Entry

低価格でも“ハイファッション”の「H&M」日本進出、迎え撃つユニクロ・ZARA・GAP

 スウェーデン発の台風が日本上陸間近だ。モード感の高いカジュアルウエアで世界を席巻している低価格衣料店チェーン「H&M」が9月、東京・銀座に日本第1号店を開く。この分野で世界最大の「GAP(ギャップ)」や、国内トップの「ユニクロ」も強敵視している相手だけに、日本のファッション流通の風向きを様変わりさせる破壊力を秘めている。

 「H&M」は「Hennes&Mauritz(ヘネス・アンド・マウリッツ)」の略。1947年にスウェーデンのヴェステロースで創業した。既に60年を超える歴史を持ち、規模の面でも世界約30カ国・地域に約1500店舗を展開する、世界有数のファッションチェーンだ。

 「GAP」や「ユニクロ」とどこが違うのかと思う人も多いだろう。実はかなり違う。

 「H&M」は自社ブランドのコンセプト説明の中に、「ハイファッション」という言葉を明記している。「ハイファッション」とは、高価の意味ではなく、最先端のモードという意味だ。パリやニューヨークの主要コレクションで発表された最新ファッションに後れをとらない方針を、「H&M」は掲げているのだ。数千円程度のこなれた価格の商品を主に扱うショップではあるが、実際に「H&M」はハイファッションを提供している。その象徴が毎年話題を呼ぶ、トップデザイナーとのコラボレーションだ。

 「シャネル」を任されているカール・ラガーフェルド氏は誰もが認めるトップデザイナー。「帝王」と呼ばれることさえある。そのラガーフェルド氏と組んだ「H&M」は2004年、コラボ商品「カール・ラガーフェルド・フォー・H&M」を期間限定で売り出した。

 ラガーフェルド氏が手がけたアイテムが異例の低価格で発売され、店頭で奪い合いが起きるほどの話題を呼んだ。カシミヤのコートが149ドル(約1万5600円)というお手頃価格だった。しかも1、2点の話題づくりではなく、Tシャツやジーンズ、ドレスなど30品目をラインアップ。本格的なビジネスとしての展開だった。

 その後、「ステラ・マッカートニー」や「ヴィクター&ロルフ」「ロベルト・カバリ」などのブランドを率いる各有名デザイナーとのコラボを実現。人気歌手マドンナも「H&M」でデザイナーデビューを飾った。

 日本進出に当たっては、日本が誇るパリコレクション・ブランド「コム デ ギャルソン」のデザイナー、川久保玲氏をコラボの相手に迎えた。川久保氏は世界での評価の方が高いと思えるほど、圧倒的な評価を得ている。海外デザイナーからのリスペクト度が最も高い現役日本人デザイナーと言っても間違いではないだろう。

 コラボ物以外のレギュラー商品もデザインは洗練されている。「ユニクロ」が常に新商品を投入しながらも、ベーシック商品を柱に据えているのとは好対照だ。「H&M」の店頭は1週間もしないうちに商品が相当数入れ替わり、来るたびに印象が違って見える。ファッションを生鮮野菜のようにナマモノ扱いする演出はリピーターを頻繁に呼び込む効果も生んでいる。

 「H&M」はニューヨークのファッションビジネスを劇的に変えた。個々のスタイルを重んじ、実用性、モード感などにうるさいニューヨーカーは手強い客として知られる。しかし、オープンからわずか数年で、「H&M」の買い物袋をマンハッタンの通りで見ない日はなくなった。デザインと価格の絶妙な折り合いが、ニューヨーカーの心をつかんだのだ。

 もっとも、日本進出に心配材料がないわけではない。素材や縫製に注文が付くかも知れない。ハイファッションのブランドでは生地に金をかけ、仕上げにぬかりはないが、「H&M」は価格との見合いもあって、そこまでコストをかけてはいられない。肌触りや縫製に敏感な日本人が納得するラインアップを、どこまで打ち出せるかで、「H&M」の日本での成功の行方は変わってきそうだ。

 まずは都内3店からのスタートとなる。銀座店が9月、原宿店が11月にオープンする予定だ。2009年秋には渋谷に大型店を開く。日本法人のエイチ・アンド・エムヘネス・アンド・マウリッツ・ジャパンが運営する。

 出店戦略にも「H&M」流がある。ニューヨークでは目抜き通りの五番街に旗艦店を構えて成功した。高級宝飾店や百貨店が文字通り軒を連ねる、世界のファッションのフロントロウ(最前列)だ。

