不可能な状態にあること、また使用されている
  原材料1つ1つの原産国名を証明・表記するのは企業としても大変困難で
  手間もかかる
http://valvane.blog17.fc2.com/blog-entry-764.html


○『寸胴鍋の秘密』「チャイナ・フリー」 2007/07/15
http://bunn.blog9.fc2.com/blog-entry-751.html


○独立&環境・エネルギー・特産品情報 2007/09/16
 『EU:中国製品の輸入禁止を検討』 
http://plaza.rakuten.co.jp/honestyshimabara/diary/?act=reswrite&res_wid=200709160935138639&d_date=2007-09-16&d_seq=1&theme_id=172292


○フジサンケイ ビジネスアイ 2007/09/11
 「中国製玩具リコール80%は注文側に問題…加大の調査」
http://www.business-i.jp/news/china-page/news/200709110065a.nwc


○IBTimes  2007/08/02
 「米フィッシャープライス、約100万個の中国製おもちゃをリコール」
http://jp.ibtimes.com/article/biznews/070802/10517.html


○CNET  2007/07/18
 「中国製の懐中電灯もリコール 偽パナソニック電池発火」
http://japan.cnet.com/news/tech/story/0,2000056025,20352954,00.htm


○イザ! 「中国製歯磨きから有害物質 ホテル向け3製品」2007/06/15
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/crime/57279


○ぼちぼち、いんぐりっしゅ
 「中国製ベビーベッド100万台リコール 」 2007/09/22
http://blogs.yahoo.co.jp/onokorokinzo/36361250.html

 

 


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