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ログからストーリーを読み取るために、まずはログに溺れてみよう

オンラインマーケティングにおいて必須のスキルがいくつかあります。その中で、マーケティング担当者にとってもっとも重要なスキルは、「ログデータからストーリーを読み取る」ことだと考えています。

理由は、今のオンラインの世界では、自分が関わることのない領域での行動はとりあえずログデータという形でストックされていくからです。また、自分が関わることのない領域での行動をなんらかの形で自分や自社のメリットに変換していくことができなければ、オンラインで活動する理由なんて、ほぼないとも言えるからです。

しかし、属人性の低いログデータを目的もなく、ぼーっと見ていてもストーリーなんてまず何も見えてきません。特にスキルの低い状態であれば、ホントにぼーっとすることしかできないでしょう。

では、スキル向上のためになにをすべきなのでしょう?

属人性の低いログデータに目的を設定し、仮説を立ててストーリーをはめこんでいくのもひとつの手です。しかし、これは決してやさしい課題ではありません。

そういった高度な課題に挑戦するよりも、まずは属人性の高いログデータを眺めて、ストーリーの読み取り能力をまずは高める方が、スキルの獲得には近道だと思えます。

それは、今のWebの技術には、属人性の高いログデータを生成する技術やサービスが次々と誕生しているからです。つまり、ログデータという材料はすでに用意されており、読み解かれるのを待っているわけです。

以下、属人性の高い順番にログデータを分類してみたいと思います。


<自分のログデータ>

まずは自分で書いているブログに関するログデータがいちばんあなたにとって近いログデータとなるはずです。これはアクセス解析やブログに対する検索キーワードに留まりません。リンクをたどって、自分のブログから発生した情報の流れがどのように変化するのか?どのぐらいの流量があるとなにか反応が生まれるのか? すべてのデータはあなたの手の中にあると考えれば、そのログデータの貴重さを感じることができるのではないでしょうか?


<友人のログデータ>

mixi日記などがこれに当てはまるでしょう。例えばオリンピックやワールドカップと言ったイベントでmixi日記のアクティブが上がるケースも下がるケースもあるかもしれません。これはあなたの友達の構成がそのままダイレクトに影響します。今、その構成を把握していなくても、なにか世間で起きたときに、友人たちがどう振る舞うのか? という視点を持っているといないでは、mixi日記に対する認識は違うものになるでしょう。


<知り合いのログデータ>

よく読んでいるブログ、IDを確認することのできるソーシャルブックマーク。tumblrのようなWebサービスもここに当てはまるでしょう。ログデータが生成される場所は違っていても、人の興味の振り幅を継続的に見ることができるという意味で、こういったログデータは貴重なものになります。1つのブックマーク、1つのPostにも、その後ろには人がいて、コンテキストとは無縁ではいられません(また、いわゆるメディアというのも、この延長線上に捉えてもいいかもしれません)。ここで大事なのは、コンテキストで考えるという視点です。

最近、ニコニコ大会議2008というイベントが開催されました。

 リンク: ニコニコニュース‐ニコニコ大会議2008のまとめ
http://blog.nicovideo.jp/niconews/2008/07/001376.html

このイベントを受けて、様々なエントリーがアップされています。今の段階では「ハゲ」というコメントについて、エントリーは集中していると言えるでしょう。

 リンク: ● SPOTWRITE "
http://d.hatena.ne.jp/magoshin/20080704#p1

 リンク: あのー、それ、普通にいじめなんですけど - Thirのはてな日記
http://d.hatena.ne.jp/thir/20080706/p1

 リンク: 「ニコニコ現実」のプロトタイプとしての「ニコニコ大会議2008」
濱野智史の個人ウェブサイト@hatena"
http://d.hatena.ne.jp/shamano/20080706/1215340247

 リンク: ハゲのおっさんから一言(追記2回目有り)
http://anond.hatelabo.jp/20080706112744

最終的に「ハゲ」の当事者まで出現しているかのようなことになっていますが、それが「はてな匿名ダイアリー」であることや他のエントリーもはてな日記に集中していることなどもこれらのエントリーを読み解く際には重要な要素になります。そして、このコンテキストはあるイベントだけに集中して発生したエントリーだけを眺めていても発見することは不可能です。


<メタデータなログデータ>

これはある部分で人を介在しないログデータです。PlaceEngineやSkyhock、もちろんGPSといった技術によって、ある条件を満たすことによって、時間や場所などのロケーションデータというログデータをマンパワーをほぼ使うことなく蓄積することが可能になってきています。

このことはログデータに新たな展開を生んでいます。それはこういったログデータはほぼ自動で取得できてしまうが故に、属人性をコントロールすべきだという点と、ログデータがある一定量を超えた段階で新しい価値を生むという点です。

