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お笑いブームの中で消費され、使い捨てられるコンビニ芸人、アイドル芸人

   昨年の今頃は、「2007年は、お笑いブームが終わるでしょう」としたり顔で発言するワイドショーのコメンテーターや雑誌記事で賑わっていた。

 確かに、今年に入ってテレビ朝日の「笑いの金メダル」が一桁台の低視聴率にあえぎ、テレビ番組の改変期でもない6月で放送が打ち切られた。同番組に出演していた人気芸人は、一発屋で終わってしまった者も少なくない。「テツandトモ」、ギター侍の「波田陽区」、「レイザーラモンHG」など一年限定大ブームの芸人などはその最たる例になってしまった。

 昔から急に人気の出たお笑い芸人は、事務所と番組制作会社の安易な起用法で、使い捨てられてきた。その傾向は、最近になって顕著になってきたと、「オレたちひょうきん族」などフジテレビのお笑い番組で黄金期を築き上げた、元テレビプロデューサー横澤彪氏は以下のように週刊文春11月29日号誌上のインタビューで語っていた。

 「作り手側と芸人たちが切磋琢磨して、1980年代のお笑い番組は作られていた。しかし、今は、とりあえず『小島よしお』を出しておけば視聴率が取れるという安直な考えでお笑い番組を作るから、深いレベルでのお笑い番組が存在しない」

 確かに、「チュートリアル」や「タカアンドトシ」などにテレビ業界は依存していて、レギュラーを一気に増やした2007年9月以降に、二組は生番組に遅刻するという失態を演じてしまっている。これは、「ダウンタウン」や「ウッチャンナンチャン」の人気が急上昇した90年代の現象と似ている。

 もちろん、この現象を、お笑い芸人の主役交代と見るのは時期尚早だろう。しかし、「雨上がり決死隊」や「くりぃむしちゅー」らの中堅組が深夜番組などで司会を務めるようになって数年経ったことを考えれば、次の世代へのバトンタッチをテレビ関係者も考え始めているのかもしれない。テレビの司会もこなせるお笑い芸人を育てないと、打倒、「明石家さんま」、「タモリ」、「島田紳助」、「北野武」を目指せないからである。

 さらに、視聴率稼ぎの鉄板であったダウンタウンの番組も、視聴率が一桁台に低迷していて、新しいマルチな芸人の発掘は急務となっていると思う。

 お笑い以外の仕事もこなせるお笑い芸人は、長く芸能界で生き残る確率が高くなる。それは、明石家さんま、北野武たちの大御所たちの多方面に渡る活躍を見れば一目瞭然だ。 一発屋と目されている小島よしおがトーク番組などで、小学生に大人気の芸風とは違った一面を見せるように努力しているのは、来年以降のことを考えているからに違いない。 

 だが、芸人のマネジメントサイドが誤解してはいけいないことがある。大御所たちが生き残ったのは、お笑いを極めたからだ。

 タモリは、「笑っていいとも」、明石家さんまと北野武は、「オレたちひょうきん族」など一つの番組を自らの力で長期に渡って牽引した実績がある。自分の強力なアピールポイントで視聴者を惹きつける才覚がなければ、浮き沈みの激しい芸能界の第一線で生き残るのは難しいのだ。

 そのようなサバイバルの厳しさを意識しているのは、「品川庄司」の品川だけかもしれない。相方である庄司智春との差を品川祐は、教養や文才で見せて様々な番組で活躍している。

 女性芸人も生き残りに必死だ。SM女王ファッションで人気の出た「にしおかすみこ」もトーク番組で誠実な一面を見せているし、ギャルの模写で人気の「柳原可奈子」も、軽妙なトークで、リポーターからトーク番組でのレギュラーと多方面で活躍の場を広げている。

 次から次へ新しいお笑い芸人が出てくる状況は、来年も続きそうだが、売れている芸人が今の人気を保つためには、早いうちに多様な魅力を持っていることを、視聴者に見せて飽きられないようにしなければならない。お笑いブームという波に乗って、芸能界で生き抜いていくには、ビジネスマン同様に日々の自己研鑽とマーケティング感覚が要求される。  

 

 

【関連情報】

○『テレビを消したくなる芸人ランキング(週刊文春調べ)』考察 2007/03/10
 まず、目を引くのがエンタの神様に出てくる芸人が多いこと。オリエンタルラジオが
  2位なのは意外でしたが、最近露出が多いからでしょうか?出る杭は打たれますから。
http://egoidentity.blog82.fc2.com/blog-entry-143.html