 ファッション高感度エリアにあえて進出し、そのエリアのリュクス感を店舗と「H&M」ブランドにもまとわせ、「ハイファッションの『H&M』」というイメージを増幅する。東京・銀座に相次いでラグジュアリーブランドが旗艦店を出すのに通じるエリアブランド戦略だ。日本でも銀座店が第1号店となる。

 国内で迎え撃つ「ユニクロ」が銀座に旗艦店を構えたのは近年になってから。その「ユニクロ」銀座店がある中央通りを挟んで1、2分の場所に、「H&M」銀座はもうじきオープンする。

 銀座随一の大通り、中央通りに面する「H&M」銀座店の並びには、スペイン発のファッションチェーンで、やはりリーズナブルプライスが強みの「ザラ(ZARA)」もある。「H&M」「ユニクロ」「ザラ」の3店が作る数百メートルのトライアングルは秋以降、日本で最も熱い「低価格」ファッションの戦場となるはずだ。同時に、消費者にとっては何とも便利でありがたい買い回りゾーンの誕生となる。

 「H&M」銀座店は銀座7丁目の再開発ビルに入る。以前この地にあった、東京ガス所有のガスホールビルは1956年に完成した歴史ある建物。館内のホールでは音楽会や講演会、落語会などが開かれ、銀座文化史の一角を成してきた。同じ銀座の「バーニーズ ニューヨーク」銀座店が、日本最初の実業家社交クラブに由来する歴史ある建物「交詢ビルディング」に入ったのに通じる場所選びとも映る。

 米国で「ギャップ」が失速したのは、「H&M」や「ザラ」に客を奪われたからだといわれる。ファッション性の高いデザインが、「ギャップ」に飽き足りない層を引き寄せたのだという。同じような現象が日本でも起きるのか、その成り行きは日本のファッション界の今後を占うだけに、関係者の関心は高い。「H&M」台風はその暴風圏を日本全域に広げそうな雲行きだ。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○ファッション流通ブログde業界関心事  2008/04/04
 「H&M日本進出、コム・デ・ギャルソンとコラボのインパクト」
 業界の方に対しては、言わずもがなですが、日本進出にあたり、
 日本のファッション業界で最もインパクトのあるデザイナーと組んだ
 H&M恐るべし、というのがニュースを知った時の私の率直な感想です。
http://dwks.cocolog-nifty.com/fashion_column/2008/04/hm_6997.html


○かっこカワイイ大人の女道 2008/04/05
 「いよいよH&Mが日本に!!!しかもコラボのお相手はギャルソンですよ」
 TOPSHOPがどうやって日本で展開しようか、もたもたと模索中だったところに、
 アメリカでの出店を見事に成功させたH&Mがやってきちゃった、というわけですな。
http://smartwoman.blog106.fc2.com/blog-entry-184.html


○H&M Presentation: Job Tibay(YouTube映像 01:28)
http://jp.youtube.com/watch?v=JJz3CjFMz5g


○COMME DES GARCONS S/S 2008 (ELLE):YouTube映像 01:57
http://jp.youtube.com/watch?v=ZXFTMX-wXNo&feature=related

 

 


  • いただいたトラックバックは、編集部が内容を確認した上で掲載いたしますので、多少、時間がかかる場合があることをご了承ください。
    記事と全く関連性のないもの、明らかな誹謗中傷とおぼしきもの等につきましては掲載いたしません。公序良俗に反するサイトからの発信と判断された場合も同様です。
  • 本文中でトラックバック先記事のURLを記載していないブログからのトラックバックは無効とさせていただきます。トラックバックをされる際は、必ず該当のMediaSabor記事URLをエントリー中にご記載ください。
  • 外部からアクセスできない企業内ネットワークのイントラネット内などからのトラックバックは禁止とします。
  • トラックバックとして表示されている文章及び、リンクされているWebページは、この記事にリンクしている第三者が作成したものです。
    内容や安全性について株式会社メディアサボールでは一切の責任を負いませんのでご了承ください。
トラックバックURL
http://mediasabor.jp/mt/mt-tb.cgi/711
H&M@TOKYOへの熱い思いを15秒で語ってVIPイベントに参加しよう! 2008年07月05日 09:05
先日メディアサボールさんに当方のH&Mに関するブログをひっぱっていただきました。 こちらの記事にて...