「属人性をコントロール」とは、データにひもづく個人情報のコントロールという意味です。自動的に取得できてしまうデータには、必ずプライバシーの問題がついてまわります。そのため、データの利用には基本的にデータ主に許可が必要になります。これにはコントロールが必要です。

そして、以前は個人情報のないデータにはそれほどの価値を見いだせませんでした。それは取得に労力も手間もかかるため、大量のデータの取得にはコストがかかりすぎるためです。しかし、このコストの問題は解決されつつあります。

ロケーションデータに限らず、SUICAやPASMO、もしくはお財布ケータイのようなログデータも、単体のデータではそれほど多くの価値を生みませんが、ある一定の量を集めることで、新しい価値を付与することはひと昔前と比較すると容易になってきています。

例えばSUICAで言えば、個人情報を取得しなくても、あるユニークなIDの駅の乗降データを取得することは可能です。このデータが首都圏の電車人口のほぼすべての量に達した場合、そのデータは電車のトラフィックに対するかなり正確なデータとなります。

お財布ケータイもそうです。個人情報を取得しなくても、ある特定の販売店で特定の商品の決済が大量に起きているデータが取得できれば、それは重要なデータとなります。

つまり、個人情報のないメタデータであっても、ある一定のデータの量と、そこにストーリーを設定するポイントを見いだせれば、十分に価値のあるデータに変換することが可能になってきているのです。

さて、普段からログデータのことはよく考えているので、若干脱線気味になってきていますので、この辺で話を元に戻しましょう。

「ログデータからストーリーを読み取る」、もしくは「ログデータにストーリーを設定する」ためには、スキルの向上とともにもう1点重要なポイントがあります。

それはログデータに対する中長期的な視点です。

この先、技術が向上しても、人の行動に対するすべてのログデータを取得することができるようになるには、まだまだ時間がかかります。

そのため、ログデータは取得された段階で、ある一定の切り捨てやフォーカスが必要になります。

実は、ストーリーの設定は、この取得段階で十分に考慮されている必要があるのです。そのため、ある一定の感覚で、ストーリー設定には見直しが必要ですし、その見直しのためには、ある一定の量のデータの蓄積のための、時間が必要になってくるのです。

この時間軸という感覚の取得には、いろいろなトライアルを積み重ねた経験が必要になってきます。そして、当然、この経験の取得のためにも時間は必要です。

だから、「ログデータからストーリーを読み取る」というスキルの獲得のためには、まずは徒手空拳になるのを覚悟の上で、経験を積むことが大事になってきます。

その経験を持った上で、必要に応じて、目的を設定することで、属人性のないログに、仮説でいいから属人性を設定してストーリーを読み取ることができるようになるのではないかと思います。

そして、今こうしている間にも、次々とログデータが蓄積されているオンラインの世界では、まずはきっちりとログに溺れてみるという一見無駄に見えることが、実はスキル向上のために最適解なのではないかと思うのです。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○CNET  Web 2.0の先を開拓する「メタデータ時代」2007/03/30
 Web2.0では、ユーザーが参加することによって様々なコンテンツを
 分類していくフォークソノミーという概念が語られ、その具体的な
 例として、ソーシャルタギングと呼ばれるコンテンツへのタグ付けが
 至るところで行われている。しかし、これからはユーザーが行う行動
 を機械が代わって行う「マシンソノミー」や「オートタギング」と
 いったものが出現し、ユーザーとインターネットの関わりも、
 能動から受動へ、という流れになるだろう。
http://japan.cnet.com/column/pers/story/0,2000055923,20346143,00.htm


○ICHINOHE Blog 深見嘉明「ウェブは菩薩である」 2008/06/29
 ソーシャルサービスについて、「自分のためにやってたら、いつの間にか
 みんなのためにもなっていた」という話をすることは多い。だが、
 初心者に納得してもらうことは案外難しく、僕もいつも苦しんでいる課題だ。
http://shinyai.cocolog-nifty.com/shinyai/2008/06/deepen_yoshiaki_a610.html


○狐の王国 2008/07/08
 「空気読みの求められる日本社会が民度の低さを表している」
 いじられてネタとして楽しめる人もいれば、楽しめない人もいる。
 よくそういう楽しめない人を「空気読めない」と言ったりする事が
 多いような気がするが、実は空気が読めてないのはいじってる
 (つもり)の側だ。
http://d.hatena.ne.jp/KoshianX/20080708/1215484019


○novtan別館 2008/07/09
 「ニコニコ動画は制御できないユーザーにより崩壊していくかも」
 ニコニコ動画がコメントを含めてコンテンツと考えているのであれば、
 今回のようなことはこれからも起こるだろうし、それを良しとする人が増え、
 エスカレートすると、最後は飽きられていくバラエティー番組のように
 芸風の終わりと同時に全てが終焉を迎えるかもしれない。
http://d.hatena.ne.jp/NOV1975/20080709/p1

 

 

 

 


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