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学校へ行こう! 携帯企業ベライゾンの格差是正プロジェクト「Million」進行中

最近知り合ったロサンゼルス在住のオーストラリア人クリエイティブディレクター、ベン・ノットが非常に興味深いプロジェクトの話しをしてくれた。携帯電話会社「Verizon Wireless」と、ニューヨークの教育委員会が手を組んで、マンハッタンとブルックリンの公立中学生の出席率向上や勉強へのやる気を促進するためのプロジェクトがはじまったというのだ。

識字率の向上は、子供達の就職率、つまり犯罪に手を染めずに生きて行くための手段を身につけるために大切なこと、と考えるニューヨークの教育委員会が、携帯電話を利用して子供達の学校への出席率を上げるだけでなく、勉強へのやる気を作るきっかけを促している。

仕掛けたのは、コカコーラ、マイクロソフトなどの広告を手がけるクリエイティブ集団Droga5(www.droga5.com)。「Million(http://millionnyc.com)と名付けられこのプロジェクトは、昨年末からパイロット版が始動。2008年の2月時点で2500人のマンハッタンとブルックリンの子供たちが参加している。 正式なプロジェクトが開始したこの3月から、着々と成果が上がっているという。

米国の識字率は97.9%といわれている。大人の識字率は、政府のプログラムも功をなし、上昇している。しかし、そもそも「文字を読み、書けるだけ」というもので、小学校5年生レベルを修了した人は、「読み書きができる」とされている。また教育者で作家のジョナサン・コゾル氏は、著書「非識字社会アメリカ」内で、US Census Bureau(米国国勢調査)の識字率の調査そのものの手段に関しても疑問だと指摘している。というのも、国勢調査は「手紙」と「電話」により行なわれているが、

1)読み書きが出来ない人は、手紙の返信ができない。
2)読み書きが出来ない人は、就職できないため調査の対象となる電話そのものも持っていない。

など、こうした国勢調査によってはじき出された識字率は、正しくないというのである。(http://en.wikipedia.org/wiki/Literacy_in_the_United_States)もちろん、ニューヨークの教育現場では、貧困にあえぐ家庭の子どもたちが、勉強もままならず、その結果、職にもつけず、社会から取り残され、犯罪に走る様子を目の当たりにしていることだろう。

こうしてはじまったMillionでは、実行チームが、まず子供たちにサムソンのフリップ型携帯電話を、公立中学校(ミドルスクール)にて無料で配布。初期設定の時点で、一台に付き130分の無料通話がついている。そして、子供たちが学校で良い成績を取ったり、素晴らしい行いをした場合、「特典」としてポイントが加算され、無料通話時間が加算される。

ちなみにニューヨークの公立学校では、構内での携帯電話の使用が制限されているが、このMillionで配布された携帯は、構内にいる間は、スケジュールと計算機機能以外、電話としての機能は使用できなくなる(911へは通話可能)。これは携帯電話のGPSを利用して行なっており、学校への出席状況もこれによりトラックが可能になっている。

このプログラムの特徴の一つはティーンに人気のアーティストから、Million携帯保持者のために寄せられたメッセージが届いたり、ウェイクアップコールがもらえるような特典があるということ。将来的には、映画やスポーツ観戦のチケットにポイント交換可能になる予定だという。さらに今後の展開としては、放課後には教師が勉強に関するアイデアや手ほどき、翌日のテストのリマインダーなど、テキストメッセージが送れるようになるそうだ。

なお、Millionは「子供たちの学業へのモチベーションを上げること」にあるため、一度得た無料通話時間(ポイント)が減らされたりすることはなく、がんばれば、がんばっただけの結果が得られる仕組み作りがなされている。なお、生徒や親はこのポイントを購入することはできない。あくまでも「子供達自身が自分の手で参加して稼ぐ」必要がある。

携帯電話会社や、このプロジェクトを支えているスポンサーたちにも、もちろん特典がある。現在主にミドルスクール(中学校に該当)の学生達に配布をしているので、携帯電話を通じて特定の年齢層、およびグループにマーケティング活動が行なえる。現在は主に音楽関連の若手歌手らのプロモーション活動を行なっている。アーティスト達にとっては、こうした慈善活動に参加することでのイメージアップも図れ、同時にターゲットグループに直接アピールすることができるという、まさに一石二鳥である。

たとえば、人気ラテンヒップホップグループのThe D.E.Yは、プロジェクトの正式スタート後、最初にイベントに参加したアーティストだが、4月7日、パイロット版でMillionプログラムに参加した子供達の内、無料通話にあたる「特典」を得たトップ25%の子供たちを招待して、2つの学校でライブを行った。

http://millionnyc.com/news.html
http://millionnyc.com/newsphotos/millionebbets/index.html


2月には、オンラインメディアのデジタルジャーナルが、このプロジェクトを取りあげた(http://www.digitaljournal.com/article/250942)。この記事は、同プロジェクトが、子供達を「もので釣る」ようにして勉強に向かわせているのではないか、また携帯電話を通じて、教師や親が常に子供と連絡を取れる状態が、学生と教師の距離を埋めてくれるとは限らないと指摘している。しかし一方で、このプロジェクトの可能性が無限であるのは事実であり、この活動が正しく行なわれると、テクノロジーと学業成績によって、米国内の極貧地域の負のスパイラルが解消されるかもしれないと締めくくっている。

子どもと学校と家庭の関係を築くツールになりえるか? 社会を変える一大プログラムとなるか? これからの動向が気になるプロジェクトである。

 


【編集部ピックアップ関連情報】

○CNET  2008/03/19
 「似ているようで大きく異なる2つの世界--モバイルサイトと
 PCサイトの違いを知る」
 近年携帯電話の高機能化、高速化により、携帯電話の性能がPCの性能に
 近づいてきた。しかし、両者の間では、まだまだ解消しなければならない
 違いが数多く存在する。一口にウェブサイトと言っても、モバイルサイト
 とPCサイトでは、全く別ものとして考えたほうが現実に即していると言える。
http://japan.cnet.com/mobile/internet/story/0,3800084323,20369695,00.htm


○CNET  2008/03/06
 「課金、広告、物販--モバイルビジネスを支える3つの収益モデル」  
 従来、つまりパケット定額制が普及するまでの2006年までの考え方で
 行くと、パソコンインターネットの売上10に対して、携帯電話からの
 売上1が目安であった。しかし最近では、2割を超える注文が携帯電話
 経由で入ってきているのだ。こうした状況を考えると、企業のほうでも
 携帯電話への対策にこれまで以上に力を注がなければいけなくなって
 きたと言える。
http://japan.cnet.com/mobile/internet/story/0,3800084323,20368668,00.htm


○ITmedia News  2007/07/19
 利用時間「ニコ動」と匹敵 ケータイ動画が10代に人気
 10代のユーザーを対象にしたアンケートでは、55%が「自室にテレビもPCもない」
 と答えており、寝る前の暇な時間帯に、テレビ代わりに視聴しているようだ。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0707/19/news099.html


○ホームページを作る人のネタ帳 2007/08/05
 「そろそろモバイルサイト作成について本気でなんとかしたいと感じる・・・が。」
http://e0166.blog89.fc2.com/blog-entry-245.html

 

 


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