Entry

解任すれども、後任おらず ─どうする?CEO(最高経営責任者)の後継者選び─

  • 米国在住モチベーション・コンサルタント&コーチ 
  • 菊入 みゆき

<記事概要>

このところ、大物CEO(Chief Executive Officer、最高経営責任者)の退任が相次いだ。シティグループ(Citigroup)のチャールズ・プリンス氏、メリルリンチ(Merrill Lynch)のスタンレー・オニール氏が、ともに信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)関連の損失の責任を取って辞任、米赤十字社(American Red Cross)のマーク・エバーソン氏は、部下の女性との「個人的交際」が発覚し、事実上解任された。

ビジネスの場では、こういう事態もありうる。問題は、この後だ。どの組織もその時点では、後継者を決めておらず、新CEO決定まで手間取るなどのトラブルが生じた。

最近の調査によれば、民間企業、公共団体、非営利団体などの組織の50%は、CEOの後継者プランをたてていないという。高額な給与を支払い、組織の運命を託すポジションにもかかわらず、しかも年々CEOの在任期間が短くなり、全体に退任の件数が増えているにもかかわらず、である。

現CEOの心理的抵抗感など、いくつかの障壁が円滑な後継者育成や選抜を阻む。一方で、これらをうまくクリアし、対処している企業もある。事例から、アメリカのCEO後継者問題を見てみよう。

Wall Street Journal 11月26日
http://online.wsj.com/public/article/SB119603502237903423.html

 

<解説>

シティグループが、新CEOのハンティングを始めたのは、会長兼CEOプリンス氏が辞任した後だ。暫定的に、前米財務長官のロバート・ルービン氏が会長に、欧州シティグループ会長のウィン・ビショフ氏がCEOに任命される。新CEO選定に手間取る間に、有力候補だったジョン・セイン氏(ニューヨーク証券取引所などの運営会社NYSEユーロネクストの元CEO)をメリルリンチに取られ、人選の幅がいっそう狭まってしまう。プリンス氏辞任から1ヶ月以上たってようやく、社内のビクラム・パンディット氏が新CEOに指名された。

メリルリンチは、オニール氏辞任直後から後任探しを始め、2週間後にセイン氏を獲得。スピードは評価できるものの、人選や交渉に十分な時間をかけられなかった可能性はある。同社は、すでにセイン氏に1500万ドル(約17億円)のボーナスを支払うなど、かなりの厚遇で新CEOを迎えた。

アメリカでは、CEOを社外から選抜することも多い。社外からのCEOは、市場や新戦略の必要性はよく理解しているが、従業員や企業文化を知らない。「移行期のリスクを考えると、外部からのCEOは、内部人材の少なくとも1.5倍は優秀でないと」と、リーダーシップの専門家は語る。
ハーバード・ビジネススクールのバウワー教授は、社内での次期CEO育成を薦める。「(CEOとしての)才能を継承するという問題も含むのだから、後継者育成には3年、5年、10年という長い歳月をかけるべき。しかし、多くのCEOは目前の四半期のことに忙殺され、未来のCEO育成という大事業を無視しがち」

では、どんな組織が次期トップ育成に成功しているのか。

ゼロックス(Xerox)の例を紹介しよう。同社の社長兼CEOアン・マルケイヒー氏は今年4月に、ゼロックス生え抜きのウルスラ・バーンズ氏を社長に任命した。この人事は、バーンズ氏が次期CEOに最も近い存在であることを示すものだ。

バーンズ氏は、ビジネス・オペレーション、及び研究部門の責任者を長く務めているが、今回、マーケティング、人事その他の部門もその配下に入った。以降、バーンズ氏がヨーロッパのITビジネス統合を、マルケイヒー氏が大口顧客のケアを担当するなど、2人が協力体制をしいて同社をリードする。現CEOによる次期CEOへの、ダイナミックなOJT(on the job training、実地訓練)である。

COO(Chief Operating Officer、最高執行責任者)のポジションを、後継者育成に活用する方法もある。ソフトウェアメーカーのアドビシステムズ(Adobe Systems)では、CEOを7年務めたブルース・チゼン氏が11月末に退任、シャンタヌ・ナラヤン氏がCOOからCEOに昇格した。チゼン氏の意向により、ナラヤン氏はこれまでも、次期CEO候補として経営陣とコミュニケーションを取り、戦略策定や重要な意思決定に関わってきた。CEO職の継承は、スムーズだったと思われる。

