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検索結果の最初のページから悪口をなくせ―IRM(ネット上の評判マネジメント)会社の手腕と値段 

  • 米国在住モチベーション・コンサルタント&コーチ 
  • 菊入 みゆき

アメリカで、IRM(Internet Reputation Management)、インターネット上での評判をマネジメントする、という会社や専門家が台頭してきている。セレブやCEO,そして外科医など、評判が仕事に大きな影響を及ぼす人たちからのニーズがあるという。彼らは、インターネットでの検索結果を気にしているのだ。ここに、悪口や批判が表示されるのをなんとかストップさせてほしい、という切実な依頼がIRMを扱う会社に持ち込まれる。米検索市場シェア6割以上のグーグル検索の、特に、1ページ目の検索結果が問題となる。

ある調査によれば、検索結果の2ページ目以降を読む人は全体の30%未満、3ページ目となるとわずか8%ということだ。最初のページにネガティブな内容が表示されてしまったら、いくら2ページ目、3ページ目でそれを否定し、挽回する内容が表示されても、読まれないのだ。

例えば、ある医師の相談は次のようなものだ。医師自身と彼の扱う健康・美容製品について痛烈な批判コメントがWEB上に掲載され、医師の名前でグーグル検索をすると、それが検索結果のトップに表示されてしまう。そのせいで医師は500万ドルもの損失を被ったという。

医師は、IRMを手がけるケント・キャンベル氏に対処を依頼する。キャンベル氏は、医師に対して好意的なコンテンツを見つけ、キャンベル氏自身のサイトや他のブロガーのサイトとリンクさせた。さらに、医師の業績や製品に関するプレスリリースをインターネットで配信し、その文中のキーワードを、医師のサイトに戦略的に配置した。いずれも、これらのコンテンツが検索されやすいようにし、検索結果の1ページ目に表示されるための処置だ。

グーグルの検索結果表示順の計算法は、全貌が明らかにされていない。これがIRM関係者の悩みであり、且つ腕の発揮しどころでもある。彼らは、ヒット数の高さ、リンクの多さ、キーワードの配置、サイトの鮮度など、検索結果に影響すると思われるいくつかの要素に働きかけ、顧客が望む表示順を実現させようと腐心する。ルイジアナ州を本拠地とするReputationHawk社のクリス・マーティン氏は次のように語る。「グーグルの計算法は随時変わっていく。だから、ややこしいし、手間がかかるんだ」

近年、ブログや、YouTube、Facebookなど誰でも投稿ができる対話型のサイトの普及に伴い、個人や組織がインターネット上で中傷される危険性は高まってきている。そして、中傷された場合、公の場に訴え出て善処を求めようとしても、この種の訴訟は難しく、また高くつく。ほとんどの投稿が無記名で、誰が書いたかを特定するのが困難であり、しかも、1996年の通信品位法(Communications Decency Act)により、ウェブマスターやプロバイダーは、第三者が悪意のあるコンテンツを掲載したとしても、その責任を免除されているのだ。

もちろん、訴訟がうまくいく場合もある。サンフランシスコでインターネット関連の事例を扱う法律事務所、クロネンバーガー・バーゴインでは、医学専門校、引越しサービス会社などを顧客に持ち、「ライバル組織が消費者サイトに悪口を書き込んで、困っている」などの相談に応え、書き込んだ組織を特定し、悪口を削除させることにも成功した。

しかし、現実には、昔のコンテンツが検索結果に表示されるなど、ネット上の影響は残る。さらに、訴訟を起こしたという事実が、さらなる悪口につながったりする。「訴訟はニュース性のあるイベントですから、オンラインでの注目を集め、ことを大きくします」とカリフォルニア大学でコンピュータ関連法を教える、ユージーン・ボロク教授は言う。

こんな事情があるため、IRM会社に頼むのもひとつの選択肢だ、ということになるのだろう。
就職・転職市場でも、ネット上の評判は重要な位置を占める。ビジネスパーソン向けのソーシャルネットワーキングExseCunetの調査によれば、企業の採用担当者の80%以上が、応募者についてインターネットで検索をし、43%がその内容を見て、採用を見合わせたことがあると答えている。入社希望で応募してきた人の名前をキーワードにして検索し、ヒットしたコンテンツにネガティブなものがあったら、不採用にするというのだ。転職を計画する場合、まず、自分の名前を検索してみる必要がある。

しかし、IRMの料金は、一般の人がおいそれと利用できるものではない。ニュージャージーのInternet Reputation Management社の場合、検索結果の1ページ目をきれいに仕上げるためには、月々900ドルで、4から6ヶ月かかる。

昨年設立されたTrucker社では、基本のコンサルテーションが2500ドル、ケースによっては1万ドル以上かかるという。冒頭の医師は、キャンベル氏に3万ドルを支払った。しかも、一度検索結果がよくなったからといって、その後の検索結果が保証されるわけではない。いつ誰が悪口をアップするかはわからないのだ。

「4から6ヶ月もかけたら、検索結果が変わるのは当たり前。それが、IRMのおかげだとどうしてわかるのか」という批判もある。

それにしても、恐るべしグーグル検索。検索結果の1ページ目の表示内容マネジメントに3万ドル(約323万円)である。それくらいの市場価値があるわけだ。私たちが、いかに検索に頼っているかを考えさせられる。検索結果はすなわち、一般的なものの見方や世論としてとらえられ、見る人の価値判断、意思決定に多大な影響を与えているのだろう。実際には、事実と相違していたり、表示順にIRMなどの働きかけが影響しているかもしれないのに、である。

検索をはじめとした、インターネット上の情報に頼りすぎるのは考えものだと改めて思った。ひとつの参考情報として取り扱い、他の情報源とあわせて利用するのがのぞましいのだ。少なくとも、検索結果の1ページ目だけを見て、善悪、好悪の判断をするのは避けたほうがよさそうだ。

<参考>

Conde Nast Portfolio.com 2008/7/8 偽りのウェブ
http://www.portfolio.com/news-markets/top-5/2008/07/09/Internet-Reputation-Management#page1

CBSNews 2008/7/23  自分に関するオンラインのネガティブ項目と戦う
http://www.cbsnews.com/stories/2008/07/23/earlyshow/main4285030.shtml

Charlotte.com 2008/7/13 職を探すなら、見込みをチェックhttp://www.charlotte.com/business/story/710351.html

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○POLAR BEAR BLOG 「名誉回復SEO」 2007/07/03
 発想としては「確かにそんなサービスの需要はありそうだな」という感じで、
 秋元さんも仰っているように「以前から類似サービスがありそう」という
 印象も受けるのですが、Washington Post の記事によればこの種のサービスは
 一種の「産業」と呼べるほどに成長しつつあるのだそうです(ちなみに同記事
 が付けている産業名は「オンライン・アイデンティティ・マネジメント」)。
http://akihitok.typepad.jp/blog/2007/07/seo_bb16.html

 

 


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