Entry

カナダファッションウィーク2008 現地取材リポート

 世界4大コレクションといわれるのがニューヨーク、ロンドン、ミラノ、パリ(開催時期順)。東京はこれらに次ぐという評価を受けているが、同様の評価を受けているコレクションはほかにもある。

 ブラジルのサンパウロは近年勢いづいているし、ロシアや中東でもモードの祭典は開かれている。そして、今回、私が足を運んだカナダのトロントとモントリオールでは、地元デザイナーやブランドが独自のファッションを発信している。


トロント・ファッションウィーク会場内

 実は、今回が初めてのカナダ出張だった。カナダファッションの2大発信地はトロントとモントリオール。ちょうど東コレの終了後まもなく、カナダ・ファッションウィークが始まった。

 そもそも、カナダのファッションとはどんなものか?

 多くの人が想像するのが、カナダ=大自然。その連想で言えば、ファッションにおいては、アウトドアや毛皮・皮革製品がイメージに近そうだ。そのイメージはおおむね当たっている。加えて、ヨガやランジェリーなどの日常的に使えて、機能性に優れたウエアも生み出している。


トロント・ファッションウィーク会場内

 トロントとモントリオールはともにカナダを代表する大都市。そのそれぞれでファッションショーが開催された。

 同じカナダでもこの2つの都市は全く違う。トロントの名前は、ネイティブ・カナディアンのヒューロン族の「トランテン(人の集まる場所)」から由来する。言語で言えば、英語圏に属する。米国ニューヨーク州にも近く、高層ビルが建ち並び、ミュージカルやオペラなどのエンターテインメントも盛んだ。

 一方、モントリオールはフランス語圏。パリに次ぐ世界で2番目に大きいフランス語圏の都市だ。フランス語の「ジョワ・ド・ヴィーヴル(人生楽しく)」がモットーで、時間の流れもゆったりとした感じだ。街には歴史を感じさせる建物が建ち並ぶ。

 聞くところによると、建物のどこか1%に、必ずアーティストに作品を作ってもらう法律があるのだとか。だから、個人の建物でも、必ずオブジェのようなアート作品が見られ、街を歩いていても美術館をめぐっているような錯覚すら覚える。


トロント・ファッションショー


  
トロント・ファッションショー

 トロントで実際にショーを見て驚いた。それまで想像していたイメージとはかなり異なっていたからだ。

 日本での知名度がまだあまり高くないことから、デザインの洗練度や縫製の丁寧さはどうなのか、興味を持っていたのだが、むしろなぜこのクオリティーで世界市場に一大勢力を築いていないのかが不思議に思えるほどの出来栄えだった。4大コレクションで見られたような、クラシカルでエレガントな作品も数多くランウェイに登場し、カジュアルと言うよりはむしろモダンでスタイリッシュな印象を受けた。


トロント・ファッションショー

 逆に、予想通りの完成度を確認できたのが、カナダが得意とする毛皮やレザーを使ったコレクション。革やファーと布帛とのコラボレーションで縫製のテクニックも見せつけた。

 クオリティーの割に値段がこなれているのは、ファーやレザーを着る文化として培ってきたカナダならでは。老舗の縫製工場や、昔ながらの優秀なお針子さんたちが国内に多く、質とコストの両面で貢献しているという。

 細かいディテールが施されたアイテムが多く、手先の器用さを物語る。そういった人たちに支えられて、「メイド・イン・カナダ」の伝統が守られているのだ。市井の匠がモードを支えているという点では、ある意味、日本に通じるとも感じた。

 毛皮ファッションには動物愛護団体からの批判が浴びせられてきた。人気ファッションデザイナーのステラ・マッカートニー氏は動物愛護活動に熱心で、毛皮やレザーを一切使わない独自のコレクションを発表していることでも知られている。


「Beautifully Canadian」ショーのフィナーレ

 しかし、カナダでは先住民族の時代からファーや皮革を重要なマテリアルとして服飾文化として育んできた。毎回、毛皮のコレクションを発表している「Beautifully Canadian」というブランドは、「私たち人間は肉を食べるのだから、その動物の皮だって毛皮だって同じ。もっと有効に利用すべきだ」と主張している。

  
「Joe Fresh Style」のショールーム

 大量生産のカジュアルウエアでビジネスを大成功させているブランドもある。元「クラブモナコ」を立ち上げたデザイナー、Joseph Mimran(ジョセフ・ミムラン)氏は、ファッションを全く新しい方法で展開した。それは、大型スーパーマーケット「Loblaw(ロブロウ)」で販売するという手法だ。ブランド名は「Joe Fresh Style(ジョー・フレッシュ・スタイル)」という。

 フルーツや野菜などのコーナーのすぐ横で、ファッションアイテムを販売しているのだ。ブランドネームの通り、商品がフレッシュである点で、野菜やフルーツと通じる。イメージで言えば、「生鮮モード」という感じだろうか。

 だから、鮮度がとても大切になる。常に4から6週間おきに商品が変わるという。色もイエロー、オレンジ、グリーン、赤などのヴィヴィッドで食欲をそそり、元気が出そうな色使いが多い。そのビタミンフルな色使いは、野菜売り場の脇に商品が並んでいても、違和感がないほどだ。

 「スーパーマーケットには食材を買いに毎日来る。でも、ブティックには1シーズンに数回しか行かない。毎日行くスーパーに魅力的な商品があったら、買い物かごに入れてしまうだろ?」と語るミムラン氏の言葉には、思い付きにとどまらない説得力があった。

 実際、家族連れで訪れた客が同ブランドの商品を買い物かごに入れている風景を目にした。日本円でソックスが数百円、カットソーも1000円弱など、ついついカゴの中に入れてしまいたくなる価格設定もうまい。