スターバックス(Starbucks)の会長ハワード・シュルツ氏も、CEOジム・ドナルド氏を同様のプロセスで育て上げている。

次期トップ育成には、現トップの器の大きさが深く関与するようだ。「現在の」「私の」という思考の枠をはずし、「私のなき後」のことに責任を持てるか否か。誰でも、「自分が突然の死に見舞われる」だの、「退陣を余儀なくされる」だのといった可能性は考えたくない。が、それを避けていては、CEOの職責は果たせないだろう。自分がいなくなった後、会社はどうなってもいいのか。

事実、後継者問題は株価にも影響する。金融大手のヘンスラーファイナンシャルグループで、12億ドルの資産運用を手がけるパリッシュ氏は言う。「投資先の会社に、(後継者について)直接尋ねるわけではありませんが、注意して見ていますし、調べます」

このようなCEOの器や心理の問題に加え、現実的に、適任者の見定めがむずかしいという問題もある。変化の激しい今日のビジネス環境では、これまでのCEOとは違った強みや能力を持った人材が求められる。

さらに、組織の成長ステージも時間とともに変わるため、これに対応する必要もある。別な調査結果で、株式未公開の企業においては、粘り強くて、高いゴール設定をする「強い」CEOがその後の成功を導き出すことがわかっている。組織が小規模なうちはタフなトップが望ましいが、大規模になり、公的な性格を持つようになれば、また異なったリーダーが必要とされるということだ。変わりゆく組織と経済環境にあわせて、次代CEOを選別しなければならない。

さて、あなたの会社はどうだろうか。次期トップは育成されているか。現社長は、自分の在任中のことだけで頭がいっぱいになっていないか。

ここまで述べてきて、後継者問題とは、実はすべての職位に起こりうることだと気づく。我々自身、後継者を育てているか。自分に万一のことがあったら、誰が引き継ぐか。あるいは、引き継げるように、仕事は整然としているか。あるいは、自分自身が、変化する環境や組織に合わせて、新しい強みや能力を獲得しているか。

ときには、目前の仕事から距離を置き、思考の枠を取り払って、「自分がいない、この場所」という未来を考えてみたい。それは、CEOたちも避けて通りたいような、寂しい想像なのかもしれない。しかし同時に、新しい視点を獲得し、未来の地平線を広げるきっかけを作るかもしれない。

 

【関連情報】

○CNET  2006/10/03
 ジョブズ氏のいないアップルが来る日--IT企業が直面する「後継者選び」
http://japan.cnet.com/special/biz/story/0,2000056932,20259447,00.htm


○コラムニストを目指して!  2007/10/16
 【経営者の条件:PFドラッカー】を読んでみました!
http://kon1218.blog.shinobi.jp/Entry/50/


○エスマガ交響曲-不動産屋の舞台裏 「経営者の条件」 2007/12/12
http://es-maga.blogzine.jp/blog/2007/12/post_8976.html


○投資経済データリンク 2007/12/05
 焦眉の急の「大廃業時代」への対策─中小企業の事業承継
http://blog.h-h.jp/investnews/2007/12/05/%E7%84%A6%E7%9C%89%E3%81%AE%E6%80%A5%E3%81%AE%E3%80%8C%E5%A4%A7%E5%BB%83%E6%A5%AD%E6%99%82%E4%BB%A3%E3%80%8D%E3%81%B8%E3%81%AE%E5%AF%BE%E7%AD%96%EF%BC%8D%E4%B8%AD%E5%B0%8F%E4%BC%81%E6%A5%AD%E3%81%AE/
 

 

 


  • いただいたトラックバックは、編集部が内容を確認した上で掲載いたしますので、多少、時間がかかる場合があることをご了承ください。
    記事と全く関連性のないもの、明らかな誹謗中傷とおぼしきもの等につきましては掲載いたしません。公序良俗に反するサイトからの発信と判断された場合も同様です。
  • 本文中でトラックバック先記事のURLを記載していないブログからのトラックバックは無効とさせていただきます。トラックバックをされる際は、必ず該当のMediaSabor記事URLをエントリー中にご記載ください。
  • 外部からアクセスできない企業内ネットワークのイントラネット内などからのトラックバックは禁止とします。
  • トラックバックとして表示されている文章及び、リンクされているWebページは、この記事にリンクしている第三者が作成したものです。
    内容や安全性について株式会社メディアサボールでは一切の責任を負いませんのでご了承ください。
トラックバックURL
http://mediasabor.jp/mt/mt-tb.cgi/512