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「運動は頭にもいい」というコンセプト ---1日20分のウォーキングが、記憶力低下を防ぐ---

<記事要約>

高齢者の定期的な運動は、心臓病や股関節骨折といった身体的問題のリスクを軽減するだけでなく、加齢にともなう記憶力の劣化の進行を遅らせる可能性が高いことが、オーストラリアの研究者によって確認された。

記憶障害の初期症状がある患者を対象にした研究によると、週におよそ150分間のウォーキングが、記憶力や言語・視覚能力の向上に繋がり、患者に自信をつけさせることにもなったという。

最新のアメリカ医学協会ジャーナル(Journal of the American Medical Association)に掲載された研究結果は、運動が医薬品よりも効果的かつ副作用なしに、記憶力や精神機能を向上させる可能性を示唆している。

2008/9/5 ABC Scienceより


<解説>

もの忘れや記憶の衰えは、年を取れば誰もが経験すること。「えーっと、ほら、あの……」と人の名前が思い出せなかったり、「あれ、どこにしまったっけ?」と考えてしまったり……。それが老化による年相応のものか、脳内で病的変化が進んでいるせいなのか、気になる人は少なくないだろう。

今回の研究に参加した被験ボランティアは、認知症ではないけれど、記憶力の劣化を自覚していたり、軽度認知障害(MCI)が認められる50歳以上の人たち。MCIの段階では記憶以外の認知機能は保たれているため、多少の不都合が生じることがあっても、日常生活にはほとんど支障はないと言われるが、アルツハイマー病に移行するリスクが高く、認知症予備軍とされている層だ。

「中年期以降にアクティブに活動している人は認知症や記憶障害になりにくい」ということは、これまでの研究で明らかになっている。が、認知障害が認められる患者を対象に、運動の効果検証をする研究は、今回が世界で初めてのことなのだそう。日常的な行動を観察・分析したものではなく、予防的介入を行なう実験グループと比較グループとに無作為に分けたランダム化比較試験によるものであることが注目される。

実験グループは、24週間に渡って週3回各50分のウォーキング、または同程度の有酸素運動を行うよう指導を受け、平均すると、比較グループよりも1日あたり約20分運動量が多かった。介入前と介入終了時点に測定された認知機能の指標やテストは、実験グループが改善、比較グループは悪化。18ヵ月後の追跡調査においても、介入グループは向上を示し、持続的効果についても言及されている。

認知症患者についても同様の効果があるかどうかはまだ不明だが、年を取って認知機能が低下してしまった後であっても、「運動は身体にも頭にもいいんだよ」というコンセプトが通用する可能性を証明することになったわけだ。

今、認知症と共に生きている人は、オーストラリアで約23万人、日本で約205万人。世界で約2,980万人と推定されている患者数は、2050年には8,000万から1億人以上に膨れ上がると予想されている。認知症は発症する何年も前から、少しずつ脳の中で変化が起きているという。ライフスタイルをちょっぴり改善することが、リスクの軽減や発症の遅延に繋がるのなら、悪くない。それを各々が日常生活の中でどう実践していくかというのは、大きな課題だけれど。

適度な運動してますか?


○認知症の予防
http://www.ninchisho.jp/prevention/03.html

○認知症とは何か もの忘れとの違い
http://www.e-65.net/bases01_03.html

○記憶力アップの秘訣は、「忘れる」こと──忘れるのも才能のうち?
http://diamond.jp/series/brain/10017/

○冊子「もの忘れが気になるあなたへ」
http://www.npwo.or.jp/library/post/

 

 


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