あいつぐ閉店報道にみる服飾セレクトショップの凋落と生き残り【前編】
- ファッション・ジャーナリスト
ブランドを固定しない、バイヤー感覚重視のファッションストア業態が「セレクトショップ」。百貨店の先を行く品ぞろえで、日本のファッションシーンをリードしてきたが、ここに来てその勢いに陰りが見え始めた。東京・銀座初のセレクトショップとして知られた「ザ・ギンザ」は閉店を発表。同じく銀座で最高級店として名を馳せた「RESTIR TOKYO(リステア東京)」も店を閉じる。
ザ・ギンザ閉店のニュースはファッション業界に驚きを与えた。親会社が資生堂という大企業であり、セレクトショップの草分け的な存在でもあっただけに、「セレクトショップの限界」を象徴する出来事のように受け止められた。
全21店のうち、化粧品だけを扱う3店を除く18店を閉鎖する。東京・銀座の本店もビル建て替えに伴い、2009年1月に閉じる。ファッション事業から撤退し、化粧品事業に経営資源を集中させる。
ザ・ギンザは1975年の最初からセレクトショップとしてスタート。日本にセレクトショップと言う業態を知らしめた存在だった。
その老舗の消滅は、セレクトショップ業界での過当競争を物語る。かつては希少価値や個性が評価されて、高感度の顧客を集めたセレクトショップだが、最近では「セレクトショップ」と名乗る店舗が増えすぎて、互いの個性を殺し合っているような状況にある。今ではセレクトショップと名乗ることによって、かえって新味を失いかねず、次なるカテゴリー名が欲しいとささやかれるほどだ。
「リステア東京」は2001年9月、銀座の並木通りにオープン。2005年3月には写真撮影スタジオをイメージした、全館ブラックを基調としたデザインにリニューアルされ、話題を集めた。2007年3月には東京・六本木に開業した「東京ミッドタウン」内に六本木店を構えるに至った。
しかし、2008年2月に神戸店をクローズ。さらに銀座の主力ショップも7月に営業を打ち切る。海外進出という前向きな計画もあるようだが、当面国内は六本木店だけの一本足経営となる。
「リステア」は「ジョン・ガリアーノ」や「ドルチェ&ガッバーナ」などのラグジュアリーなインポート物を主体にしていた点で、その他のセレクトショップとは商品構成が異なる。国内の主立ったセレクトショップはインポート物を扱ってはいるものの、オリジナルブランド商品とのミックス販売が大半で、「リステア」ほどラグジュアリー・インポートに重点を置いた店はなかった。
富裕層にターゲットを絞った戦略も独特だった。VIP室を設けて、顧客をソファに座らせたままプライベートショー感覚で品定めさせる演出は芸能人や外国人客に受けた。
今回の閉店が営業面の理由か、戦略的撤退かははっきりしないが、富裕層に的を絞った会員制の最高級セレクトショップ「CELUX」(セリュックス)が3月にクローズしたことと考え合わせると、ハイエンド層での生き残りも容易ではないことがうかがえる。「セリュックス」は「ルイ・ヴィトン」「セリーヌ」などの高級ブランドを輸入販売するLVJグループが経営していただけに、その判断には、この業態への見切りが感じられなくもない。
仕入れ品に頼ると、他ショップとの違いを打ち出しにくくなる。そこで、各セレクトショップはオリジナルブランドの強化に取り組んでいる。インポート物に比べ、コストを抑えやすいので、ショップにとっては収益源としてもオリジナルブランドは大きい。言い換えれば、オリジナルブランドのクオリティーと売れ行きがセレクトショップの死命を制することにもなる。ベイクルーズ系の「ジャーナルスタンダード」の着実な成長にも、絶妙のテイストコントロールに加え、オリジナルブランドの貢献が大きいと見られる。セレクトショップ間の競争はオリジナルブランドの戦いでもあるのだ。
ただ、セレクトショップ同士の顧客の奪い合いが激しさを増し、セレクトショップという業態の新鮮さが薄れたからと言って、勢いのあるセレクトショップがゼロかと言うと、そんな事はない。斬新な切り口を提示したり、他店にないテイストを貫いたりして、顧客の厚みを増しているショップもある。競争を勝ち抜いて、銀座に初進出するショップや、子供服といった新業態に挑むショップも現れている。次回【後編】では、セレクトショップの新たな朝(あした)を取り上げてみたい。
