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『住みやすさ』に翳り。バンクーバーのもう一つの顔(治安悪化、薬物蔓延)


「浮浪者が集まる『バンクーバーイーストサイド』の
ビジョンパーク。この日は高校生による清掃
ボランティア活動が行われていた」

(記事概要)

 「またか」市民のため息が聞こえた。11月6日バンクーバーで今年に入って17件目の発砲事件が起こった。ここ最近頻発するギャングが絡んだ発砲事件に市民は不安を募らせている。

 8月9日早朝、中華レストランに入ってきた覆面の二人組が食事をしていた客に向かって発砲。2人が死亡、6人がケガを負った。

 この事件を皮切りに11月6日までの3カ月間で10件の発砲事件が相次いで起こっている。特徴はいずれも公共の場での堂々の発砲ということ、ターゲットとされた人物は警察がすでにマークしている要注意人物であるということだ。特定の人物を狙った犯行ではあるが、一般の無関係な市民が巻き添えとなっていることに事態は深刻化している。

(2007年11月21日)
The Vancouver Sun:
BC州で最も発行部数の多い一般紙。徹底した地域密着型の内容に定評がある。

 

(解説)

 9月8日にはハイエンドな地域で知られるバンクーバーのキツラノ地区にあるレストランで、10月19日には巻き添え2人を含む6人が一般の高級アパートで、11月3日には閑静な住宅街の歩道で、そして11月6日にはダウンタウンから空港を結ぶメイン道路でと、いずれも公共の場で発砲事件が起こっている。

 事件のほとんどが未解決のままだ。カナダは日本と同じく銃の所持は認められていない。そのため、銃犯罪が頻発することは少なく、今年のケースは極めて異例である。ギャングが絡む組織犯罪が最近増加していると感じている(市民の約85パーセント)とのアンケート調査も出ている。

 この非常事態を受けてバンクーバー市警は連邦警察(Royal Canadian Mounted Police)と協力して特別部隊を作り、これらの凶悪犯罪解決と防止に向けて動き出した。

 こうした銃犯罪以外にも、今年はスカイトレイン(バンクーバーと近隣都市を結ぶモノレールのような乗物)の駅付近で、相次いで女性が襲われるという事件が起こった。犠牲者の一人はいまだ意識が回復しておらず、犯人も捕まらないままという状態だ。

 このスカイトレインに関しては以前から安全性について問題視されていた。コンピューター自動制御で作動するこの乗物には乗務員がおらず、しかも駅には改札口もない。どの駅も無人である。そのため、夜になると麻薬やマリファナなどの売買が堂々と行われ、犯罪の温床となっているという指摘があった。

 最近ではこれを改善するため、駅には警備員を常駐させ、車両にはときどき警察が不正乗車と不審人物をチェックするために乗ってくるようになった。少しずつ改善しているとはいうが、それでも一向に犯罪は減らない。

 そこにはバンクーバー独特の事情もある。バンクーバーは知る人ぞ知るマリファナ天国で、その使用率も栽培率もカナダトップである。国連の調べによると、カナダはマリファナ使用率が、個人使用のためのマリファナ所持が合法であるオランダ(6.1%)を圧倒的に引き離し、先進諸国ではダントツの1位(16.8%)、世界でも5位という不名誉な実績を持っている。そのトップがBC州、バンクーバーというわけだ。マリファナ栽培も後を絶たず、これらが犯罪に結びついていることは以前から指摘されていた。一連の銃犯罪もマリファナをはじめとする薬物が絡んでいる。

 もうひとつバンクーバーが薬物天国であるという事実を証明するものがある。それが、連邦政府とバンクーバー市公認の『薬物投与施設』の存在である。北米では唯一、世界でもアムステルダムとバンクーバーだけと言われている施設である。これは、バンクーバーダウンタウンの東側、俗に『ダウンタウンイーストサイド』と呼ばれる地区にある。ここはバンクーバーの中でも危険区域とされ、観光ガイドでは絶対に近づかないようにと注意書きがある場所である。

 この地区一帯は浮浪者や麻薬中毒者などのたまり場となっていて、犯罪の温床にもなっている。通りは汚く、昼間でも娼婦が歩き、道ばたには使い古された注射器が落ちているという状態だ。HIV感染者も多い。

 そこで市が『薬物投与施設』 “Injection Site”を設立し、医師や看護師など医療の専門家を常駐させ、正しく清潔に麻薬を打つ方法を教え、徐々に中毒から解放していくという政策を始めた。2003年9月に開設したこの施設は、今秋さらに3年半の延長が決まった。年間約8000人が利用するこの施設の運営には、年間約2百万ドル(2億2千万円:1カナダドル=110円換算)が費やされている。

 この地区は、バンクーバーの観光名所ガスタウンやチャイナタウンに隣接していることもあり、市としては2010年のオリンピックまでにはどうしても解決したい問題地区でもある。

 こうしてみると、清潔で美しいバンクーバーのイメージとは全く違うもう一つの顔が見える。

 前回、『世界一住みやすい町』を決定する項目の中に、犯罪発生率が低いことが大きなポイントになっていると紹介した。そうすると、来年バンクーバーがトップの座を守れる可能性はかなり低いように思う。それ以上に、住んでいる私たちが住みやすいと思わなくなっているのに『世界一』というのが腑に落ちない。


 この『世界一』の称号は誰のためのものなのか? 『住みやすさ』とは何なのか? 考えさせられる今年の結果だった。

 


【関連情報】

○MediaSabor  2007-12-05
 『世界一住みやすい町・バンクーバー』の称号に異議あり!
http://mediasabor.jp/2007/12/post_279.html

○カナダローカルニュース 2007-12-13
 「市内のガソリンスタンドで警官が男性を射殺」
http://news.go-qic.com/archives/51223689.html


○カナダローカルニュース 2007-01-27
 「“ドラッグにはドラッグで“ バンクーバー市長の画期的プランへ」
http://news.go-qic.com/archives/50674095.html


○eureka! NEWS 2007/10/19
 「看護師付きで捕まらない合法安全な麻薬注射部屋を検討中
    ――米サンフランシスコ」
http://eureka-i.jp/news/2007/10/0710194209.html


○カナダ バンクーバー 英語の拾い読み
 「アジア人女性はねらわれている」 2007/12/17
http://vancouver-skim.seesaa.net/article/73145391.html

 

 


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