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不動産投資ブームの中、人気のゲート・コミュニティは「壁で囲われたユートピア・タウン(?)」

公園、ジム設備、カルチャーセンター、スーパーマーケット、プール、銀行のATMサービスにバール。生活に必要な施設はほとんど整っている。敷地内の移動は車が中心。警備員が馬で敷地内を見回るところもあるという。周りは高い鉄パイプの柵で囲われており、中に入るには銃を持った警備員が常駐するゲートを通り抜けなければならず、住民、もしくは管理人の許可なしには入れない。


これは、現在リオデジャネイロで盛んに建設されている、「コンドミニアム」と呼ばれる集合型のマンション群、もしくは住宅街だ。リオデジャネイロでは、年々治安の悪化が指摘されている。安くはない管理費を支払ってでも、24時間警備のこの住宅施設が人気を呼んでいる一番の理由だ。特に家族向けに、小さな子どもたちが「危険な社会を知ることなく世界を楽しめてしまう」場所としての売り出しが多い。プレイルームや保育園の設備を、大々的に広告に押し出す、「安全なコンドミニアム」をアピールしているのだ。


70年代から建設されてきた従来の「コンドミニアム」は、娯楽施設などの規模が小さく、高値の物件が多かったため高級住宅地のようなイメージがあった。近年では、市街から離れたところに建設されるのが一般的で、中心街に比べ比較的安い「コンドミニアム」の物件を好む人が多い。また、中心街から少し離れた広大な土地を利用するため、都市からの疎外感が指摘されてきた。しかし、近年の「コンドミニアム」はその問題を解消したと大きく宣伝している。「コンドミニアム」の前にバス停を誘導し、すぐ側にはタクシー停留所を置く。中心街から、専用のバス路線を提供するところもあるという。


リオデジャネイロ中心街から車でおおよそ40分。バッハ地区の「Rio2」と呼ばれる「コンドミニアム」には、現在28の大型マンションが立ち並ぶ。2014年までには、さらに20のマンションが建設予定だという。「Rio2」のすぐ隣にある「Cidade Jardim」と合わせて、約100万平方メートルの敷地を持つ。住人たちは「お出かけは、自分のマンションの庭での散歩」「きれいに舗装され、ゴミの落ちていないきれいな道路」「スリ、強盗の不安なく歩ける」と、「ユートピア・タウン」生活を満喫する。


ブラジルは現在不動産ブームを迎えているといわれるが、この「コンドミニアム」も一役買っている。不動産価格は上昇傾向にあるのに、2007年1月から7月までの7ヶ月間で、ブラジル全体で9万8千757件もの住宅ローン契約がなされた。これは、2006年全体の数値に匹敵し、2002年合計の約3倍になる。


主に「コンドミニアム」購入者をターゲットにした、長期返済の住宅ローンの新設も相次いでいる。住宅ローン金利の低下、国民の所得向上とあいまって、不動産購入者の増加に拍車をかけている。また、企業、個人の不動産投資も増加している。アメリカ・シカゴの「不動産王」サム・ゼル氏が、リオデジャネイロを中心に投資を拡大したニュースも注目を浴びた。今後ますますの不動産ブームが予測されている。


「お金のある者のみが生活できる城壁タウン」との批判もある。街の治安改善をあきらめ、自分達だけのユートピアをつくり、隠れ住む場所を購入した者への鋭い意見だ。しかし、大型「コンドミニアム」の内部では、社会運動への参加を呼びかけるグループも存在し、今後の展開に期待したいものだ。

 


【関連情報】

○on the ground 「gated communityとリバタリアニズム」2007/07/11
http://d.hatena.ne.jp/kihamu/20070711


○Arisanのノート 「貧者のゲーテッド・コミュニティ」 2006/06/19
http://d.hatena.ne.jp/Arisan/20060619/p1


○情報の駅:都市生活ブログコミュニティ 
 「イギリス ゲーテッド・コミュニティ 最新事情2」2007/05/15
http://www.info-station.net/blog/blog/entry/297.php


○多様性都市建築研究所 
 「ジェイン・ジェイコブズの都市論について」 2006/08/16
 ジェイコブズが提示した都市的多様性を生成する「4つの条件」は大変有名であり,
 今日に至るまで,都市計画,建築,経済学などの専門家によって,頻繁に
 引用されています。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/i-c-d-a/jacobs01.html


○CNET 「ジェーン・ジェイコブズ追悼」 2006/05/22
 都市計画の要は固定された完成を目指すことではなく、そこに暮らす人々を
 幸せにする、常に変化しつづける健全な都市を育てることだとJacobsは
 理解していた。
http://blog.japan.cnet.com/lessig/archives/002839.html


○都市をたたむ技術 2006/05/01
 「ジェーン・ジェイコブスの死と生」
http://shinaiba.cocolog-nifty.com/toshitatami/2006/05/post_f4f0.html


○分裂勘違い君劇場 「西暦2026年の日本」 2006/04/09
http://d.hatena.ne.jp/fromdusktildawn/20060409/1144582846

 

 


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