Entry

在住者の視点から見た米国ネットビジネス(失敗・移り変わり編)

  • 米国在住ジャーナリスト

 ネットビジネスの失敗例としてたびたび取り上げられるのがオンライングローサーを手がけたWebvan。同社はカリフォルニア州のシリコンバレーに1990年設立。ロサンゼルス、サンフランシスコベイエリア、サンディエゴといった州内の都市圏に加え、シカゴ、シアトル、アトランタ、ポートランドなどを対象にビジネスを行っていた。

 ウェブ上で受けた注文から30分以内に配達するサービスをうたい文句に話題を集めたが、2001年7月に連邦破産法の適用を申請、2000人の従業員を解雇して事業を停止した。失敗の原因は、事業拡大を急ぐあまり、過剰な設備投資に会社が耐え切れなくなったためといわれている。

 同社は全米26都市でのサービス提供を実現するために、体力以上の資金をつぎ込んだ。商品の貯蔵倉庫に10億ドルを投じ、事業オペレーションのためのサーバやコンピュータにも惜しげなく資金投入。その結果、資金調達が追いつかなくなり、2001年4─6月の注文数が大きく減少したことをきっかけとして会社を支えきれなくなった。12億ドルの負債を抱え、オンラインコマース最大の倒産などとも言われた。

 成長を焦ったための倒産というが、実際には利用者も伸び悩んだようだ。特にこの種の業態では重要になるリピーターが少なかったという。ブロードバンド環境が整備されていなかった当時の環境のせいもあるだろう。

 だが、オンライングローサー自体がネットビジネスとの相性が良くないのではないかと思える節もある。ドットコム時代に次々に現れた参入者は消え失せ、継続しているところはPeapodなどほんの一部。SimonDeliversもこの8月に注文を打ち切った。Amazonが昨年夏に始めたAmazon FreshはWebvanと同じようなビジネスモデルだが、1年が経過してもサービス区域はシアトルから広がっていない。

 米国では田舎に行こうが、よほどの辺境でもない限り、大抵は車で10分も走れば何らかのグローサリーストアにたどり着ける。そこで店員や顔なじみの客と顔を合わせて言葉を交わしたり、陳列する生鮮食品の中から欲しいものを自分の目で選ぶのが買い物の楽しみでもある。

 ネットで注文して30分以内に配達されるのは確かに便利だが、それに頼らなくてはいけない人たちが一体どのくらいいるのかを考えると少数派に思える。恐らく必要とするのは、超多忙を極める一人暮らしの人、体が不自由で出かけられない人たちなどだろう。

 似たようなビジネスモデルでオンライン・コンビニエンスストアを展開したコズモ・ドットコムも失敗組。日用品を受注後1時間以内に配送するサービスだが、資金繰りが悪化して2001年に倒産している。設立から4年後のことだ。

 もともと低い利益率に設定していたため、利益がコストに追いつかなかったためといわれている。注文処理を行うシステムに対する設備投資や広告宣伝費用なども、過大な負担となった。華麗なビジネスモデルで華々しくオープンはしたものの、採算に見合うだけの顧客を獲得する前に力尽きてしまったケースといえる。

 ドットコム時代に登場し、やがて失敗したネットビジネスには、共通の傾向が当てはまることが多い。画期的なビジネスモデルを引っさげて世間や投資家の興味を引き付けるが、肝心の利用者が思うように集まらず、途中で息切れしてしまう。事業計画自体に初めから無理があるためだ。投資家へのリターンを早期に実現するために、株式市場への上場や大手企業への売却を始めから狙っていることが、こうした状況を生みやすくする。


▼移り変わりの激しい音楽配信

 ネット上で音楽配信を行うサービスも移り変わりが激しい分野のひとつ。ファイル共有ソフトを使ってユーザー間で曲ファイルを交換するNapsterが一躍有名になったのが99年。翌年には音楽業界から著作権を侵害しているとして提訴されて敗訴、その後Napsterは定額制の音楽配信サービスに生まれ変わっている。

 それから現在まで、ベンチャー企業や大手企業が様々な音楽配信サービスに乗り出した。ユニークなサービスもいくつか登場している。初めは曲を無料配信し、ダウンロード回数が増えるに従い値段が吊り上がるAmieStreet。同サイトは売上げの7割をアーティストへ還元するなど、無名シンガーの育成にも貢献している。

 SpiralFrogは、完全無料の配信モデルを採用した初のサービスとして注目を集めた。運営コストとレコード会社へ支払うライセンス料は、広告収入から捻出している。こうした新手のサービスに大手レコード会社は慎重だが、Universal Music Groupから曲の提供を受けたことも話題を呼んだ。AmieStreetとSpiralFrogは現在でもサービスを続けている。

 そのUniversal Music Groupは、Sony BGMなどと共同で無料音楽配信サービスに乗り出す計画を進めている。Total Musicと呼ばれるこのサービスを受けるには、対応した音楽プレーヤーを購入することが必要。レコード会社は、これらの機器メーカーから1台あたり90ドルを徴収する。メーカーはそのコストをプレーヤー価格に上乗せするだろうから、正確にいえば無料ではない。

 今のところサービス開始時期は未定だ。今年2月に司法省が独占禁止法の疑いで調査を開始するなど、必ずしも計画は順調ではない。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○MediaSabor  2008/09/10
 「在住者の視点から見た米国ネットビジネス(成功編)」
http://mediasabor.jp/2008/09/post_479.html

 

 


  • いただいたトラックバックは、編集部が内容を確認した上で掲載いたしますので、多少、時間がかかる場合があることをご了承ください。
    記事と全く関連性のないもの、明らかな誹謗中傷とおぼしきもの等につきましては掲載いたしません。公序良俗に反するサイトからの発信と判断された場合も同様です。
  • 本文中でトラックバック先記事のURLを記載していないブログからのトラックバックは無効とさせていただきます。トラックバックをされる際は、必ず該当のMediaSabor記事URLをエントリー中にご記載ください。
  • 外部からアクセスできない企業内ネットワークのイントラネット内などからのトラックバックは禁止とします。
  • トラックバックとして表示されている文章及び、リンクされているWebページは、この記事にリンクしている第三者が作成したものです。
    内容や安全性について株式会社メディアサボールでは一切の責任を負いませんのでご了承ください。
トラックバックURL
http://mediasabor.jp/mt/mt-tb.cgi/828