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ラグジュアリー・ブランドのドル箱マーケティング「旬のハンドバッグ=It Bag」

<記事要約>

 現在の有名ブランドのドル箱は、なんといってもハンドバッグ。筆頭デザイナーは、鞄(かばん)に力を入れて流行をつくりだす。オート・クチュール・ブランドのクリスチャン・ディオールでは、売上全体の45%(3億ユーロ)がバッグ、アクセサリー全体では60%にもなるのだそうだ。

 1996年に発売したレディLe Ladyは、ダイアナ妃が使っていたのが雑誌に載り、10年以上経った今でも売れ続けているロングセラー。鞄に焦点を当てたマーケティングを踏襲したイヴ・サン・ローランも、売上の半分以上が鞄やベルトなどのアクセサリーで占められている。

 洋服に比べるとバッグは、製造者により大きな利益をもたらす。製造が比較的簡単で、値段設定を原価の10倍から12倍にもでき、洋服のように来店した顧客のサイズがなく、他の店に売上を横取りされることがない。場所もとらない。グローバル戦略を前面に押し出していても、世界各国それぞれの体型に適応した地域特有バージョンも作る必要がない。洋服より流行は持続するので、ワンシーズンの終わりに、セールで売り切る必要もない。

 コストパフォーマンスのよいハンドバッグを、洋服のアクセサリーではなく、流行の中心において考えているのが「It Bag」戦法だ。鞄単体の料金を高めに設定したり、限定商品にしたりと稀少価値のある羨望対象品とする基本的なマーケティングももちろん忘れていない。更にワニ革やダイヤモンドをちりばめた高級ラインも提供して、消費者の購買意欲を刺激する。

 しかし、あまりに流行を押し付けると、消費者は反対に、みんながもっていない「自分だけのもの」に目がいく。有名ブランドも、戦略の見分け時にたたされている。

http://www.lefigaro.fr/economie/20071103.FIG000000426_le_luxe_cherche_sa_nouvelle_vache_a_lait.html


<記事解説>

 1990年代から、モード界で「いま持つべき旬のハンドバッグ」=It Bag(イット・バッグ)をつくることが、デザイナー達の新しい基準になった。ハリウッドの映画俳優やトップ・モデル、有名人がそのバックを持ち、メディアに露出。一般消費者の手の届く流行ものをつくりだし、世界中に散らばるお店で何十万個もの鞄をワンシーズンで一気に売る戦法だ。

 イブ・サン・ローランのトリビュートTribute、ダウンタウンDowntown、ミューズMuse、マーク・ジェイコブスのマライヤMariah、カミーラCamilaやクロエのエロイーズHeloise、パディントンPadingtonとファッション界を席巻した鞄がいくつもある。

 エルメスのバーキンやケリー、シャネルの2.55も、いってみればIt Bagものといえるが、何年、何十年も使われ、母から娘へと譲られるものでもあるので、他のIt Bagとは一線を画す。流行のIt Bagはワンシーズンかツーシーズンで、流行遅れとなるようにマーケティングが組まれているのだ。

 日本は、このIt Bag戦略が一番有効な市場。ブランド信仰が強く、中・高校生でも高価なルイ・ヴィトンの鞄を購入している。それに加え、有名人が身につけるものと同じ流行を追いかけることも大好きだ。日本だけであったこの現象が、今ではアメリカ、特にロス・アンジェルス、そしてヨーロッパ各国の若者の間でもみられている。パリのお金持ちの子弟が行く中学・高校の女子学生は、日本と同じように有名ブランドの鞄を何としても欲しいと親にねだっている。

 そんな時代を象徴して、流行りのバッグをレンタルする会社もフランスにある。インターネット上で、好きなバックが選べ、家まで配達してくれる。一週間単位で14ユーロから80ユーロで借りられる。一時的な流行を追いかけるためならば、これくらいの投資で十分だろう。

http://www.sacdeluxe.fr/
http://www.feelchic.fr/
http://www.sacdunjour.com/
http://www.bagborroworsteal.com/


