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資源大国は環境大国になれる? 世界最大の太陽光発電施設建設を謳うオーストラリアのポテンシャル

<記事要約>

年間40万トンの温室効果ガス削減が見込まれる、世界最大かつ最も効率的な太陽光発電施設が、オーストラリアのヴィクトリア州に建設される。

4億2,000豪ドル(約400億円)の費用をかけた発電所は、2013年に完成すれば、4万5,000世帯にクリーンエネルギーを供給するために十分な電力を生み出すように設計されている。

ペニー・ウォン気候変動・水資源相は、連邦政府及び州政府、産業界の協力によって、来年建設が着工されれば、スワン・ヒル、ミルデュラ地域で約1000人の雇用が創出されることになると話し、このソーラー・エネルギー事業の立ち上げに合わせて、オーストラリアが京都議定書の目標を達成する軌道上にいることを示す「レポートカード」を公表した。

報告書によると、2020年のオーストラリアの排出量は1990年レベルの120%増―前ハワード政権による2006年の予想より3,800万トン減少―とされている。

2008/2/25 SBS World Newsより


<解説>

1996年にはわずか45メガワットに過ぎなかった国際エネルギー機関(IEA)加盟国の太陽光発電の導入量は、2006年に1,515メガワットに達した。国別の累積導入量は、1位ドイツ(2,863MW)、2位日本(1,709MW)、3位アメリカ(624MW)の順で、全体では、10年の間に実に23倍以上増えている。太陽電池の生産企業としては、シャープ、京セラ、三洋電機、三菱電機の日本のメーカー4社で、シェアの約半分を占める(IEA Photovoltaic Power Systems Programmeの2006年データより抜粋)。

転換期にさしかかっているとはいえ、太陽光発電ビジネスにおいて、長い間日本は世界をリードしてきた。

対照的に、「掘れば何か出る」と言われるほど、天然資源に恵まれているオーストラリアは、国内産出の化石燃料による安価なエネルギーを享受してきたがゆえに、再生可能エネルギー分野で遅れを取ってきたともいえる。世界最大の石炭輸出国だけに、石炭による発電量は全体の約8割を占め、「国民一人当たりの温室効果ガス排出量世界一」という不名誉なレッテルまで貼られてしまった。

先進国全体で2008から2012年の温室効果ガス排出量を1990年比で5%削減することを目指している京都議定書は、各国の事情に応じて、8%減(EU全体)から10%増(アイスランド)まで、さまざまな目標値を設定している。オーストラリアは、8%増というかなり緩い数値目標を獲得した。にも関わらず、ハワード前政権がかたくなに批准を拒んだのは、中国やインドといった排出量の多い発展途上国が規制外であることに対する反発もあるが、石炭業界からの抵抗や、好調な経済に対する影響の憂慮といった資源大国ならではの特殊な事情からだ。

ところが、総選挙に勝利して、昨年暮れに誕生したラッド新政権は、公約通り、しかも実にあっさりと京都議定書を批准。連邦議会の承認は必須でなく、事実上の条約批准権を持つ首相が、就任宣誓のわずか数時間後に正式文書に署名したことによって、「直ちに地球温暖化に取り組むべき」という国民の多数派意見に真っ向から応えるスピーディーな展開となった。新内閣発足と同時に新設された気候変動担当相には、マレーシア生まれの中国系移民で39歳の女性ペニー・ウォン氏が就任し、アジア系初の閣僚として話題を呼んだ。

同日にインドネシアのバリ島で開幕した「国連気候変動枠組み条約締約国会議」(COP13)にも、同相や環境相のみならず、首相自らが出席したことで、オーストラリアの方針転換は、国際社会にも強く印象付けられたように思う。

直前には、南アフリカのケープヨークで開催されていた「地球観測サミット」に関連して、地球で最も日当たりのいい場所は、太平洋の中央部やニジェールのサハラ砂漠、それからオーストラリアのほぼすべて、という報道があった。22年間の衛星データに基づいて作成された地表に到達する太陽放射量で色分けされた世界地図が、その科学的根拠になっている。

乾燥した広大な国土を持つオーストラリアが、太陽光発電分野において世界をリードする潜在的なチャンスを秘めていることは疑いようがない。問題は、資源大国のこの国にその気があるかどうか、なのかもしれない。

近年の太陽光発電に関する動きで注目されるのは、大規模施設が続々と整備されつつあることだ。世界の大型太陽光発電施設ランキングを発表しているpvresources.com(http://www.pvresources.com/en/top50pv.php)によると、上位10位のうち5つはスペイン勢が占めていて、その大半が10メガワット超クラス。現時点での世界一は、スペインのフミージャ地方にオープンした23メガワットの発電所となっている。

ヴィクトリア州に建設されるのは、それをはるかに上回る154メガワット。日本最大級の太陽光発電施設シャープの亀山工場(三重県亀山市・5.2MW)と比べると、約30倍の規模となる。

実は、同じ週に、やっぱり「世界最大規模」と謳う太陽光発電所がアメリカのアリゾナ州に建設されることが発表された。何でもそちらは280メガワットで、7万世帯に電力供給ができるのだそう。……なーんて言ってる間にも、また世界のどこかで、さらに大きな太陽光発電施設の計画が発表されているかもしれない。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○PLANET EARTH trailer(YouTube映像 01:07)
http://jp.youtube.com/watch?v=KvdBcmHagW8&feature=related


○ECO NEWS DIGEST 2008/03/12
 「オーストラリアが世界最大のソーラー発電プラントを建設へ」
http://econewsdigest.seesaa.net/article/89346507.html


○CNET  「急成長する太陽エネルギー産業に潜む環境破壊」 2008/03/11
http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000056020,20369158,00.htm


○CNET   2007/10/31
 「グーグル、再生可能エネルギーの自給促進へ--2012年までに50メガW」
http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000056020,20359988,00.htm


○ソフトエネルギー 2008/02
 「太陽光発電2007年実績で、Q-Cellsがシャープを抜き世界一に」
http://greenpost.way-nifty.com/softenergy/2008/02/qcells_1fe1.html


○WIRED VISION  2008/03/06
 「インクジェット印刷の安価な有機薄膜太陽電池、年内に商品化へ?」
http://wiredvision.jp/news/200803/2008030623.html


○ITmedia News  2008/02/29
「iPod充電器にも─フィルム型太陽電池の柔軟な活用法」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0802/29/news116.html


○百式 2007/06/12
 太陽電池でごみを圧縮するゴミ箱『Seahorse Power』
http://www.100shiki.com/archives/2007/06/seahorse_power.html


○GIZMODO 進歩する「プラスチック太陽エネルギー」 2007/07/24 
http://www.gizmodo.jp/2007/07/post_1918.html


○Business Media 誠 「米国が最近、温暖化問題に熱心な理由」2007/07/02
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/0707/02/news008.html


○DesignWorks 2008/01/27
 「地球温暖化の影響を受ける世界の地域が分かるマグカップ」
http://designwork-s.com/article/80953164.html

 

 


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