○MAMO’s
 横澤彪――テレビの“突破者”たち
  フジテレビ「オレたちひょうきん族」 「芸」の解体こそ新しい笑い
 新しい笑いは、私はテレビという特殊な装置がそれを招いたのだと思うが、こうした
  「芸」を解体させ、台本も約束事も練習もあるのかないのかわからない、さりげなく
  自然な方向へと向かうことによって、笑いを取った。そのさりげない自然な笑いこそ
  新しい「テレビ芸」と呼ぶべきではないか。こうした新しい笑いに極めて自覚的と
  思える芸人の筆頭は、ビートたけし、タモリ、明石家さんまの三者である。
http://www.aa.alpha-net.ne.jp/mamos/tv/yokozawa.html


○おわライター疾走  増田晶文『吉本興業の正体』 2007/04/13
 中田カウスの言葉。プロの芸人とは何か?
  「プロの世界にいるくせに、ずっとアマチュアのままのも意外と多いんです。だけど、
  アマが趣味を突き詰め、結果としてチャンピオンになれたら大したもんじゃないですか。
  それはそれで認めてやるべきです。けどプロを目指すのなら、芸人になりたいんなら、
  たとえM-1で勝っても、やったあ、なんて錯覚せんことです。セックスと同じでね、
  いってしまうとその瞬間にすべてが終わってしまうんです。芸みたいなもん、終わり
  があるはずないんやし、終わってしまってええもんやないんですから。芸人の世界では、
  勝ち負けが何度も繰り返されて、最後の最後に勝った者が勝者なんです。一生漫才を
  続けられた者、舞台で死ねた者が本当の芸人です」
http://owa-writer.com/2007/04/post_18.html


○ナゴヤ エレキング ブログ 『吉本興業の正体』増田晶文  2007/05/02
 資料等から再構成した吉本の創業時から隆盛期に至る歴史の部分が全体の約半分、
  長期に渡る社内外の関係者へのインタビューを基に吉本の現況を丁寧に解き明かして
  いく部分が残りの半分といったところか。
http://www.eleking.x0.com/blog/archives/2007/05/post_516.html


○80年代後半─90年代前半を回顧するブログ
  「吉本天然素材にみる芸人のジレンマ」 2007/05/08
 1年ほど前、次長課長の河本がラジオでこんなジレンマを語っていた。
  「お前に食わすタンメンはねぇ!」で人気が出てきましたけど、実際この元ネタと
  なっているのはジャッキーチェンの酔拳にでてくるオヤジなんですよ。酔拳といえば
  ジャッキー映画でもかなり初期のコアな部類の作品で、これを観たことあるとなると
  年齢も絞られるし、ほぼ男に限られるはずなんですが、これをみて喜んでくれるのは
  若い女性のお客さんがほとんどなんですよね。元ネタなど関係なしでTVで何度も
  観ているうちに興味を持っているだけじゃないですかね。だからこのお笑いブームに
  甘んじていたら足元をすくわれるんですよ。」
http://sskkyy81.blog4.fc2.com/blog-entry-249.html


○系図でみる近現代 「第38回 吉本興業」 2007/04/20
http://episode.kingendaikeizu.net/38.htm


○Adv.blog  2002/11
 「現代的対人コミュニケーションにおける共通認識の大切さと笑いの共感性との関係」
http://d.hatena.ne.jp/advblog/20051230/p1


○松岡正剛の千夜千冊『カリカチュアの歴史』トーマス・ライト 2001/01/09
 今日の日本でビートたけしを頂点とする芸能界が何をしているかを見れば、
  以上の原則はすべていまだに繰り返され、いまだに研鑽を続けているのだと
  いうことが、よくわかる。明石家さんまも羽賀研二もデビ夫人も叶姉妹も、
  まさに中世的カリカチュアの餌食であり、愚者であり、英雄なのである。
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0204.html


○TERAINFORMATION 2007/08/07
 小島よしおの「オッパッピー」誕生に関するエピソード
http://terainfo.seesaa.net/article/50568948.html 


○WEB2.0的生活 「小島よしお」 2007/08/26
http://web2.g-fan.jp/2007/08/post_133.html

 

 


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