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マイ・オウン・ハッピネス---私の幸せ基準

  • 株式会社ジャパンライフデザインシステムズ 代表取締役社長
  • 谷口 正和

■幸せ選びの基準とは?
 
 アーユー・ハッピー? と聞かれて、その答えがハッピーにせよアンハッピーのいずれにせよ、異口同音に同じ答えが返ってきたのが、高度成長時代における以前の大衆だった。全員、程度の差こそあれ、同じ価値観の元に同じ幸福感を求めていたからである。

 さて、たしかトルストイの小説だったと思うが、「幸福な家庭はみな同じように似ているが、不幸な家庭はそれぞれに違う」というような一節があった。高度成長時代はまさにこれで、マイホームやマイカーを持ち、同じワンポイントのウェアを着て、全員似たような幸福」に満足していたのである。幸福は全員似ていて、不幸はそれぞれ違っていたのだ。

 個人の時代が到来した今日、この逆の言い方が通用するのではないだろうか。それは「不幸な個人はみな同じように似ているが、幸福な個人はそれぞれに違う」である。類似性は不幸にあり、差異性は幸福にあると言うことだ。幸福にこそ個人個人の独自性があると言うことである。

新聞やテレビで報道される不幸な事件は、大変類似している。事件そのものは悲惨なのだが、パターンが大変似ているのである。

 政治も企業も、人々の幸福感が同じであるときのほうがやりやすかっただろう。人を駒として動かそうとすれば、「共通の螺子(ねじ)からなる集団」のほうが制御しやすいのは当然である。

 しかし到来した個人化社会は、幸福感も含めて、個人の価値観が微妙にそれぞれ違う。もはや螺子の集団ではなく、形も色も味も違う「果物の集合」なのである。

 現在テレビや新聞と言った大手マスアドバタイジングが苦しんでいるが、これは対象を同じ価値観の保有者としての「螺子ターゲット」として捉えているからだとも言える。しかし消費者は自らのライフスタイルとライフウェイに従った個性的な「果物ターゲット」となっており、そのずれはとてつもなく大きい。 
広告とは幸福感の訴求だろうが、その幸福感を一律に訴えようとする限り、そのずれはますます大きくなっていくだろう。


■人は価値の旅人

 では今日の私たちの「幸せ判定軸」はどこにあるのだろうか? それは個人個人の日常のささやかな「幸せ基準」の中にある。

 今日はどういう風にご飯を食べる? 一人ご飯? 仲間ご飯? 今度の休日はどんな風に過ごす? 一人旅? それとも家でごろごろ?

 このようなささやかな判定を軸に、顧客の暮らし方と生き方は、「パーソナル・ワンマンライフスタイル・ツーリスト」とでもいうべき「個人生活旅行者型」になってきているのだ。一人判断を軸に、そのときの気分や状況を加味しながら、「幸せ基準」を求めていく姿といえる。

 「幸せ基準」は日常のライフスタイルの中にあり。大きな幸せよりも、小さな幸せの継続的つかみ方の中に新しいライフスタイルモデルの芽が見えている。認識と目線、感性と心理の納得。そのような「そう思う」という判定の中に、自己創造される幸せ感がある時代だといえる。


■キョンキョン的幸せ感
 
 キョンキョンこと、小泉今日子さんが新たな人気をつかんでいる。映画「グーグーだって猫である」「トウキョウソナタ」などに出演し、新しい個人の幸福のあり方を演じている。

 小泉今日子流の幸せとは、年下の彼氏とこだわりなく付き合っている、守りに入らないファッションと言動。女優として話題作に次々と出演、今年8月にはサマーソニックのライブにも登場した。長年ファンを魅了し続ける小泉さんの幸せ基準は「大事なのは自分が今、幸せかどうか。」だと秋元康氏は分析している(アエラ  9/22号)。

 このキョンキョン的幸せ基準は、多くの女性の共感を呼んでいるに違いない。「アラフォー(40歳前後)」の代表的価値観の1人として、時代をリードしているのだ。これからの時代をリードするのは、単なるきれいとかかわいいだけではなく、その持つ価値観が大きな力を持つに違いない。

 レストランの「おひとりさま」は幸せそうである。お店の立場から見たひとり客の様子を「ポブイユ」の福島さんと「ドンチッチョ」の石川シェフがトークしている(GINZA 10月号)。「おひとりさま」はきれいに食べる人が多く、料理の選び方、判断も明確だそうだ。ひとりの時間を有意義に過ごす様子が大変好ましいと言う。ココにも個人的な価値観を優先する女性と、それを認める男性の価値観変化が見事に出ている。

 「オタク生態マンガ」が人気だ。結婚や育児など女性の日常をユーモラスにつづるマンガ「コミックエッセー」は、今やベストセラー書籍のジャンルだが、最近派生の「オタク生態もの」が人気である。『理系クン』は理系学生独特の思考法を恋人の視点から観察し、紹介したもの。他に『ぼく、オタリーマン』や『となりの801ちゃん』なども人気である。その筋の人には共感を呼び、「あるある」「そうそう」といった日常心理的な共感を呼んでいるのがポイントだ。身近でない人でも知的好奇心をかきたてるらしい。

 マイ・オウン・ハッピネス・・・人それぞれの幸福感。そこを丁寧に見て、パーソナル・アプローチを軸に顧客に接近していく時代なのである。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○広告代理店の現場からみた、役に立つ読書案内
 「わたしたち消費」...“ネタ”が取り持つ理想の共同体?  2008/06/17
  特に印象に残った視点は「共同体」に関する論考でした。
 1980年代以降の消費者論では、大衆が分衆になったとか、中流層が崩壊して
 上流と下流に二極化したとか、同じ価値観やライフスタイルを共有する
 グループがどんどんミニサイズになってきたというのがずっと語られてきました。
 結果として、多様な個性や価値観にフィットするような商品やサービスが
 好ましいと言われてきた訳です。しかし一方で今日でも「ブーム」というのは
 健在で、しばしば互いに脈絡のない短期的なブームが次々に現れては消えて
 いきます。ばらばらな価値観を消費者が持っているのになぜそのようなことが
 起きるのか、ということを筆者は問題意識として設定したようです。
http://www.ad-bookreview.com/archives/51296560.html

 

 


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