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世界から取り残されるカナダの携帯電話事情

(概要) 

 カナダにもようやくWiFiが導入されることが決まった。カナダのテレコミュニケーション大手Rogersが、傘下の携帯電話会社FidoとRogers WirelessでWiFi機能搭載機種を取り入れ、5月7日よりサービスを開始した。

 これで携帯電話でのカナダ国内とアメリカへの通話し放題というシステムがようやくできたことになる。専門家は「固定電話を持たない人、もしくはやめようと思っている人には朗報だろう」として、「カナダにもようやく一人1電話時代が到来する」と分析していた。

(2008年5月6日CBC)
CBC:カナダ3大ネットワークのひとつ。カナダで最も長い歴史を持つテレビ局。24時間ニュースを配信するニュース専門チャンネルも持っている。


(解説)

 今回発表されたWiFi機能搭載機種はFidoとRogers Wireless各社とも1機種のみで、利用するにはカナダ国内通話には15ドル、アメリカへは20ドルの通話料が加算される。

 カナダはとにかく携帯電話の通話料が高い。単純にアメリカと比較してみても、例えばアメリカ大手のAT&Tでは900分60USドル(約6300円)に対して、カナダのRogersでは800分100ドル(約10300円)となっている。しかも受信した通話やEmailも通話時間の対象となる。

 カナダの携帯通話料が高い原因は、大手3社が独占していること、市場が小さいこと、各社間の競争がないこと、さらに外資が入ってこられないことがあげられ、これらの原因はすべて微妙に絡み合っている。こうしたことに憂慮した連邦政府は、今年初め各社に手数料などの見直しを提案し、さらに業界新規参入の応募受付を開始した。

 さて、カナダの携帯電話といえば、日本でもすでに導入されつつあるスマートフォンの代表格Blackberry(ブラックベリー)があげられる。これはオンタリオ州に本社を置くResearch in Motion社(RIM: リサーチ・イン・モーション)が開発したPCと携帯電話を融合させたようなもので、北米、ヨーロッパを中心にかなり浸透してきている。PCの代わりにはなり得ないが、それでもかなりそれに近い機能が搭載されていることもあり、ビジネスマンの間で広まっている。

 こうした機器を開発するほどカナダの携帯事情は進んでいるのではと思っている人がいるかもしれないが、それは大きな誤解である。Blackberryもカナダ国内よりはアメリカやヨーロッパでの需要の方が高いのが実情である。

 またスマートフォンの個人仕様版ともいうべき注目機器、アメリカで去年発売開始されたiPhoneも、ヨーロッパ各地ですら販売開始されているのに、カナダではまだ発売されていない。今年の暮までにはRogersから発売予定という発表が4月にあったばかりで、正確な発売予定日も料金設定も公表されていないのが実情である。本体価格も通話料もかなり高くなるのではとみられている。ただ、アメリカで購入したiPhoneはRogersを通してすでにカナダ国内で利用できるようである。

 とまあ、カナダの携帯電話事情は世界各国と比べるとかなり遅れている。カナダでの携帯電話普及率も60パーセントと日本と比べるとかなり低い。それもこれも高い料金体系が大きな原因で、そのため携帯コンテンツやその未知なる可能性のビジネス利用みたいなものが話題になることも今のところあまりない。せいぜい音楽のダウンロードやニュース配信、最近ではFacebookがスマートフォンを使って更新できることが話題になったくらいである。

 今回のRogersのWiFi導入で、他の2社Telus社とBell社もこれに追随すれば、そして携帯電話会社が新規参入すれば、カナダの携帯事情も少しは世界に追いつける準備が整うのではないかと期待がかかる。しかし、TelusとBellはカナダ2大固定電話会社でもあるため、固定電話契約者が減るような対策を今すぐ取るとも思えず、新規参入にしてもまだまだ募集段階であるため、カナダの携帯事情が今すぐ改善されることはなさそうである。

 一部の専門家は、WiMaxの台頭がカナダの携帯事情を変えるのではとの見方をしているが、それもまだ試験段階で「5年先には」との枕詞付きである。

 私自身は電話機能以外携帯の使い道がなく、どれほど素晴らしい機能付機種が発表されても大して興味もない部類なのだが、それでも質の低いサービスと高い携帯電話料金には閉口してしまう。せめて政府が外資参入を許可しこの業界に新風でも巻き起こしてくれないかと、請求書が来るたびにため息混じりに思っている。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○MediaSabor  2008/04/18
 「iPhoneヒットによる携帯電話の地殻変動は次世代スマートフォン開発競争へ」
http://mediasabor.jp/2008/04/post_368.html


○WIRED VISION 発売間近の『BlackBerry Bold』、試用レポート  2008/05/14
 BlackBerry Boldは、この9ヵ月ほど噂になっていたような、『iPhone』に
 対抗するためのタッチスクリーン機能は備えていないが、見た感じでは、
 非常にクールな、将来を視野に入れた機能を持つ充実した機器になりそうだ。
http://wiredvision.jp/news/200805/2008051420.html


○ITmedia News  2008/04/26
 「AT&T、全米のStarbucks店舗でWi-Fiサービス導入開始」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0804/26/news004.html


○ITmedia News  2008/01/24
 「RIM、BlackBerryプラットフォームの強化を発表」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0801/24/news024.html


○CNET 「iPhoneはビジネスツールとしても人気は上々」 2007/12/11
 携帯電話、音楽プレーヤー、ウェブブラウザが一体になったiPhoneは、
 一般消費者向け市場で大ヒット商品になったのに加え、ビジネスツール
 としても地歩を固めつつあり、競合するResearch In Motion(RIM)の
 人気製品「BlackBerry」と肩を並べる日が来るかもしれない、と
 アナリストたちは述べている。
http://japan.cnet.com/mobile/story/0,3800078151,20362948,00.htm

 

 


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