【編集部ピックアップ関連情報】
○代官山通信 「トゥモローランドの試み」 2008/01/22
便宜的にまあセレクトショップと呼ぶとして、それらの出自は大きく
次の二つに分けられる。小売店出身かそれともメーカー出身かである。
前者はビームスやユナイテッドアローズでトゥモローランドは後者
である。後者には他にベイクルーズが含まれシップスは前者。
この出自で会社のビジネス哲学や思想が大きく違う。
http://www.houyhnhnm.jp/blog/daikanyama/archives/200801/22-entry-basename.html
○MD WATCHING | 山中健「神南セレクトショップクルーズ」 2008/04/26
ユナイテッドアローズが移転・オープンしたことで、神南エリアの
セレクトショップがますます集積してきました。ユナイテッドアローズは
地下から2階の3層で、地下がユナイテッドアローズ、地上2層が
カジュアル業態ビューティー&ユースです。
http://apalog.com/yamanaka/archive/140
○幸せ家族計画ファンド 2008/04/18
『ユナイテッドアローズ 心に響くサービス』(丸木 伊参/日本経済新聞社)
<高いサービスが何故できるか>
人材。目指すは欧米の老舗でベテランが接客している様。販売を一生の
仕事と捉えている事が採用条件。その為、離職率は低い。日本では販売員の
立場は低いが、評価される枠組みがある。
http://lightingbee.blog24.fc2.com/blog-entry-227.html
○シブヤ経済新聞 2008/02/06
「ユナイテッドアローズ、カジュアル市場開拓へ--4月新会社設立」
新規事業では、デイリーウエアなどのボリュームマーケットにも近い
「新たな市場」として、「値ごろ感がありつつ、ファッション感度の高い」
マーケットに照準を絞る。同市場についてUAは「近年のファッション消費の
成熟化に伴い顕在化した新たなマーケット。その規模が拡大しつつある」と説明。
http://www.shibukei.com/headline/4987/
○木村 和美 Architect 「建築の寿命」 2008/06/21
私には芦原義信先生設計のこの建物に色々な思い出がある。
外壁が特徴的でリブ付き打放しコンクリートハツリ仕上げという、
アメリカ東海岸ニュージャージーあたりでよく見る仕上げで、建築家の
ポール・ルドルフがよく使っていた物である。資生堂ザ・ギンザはその
表面にウレタン塗装がかけてあり、しっくりと落ち着いた表情で、
銀座の町並みに相応しい建物であった。
http://blog.goo.ne.jp/goo200803/e/dedc18aebe5963b8e62bb117c2025121
- いただいたトラックバックは、編集部が内容を確認した上で掲載いたしますので、多少、時間がかかる場合があることをご了承ください。
記事と全く関連性のないもの、明らかな誹謗中傷とおぼしきもの等につきましては掲載いたしません。公序良俗に反するサイトからの発信と判断された場合も同様です。 - 本文中でトラックバック先記事のURLを記載していないブログからのトラックバックは無効とさせていただきます。トラックバックをされる際は、必ず該当のMediaSabor記事URLをエントリー中にご記載ください。
- 外部からアクセスできない企業内ネットワークのイントラネット内などからのトラックバックは禁止とします。
- トラックバックとして表示されている文章及び、リンクされているWebページは、この記事にリンクしている第三者が作成したものです。
内容や安全性について株式会社メディアサボールでは一切の責任を負いませんのでご了承ください。