 It Bagを象徴する鞄博物館(「Tassen Museum:The Museum of Bags and Purses」)がオランダ、アムステルダムに先月末オープンした。3500個の17世紀から現代までの流行鞄を陳列する美術館だ。時代の変遷をたどっていける。17世紀までは、男性も女性も小さなポッケで十分だった。18世紀の産業革命後、頻繁に旅行をするブルジョワ階級の台頭で、女性がハンドバッグを持つようになった。現代の女性は、書類や仕事道具を入れられる大きなバックを持つようになり、また鞄の種類も飛躍的に増えた。

http://www.tassenmuseum.nl/


 ブランドの金のなる木となったバッグ。ディオールでは、パリで販売するのはNo.1、ミラノではNo.2と限定版を販売し、さらにコレクター熱をあおっている。日本人顧客も、この戦略の犠牲となっていることだろう。

 


【関連情報】

○太田垣の鞄のリンク集
http://japanbag.com/


○ユーロツアー・ニュースブログ  2007/11/02
 アムステルダム、世界でも類を見ない『バッグ・ミュージアム』
http://euro.justblog.jp/blog/2007/11/post_7160.html


○銀座経済新聞 2007-10-02
 伊バッグブランド「フランチェスコ・ビアジア」─銀座に初の旗艦店
http://ginza.keizai.biz/headline/498/index.html


○銀座経済新聞 2007-07-09
 伊バッグブランドの「ロイド・メッシュ」、銀座に世界初の路面店
http://ginza.keizai.biz/headline/429/index.html


○シブヤ経済新聞 2007-06-25
 「キャットストリートにNYカジュアルバッグブランドの路面店」
 米カジュアルバッグブランド「マンハッタン・ポーテージ」
http://www.shibukei.com/headline/4420/


○ファッションプロデューサー・アミスターデくん
 「08年ssのコレクションでのグッズトレンドは?」 2007/11/07
http://amistade-jp.cocolog-nifty.com/blog/2007/11/post_e3a7.html


○Kaoriのマーケティングレビュー
 「バッグ、2個同時買いの理由」2007/09/23
http://kaori.blogzine.jp/market/2007/09/post_cf0f.html


○ファッション流通ブログde業界関心事
 「ブランドビジネスの常識を覆す、コーチ」 2006/09/20
http://dwks.cocolog-nifty.com/fashion_column/2006/09/post_9b3b.html


○郷 好文  マーケティング・ブレイン  2007/03/06
 「弥生・小雪さんのトート/COACH 65 TASTE」
http://marketing-brain.cocolog-nifty.com/blog/2007/03/coach_65_taste_a8c6.html


○服部 幸栄 マーケティングとブランドの話
 「ブランドづくりに大切なもの」 2007/09/07
http://yelloweagle.blog66.fc2.com/blog-entry-50.html


○trends & ideas 2005/07/24
 「倫理的消費者」の取り込みに動き出した高級ブランド
http://acorn.typepad.jp/trends_and_ideas/2005/07/ethical_consume.html


○ミツエーリンクス 実践!Webマーケティング:Blog
 「ブランド戦略のWebマーケティングによる展開」2005/03/29
http://marketing.mitsue.co.jp/archives/000015.html


○IBTimes  2007-06-21
 「仏LVMH、仏経済紙レゼコーの買収で協議」
http://jp.ibtimes.com/article/company/070621/8939.html


○K STYLE WEBSITE ::BLOG 2006/10/04
 「LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン、パリに現代美術センター建設」
http://kstyle.s57.xrea.com/archives/2006/10/lvmh.php


○Elastic: ルイヴィトンの戦略についての本 2007-09-13
 「ルイ・ヴィトンの法則―最強のブランド戦略」長沢 伸也
http://taf5686.269g.net/article/5213274.html


○Type5w4のBook Diary  書評「ブランドの条件」 2007/07/17
http://bookdiary.livedoor.biz/archives/51139448.html


○豊かになる365日読書の旅 2005/09/01
 「私的ブランド論―ルイ・ヴィトンと出会って」秦 郷次郎
http://books.happylifestyle.jp/?eid=321334

 

 


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