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東京浅草の花街に西洋人初の芸者誕生

<記事要約>

オーストラリアのメルボルン出身の社会人類学者が、西洋人として初めて、400年の歴史がある日本の芸者の世界で認められた。フィオナ・グラハムさんの日本好きは、交換留学生として訪れた15歳のときに始まった。

芸者としての訓練を受けることを決意する前には、日本の慶応大学、さらにオックスフォード大学で学んで博士号を取得している。4月にトレーニングを開始したグラハムさんは、芸を身に付けるために、日本舞踊や茶道、会話、化粧と着付け、さらに尺八を習い、「紗幸(さゆき)」という芸名で、12月に芸者としてデビュー。客に料理や酒を出し、音楽や踊り、会話でもてなすことが求められる2時間の「お約束」で約A$315を稼ぐ。

2008/1/8 SBS World News Australiaより


<解説>

今から100年以上前に活躍していた噺家に、オーストラリア生まれの初代快楽亭ブラック(1858-1923)がいる。1903年2月にイギリスの録音技師ガイスバーグが来日した際には、日本初のレコード録音に協力し、自身の落語や浪曲も吹き込んでいる。7歳から日本育ちで、後に帰化したとはいうものの、外国人が高座に上ることを受け入れる懐の広さが明治時代の日本にはあったのだ。

最近は芸術やスポーツをはじめ、さまざまな分野において、日本人も海外で活躍するようになったけれど、どんな世界でも、「よそ者」である外国人が真に受け入れられるまでの道程は険しい。先例がない場合はなおさらで、言葉や文化の違いを乗り越えていく本人の意志と努力はもちろんのこと、受容する側も寛容さと共に相当の覚悟が必要になる。

グラハムさんは、外国人だからと訓練中に特別扱いされたことはなく、師匠や先輩は自分の日本語が完璧でないことを忘れて、頻繁に自分を叱ったと思うと語っている。本人も周りも、「外人だから仕方がない」と壁を作らなかったことが、道を開くことにつながったのだろう。

「オーストラリア人が芸者になった」というニュースは、日本よりもむしろ海外で驚きを持って受けとめられたらしい。イギリスの新聞には、「芸者は芸は売っても、身は売らぬ」という注釈付きで報じられ、東京に6つある花街のひとつ、浅草でデビューしたと紹介されていた。

折しも日本では、東京浅草組合所属の芸者衆がインターネットを通じた確定申告「e-Tax」の講習会に参加し、花柳界も電子化というニュースが流れていた。同組合では、低価格で花街体験ができる「お座敷入門講座(http://www.gnavi.co.jp/asakusa/htm/nyumon.htm)」も開催している。

伝統やしきたりを重んじる世界だって、時代の変化と無関係ではいられないのに、「ゲイシャ」に代表されるエキゾチックで謎めいた日本像は根強く残っている。日本発のポップカルチャーが世界各地で注目されるようになった今でも、外国映画に登場する日本のイメージは、たいていの場合、表面的にステレオタイプをなぞるだけにとどまり、オリエンタルっぽくはあっても、実像とかけ離れた「なんちゃって日本」だ。

デビュー後も毎日数時間のお稽古を続けている紗幸さんことグラハムさんは、その傍ら、外の世界に芸者の世界を伝えるべく、花街の経験を映像に収めているという。

多感な10代後半から20代前半を日本で過ごしたからには、もはや日本に幻想を抱いたりはしていないだろうし、期待されるイメージに沿って、過剰に脚色して神秘化することもないだろう。国内外の大手メディアのドキュメンタリー番組制作に携わったり、ジャーナリストとして寄稿したり、といった経験を持つ多才な彼女が、内側の視点から、芸者としての日常をどのような切り口で描き出すのか興味深い。

○あさくさ、げいしゃ。
http://www.asakusageisha.com

 


【関連情報】

○浅草花柳界
http://www.gnavi.co.jp/asakusa/index.htm


○松岡正剛の千夜千冊『日本花街史』明田鉄男 2002/03/11
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0494.html


○成宗便り 「芸者遊び」 2007/01/19
 今日は向島の「櫻茶や」へ繰り出して芸者遊びです。昔は新橋や柳橋、
 神楽坂の花柳界と比べて少し格落ちといわれた向島ですが、なかなか
 どうして艶やかなもんです。
http://blog.goo.ne.jp/kawada-takeo1934/e/1b53e41b56ecb21e332eceae1abdad94


○じゃのみちはやぶへび 「初めての芸者遊び」   2005/11/24 
 今日は特別に「着物で楽しむ江戸の遊び」ということで、料亭のお座敷で
 食事をしながら芸者遊びを体験するというイベントがあったので、
 それにも参加。芸者遊びなんて、この先も体験できないと思うし、今日は
 ほんとに貴重でめちゃくちゃ楽しい経験ができた。半玉さんだの、
 芸者さんだの、幇間(たいこもち)だのって、落語の世界でしか知らなかった
 人たちが目の前で芸をみせてくれて、お酌はしてくれて、お座敷遊びを
 やらせてくれるなんて!!
http://blog.livedoor.jp/moegi0404/archives/50261336.html


○J a P a G a b l o g  「フジヤマ ゲイシャ」 2006
 このたび私が装丁と装画を勤めさせていただきました
 「芸者論」-神々に扮することを忘れた日本人-(岩下 尚史 著)
 という本が雄山閣より出版されます。おそらくほとんどの日本人が
 芸者について何の知識も持たない今日、昔ながらの水商売女としか
 思っていない人も多いはず。芸者に対しての誤解と無知はこの本を
 読んで拭い去ってください。
http://japaga.seesaa.net/article/26254154.html


○谷川恵 若旦那のお座敷入門 お客様は神さま 2007/01/21
 こんばんは、若旦那です。面白い本を読みました。
 岩下尚史『芸者論 神々に扮することを忘れた日本人』雄山閣、です。
 なにが面白かったかといいますと、宴会の起源を神事に求めているんです。
http://blog.kansai.com/megumu/378


○及川的大人のブログ 2008/02/05
 「第20回和辻哲郎文化賞は岩下尚史と伊藤邦武」
 岩下尚史さんの受賞作「芸者論」は、折口信夫の芸能論などを背景に、
 江戸の吉原、深川、新橋など花柳界の変遷や芸者が社会に果たした
 役割を描写。
http://blog.livedoor.jp/charmig/archives/51265740.html


○バナナン・ロマンス
 さゆり〈上・下〉/アーサー・ ゴールデン  2007/09/18
 この映画は不発?に終わったらしいですが、遅ればせながら原作を
 読んでみました。正直、アメリカ男性作家が書いたの?と最初は
 信じられなかった、それほど上手い当時の花柳界の描写には驚きました。
http://banananromans.blog55.fc2.com/blog-entry-126.html


○In one's Room  2006/02/04
 読書「さゆり」上下巻 アーサー・ゴールデン 小川 高義 (翻訳)
http://inroom.blog5.fc2.com/blog-entry-181.html


○Memoirs of a Geisha-Trailer(YouTube映像 02:31)
http://www.youtube.com/watch?v=EUqiU8ya5co&feature=related


○Kyoto Gion Corner-Kyomai (Kyoto Style Dance) #2(YouTube映像 00:37)
http://www.youtube.com/watch?v=sXnaVmQ25Dk&feature=related


○Kyoto, Japan Geisha tour(YouTube映像 04:34)
http://www.youtube.com/watch?v=Be3b9CQxEjw&feature=related

 

 


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