ショー会場ではジニー・ベッカー氏が司会進行するTV放映も

 ハンドクラフトを生かし、クリエイティビティを感じさせるブランドも発見できた。トロントではカナダの高級モード誌「FQ」と「SIR」の編集長で、カリスマジャーナリストのJeanne Beker(ジニー・ベッカー)氏の存在が大きい。トロントファッションを華やかに盛り上げている重要な人物だ。


インタビューを受けるジニー・ベッカー氏

 新進デザイナーの発掘にも熱心だ。ベッカー氏に向ける、デザイナーたちの信頼と畏敬にあふれた視線には、驚きすら感じた。ジャーナリストという立ち位置で、モードをこんな風に盛り立てていけるのだという、成功例がここにある。ベッカー氏が新しいデザイナーの才能を見抜き、世に送り出すパワーは生半可なものではない。今後のトロントファッションの成功を信じるゆえんだ。


モントリオール・ファッションショー

 モントリオールではレザー小物で定評のある「m0851(エム ゼロ エイト ファイブ ワン)」(1987年設立)や、21年間のキャリアを持つ大御所ブランド「MARIE SAINT PIERRE(マリー サン ピエール)」などの実力派ブランドの存在が大きい。ものづくりに真剣で、トレンドにとらわれないアイテムに魅力を感じた。丁寧な手仕事に、国境を越えた信頼感を覚えると同時に、同じことが日本でも価値になるはずだとあらためて思わされた。

 日本でも東京と大阪では文化が異なる。でも、トロントとモントリオールのように、言語や習慣まで異なるわけではない。カナダでは両都市の風土、歴史、文化などの違いがファッションにも見事に表れていて、別物と呼んでも構わないほどの違いを感じた。その意味で言えば、日本は地域ごとの「味」が均質化されすぎているのかもしれない。

 近年、南米ファッションがもてはやされ、日本でもこの夏はブラジルファッションのブレイクの兆しを感じる。米国本土をはさんで南のラテンアメリカが来たのなら、次は逆の北に振れて、カナダのファッションに目が向かっていいのではないか。カナダファッションと日本で再会できる日を楽しみにしたい。


【関連情報】

○The Fashion Design Council of Canada (FDCC)
   (L'Oreal Fashion Week Toronto)
http://www.lorealfashionweek.ca

○Montreal Fashion Week
http://www.montrealfashionweek.ca/photogallery/14/

○ジニー・ベッカー氏について (COVER STORY モード誌の舞台裏)
http://www.wowow.co.jp/documentary/coverstory/

○Beautifully Canadian
http://www.furcouncil.com/home.aspx

○Joe Fresh Style
http://www.joe.ca


 

【編集部ピックアップ関連情報】

○バンクーバー経済新聞 2008/04/04
 「地元デザイナーが一堂に─バンクーバーでファッションマーケット」
http://vancouver.keizai.biz/headline/202/


○そのまたそのうえ 「カナダの若いデザイナー」2008/04/03
 私は仕事で若いデザイナー数人と知り合う機会があった。その若い
 デザイナーたちの全員ではないのだけれども、考え方やコンセプトが
 非常に面白いなと思ったところがあるので、それを少し話したいと思う。
http://sonomatasonoue.blog44.fc2.com/blog-entry-112.html


○ステラ・マッカートニー Stella McCARTNEYを探せ ラミアボルサ
 「Stella McCartney ステラ・マッカートニー」  2008/04/11
 自然素材にこだわるあまり、ファッションの本質からそれていって
 しまうのではないか?動物愛護の精神からファー素材の商品を作らない
 というのは自由ですが、自分自身ファッション業界でオートクチュール・
 パリコレクションをしている関係で当然顧客層はセレブな人を相手に
 した商品を作っている。
http://blog.goo.ne.jp/cybermax5026/e/9a6d82818c27ac2fa506896c15abd016


○ファッション・映画ブログ 「デザイナーの主張」 2007/07/01
 2008年春夏ロサンジェルスコレクションは環境がテーマで
 エコ・フレンドリーなファッション、デザイナーに焦点を
 当て環境がテーマとなる。
http://blog.livedoor.jp/sailinspace/archives/64645124.html


○Time Tested Beauty Tips * Audrey Hepburn Forever * 2007/05/30
 ナタリー・ポートマン ポール・マッカートニーのPV『Dance Tonight』に出演
 ナタリーは菜食主義者でまた以前から皮や毛皮などの動物に由来する
 衣類やアクセサリーは私生活でも仕事でも一切身につけず、動物愛護
 に徹底しているデザイナーのステラ・マッカートニーとも仲が良いとか。
http://ameblo.jp/audrey-beautytips/entry-10035104306.html


○BARKS NEWS  2007/01/07
 「マドンナ、マッカートニーの娘に言われ狩りを禁止」
http://www.barks.jp/news/?id=1000029151

 

 


  • いただいたトラックバックは、編集部が内容を確認した上で掲載いたしますので、多少、時間がかかる場合があることをご了承ください。
    記事と全く関連性のないもの、明らかな誹謗中傷とおぼしきもの等につきましては掲載いたしません。公序良俗に反するサイトからの発信と判断された場合も同様です。
  • 本文中でトラックバック先記事のURLを記載していないブログからのトラックバックは無効とさせていただきます。トラックバックをされる際は、必ず該当のMediaSabor記事URLをエントリー中にご記載ください。
  • 外部からアクセスできない企業内ネットワークのイントラネット内などからのトラックバックは禁止とします。
  • トラックバックとして表示されている文章及び、リンクされているWebページは、この記事にリンクしている第三者が作成したものです。
    内容や安全性について株式会社メディアサボールでは一切の責任を負いませんのでご了承ください。
トラックバックURL
http://mediasabor.jp/mt/mt-tb.cgi/640