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「生涯変わらぬ愛」の研究 ―それは、「ありえない」から始まった―

  • 米国在住モチベーション・コンサルタント&コーチ
  • 菊入 みゆき

恋愛感情というものは、すべからく消えていく。のだそうだ。心理学の分野では、ロマンティックな愛情はいずれ薄れることが確認され、また、ある社会学者は、2,000組の夫婦を17年間調査した結果、結婚の幸福感は最初の10年間で急降下し、その後はゆるやかな下降線を辿るという結果を得た。

しかし、これら心理学的、社会学的な恋愛の法則に背くケースが、世間には存在する。結婚して10年以上たっても、熱い恋が冷めず、夫や妻を見るたびに胸が高鳴り、少しでも離れると無性にさみしくなる。恋愛の高揚感を、同じ相手に対して持ち続ける人たちが、少数だが、いるのだ。

「なぜそうなる? 確率的誤差か? それとも自己欺瞞か? ありえないはずだ」
そんな科学者としての疑問から、ストーニーブルック大学の社会心理学者、アーサー・アーロン博士は、レアケースである「生涯変わらぬ愛」に興味を抱き、研究を続けている。脳の解析を活用した、恋愛研究の最前線を見てみよう。
 
2008/2/8  Wall Street Journalより


「恋は冷める」と、科学者から正面きって言われると、寂しさを覚えつつも、「そうか、やっぱり」と納得したりする。しかし、その寂しい納得感をかき乱すのが、「恋愛的に特別な人たち」の存在だ。アーロン博士でなくても、「なぜ?」と言いたくなる。

ニューヨーク州のアン・タッカーさん(39歳)は、11年連れ添う夫(64歳)と今も恋人同士といえる関係を保っており、スーパーマーケットでキス、レストランでキス、信号待ちの車の中でキス、という熱愛状態にある。

アーロン博士は、神経科学者のブラウン博士らとの協働により、アンさんの脳をMRIでスキャンした。すると、夫の写真を見たアンさんの脳は、恋愛状態で活発化する腹側被蓋野(ふくそくひがいや)が「熱狂的な反応」を示した。快感に関係する脳内物質、ドーパミンが多く存在する箇所だ。

アンさんは確かに、脳も恋する状態になっていたのだ。解析したブラウン博士は、「ショックを受けた」と語る。本人はそのつもりでも、脳は違うだろう、と予測していたからだ。他にも、長期恋愛状態を保持する4人の男女をスキャンしたが、やはり連れ添いの写真に、恋する脳の動きを示した。

アンさんの脳内で、もう一箇所活発に動くところがあった。それは、野ねずみなど一夫一婦制を守る動物の研究で、「特定の相手との長期間の結びつき」に関わるとみられている箇所である。
つまり、「恋愛的に特別な人たち」は、新鮮で燃えるような恋の感情と、長く続く穏やかな愛の両方を、同じ相手に対して抱き続けるのだ。

そのようなことが、どうして起こるのか。体質なのか、相性の問題か、なにか秘訣でもあるのか。アーロン博士は、研究を鋭意継続中だ。我こそは、というボランティア被験者たちも登場している。ぜひ、恋愛継続の秘密を明らかにしてほしい。

研究の成果によっては、将来、「生涯この恋を貫く」内服薬とか手術などの処置が、現実のものになるかもしれない。結婚式では、「生涯変わらぬ愛を誓います」と宣誓する代わりに、新郎新婦が同時に薬を飲むのが習わしになったり、中には、「いや、僕の愛は、薬なんかに頼らない」と抵抗する人がいたり、その結果、やはり後で夫婦関係がまずくなって、「だから、あの時、ちゃんと薬を飲んでって言ったのよ!」と奥さんが激昂したり。秘密が解き明かされたとしても、恋愛周辺は騒がしそうではあるが。

さて、この記事を読んで、「恋ってどんな気持ちだっけ?」と思った方は、下記のアンケートに答えてみよう。アーロン博士が研究に用いている、情熱愛尺度(Passionate Love Scale)という質問群からの抜粋だ。空欄にパートナーの名前を入れ、それぞれの文章が、どれだけあなたの心情に当てはまるかをみる。


もし[   ]が去ってしまったら、私は深い絶望に陥るだろう。
私は、[   ]のことを思うあまり、思考をコントロールできなくなることがある。
私は、他の誰といるよりも、[   ]といたい。
[   ]が他の誰かと恋に落ちることを想像すると、嫉妬を感じる。
私は、[   ]のすべてを知りたいと願っている。
[   ]が私に触れると、体が反応するのを感じる。
[   ]には、私の考えていることや抱えている不安、希望など、私のことを知ってほしい。
私は、[   ]が私を欲しているというサインを、熱心に探している。

それぞれの項目について、「まったくその通り」の9点から、「まったく違う」の1点までの間で採点し、合計点を求める。合計点が満点の約8割以上であれば、非常に情熱的、と診断されるようだ。上記8問で言えば、56点以上というところだろうか。
喜びも大きいが、切なさや苦しみも大きい恋の病。一生かかり続けるというのは、やはり、かなりすごいことに違いない。

記事サイト
http://online.wsj.com/public/article/SB120243044114252137-bfvURMsd6QYudN5Stzp8MCu1le8_20080309.html?mod=tff_main_tff_top

 

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○SUITEN  2007/10/17
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○茂木健一郎 クオリア日記 「そこにフォーカスを与え続けると」2007/04/04
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○WIRED VISION  2007/09/28
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 書評─脳の中の「私」はなぜ見つからないのか?
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○Nothing Upstairs 「助平が大手を振る世の有難さ 楚材」2008/01/15
 オビ……いやこの本の場合にはコシマキですかね,に
 「元祖バイアグラはこれだ!」とあるが,さすがは天下泰平の
 江戸260年,教科書には載らないがそっち方面の文化も夜ごと
 咲き乱れていたのである。
http://blog.goo.ne.jp/xemem/e/cc4babdb6f2efd4b8640a950da84a8d7


○Freezing Point  2007/03/15
 斎藤環 「脳はなぜ心を記述できないか」 講演レポート
http://d.hatena.ne.jp/ueyamakzk/20070315

 

 


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