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2008年ファッション界の「変」

 「変」。2008年の世相を象徴する「今年の漢字」だ。ファッション界にも異変が多かった。景気の落ち込みを背景に、後ろ向きな「変調」が目立った中、ユニクロやH&Mのようなファストファッションは、消費者直結のたくましさを証明した。一方、ラグジュアリーブランドは苦戦。ファッション誌も休刊が相次いだ。景気の影響を受けやすいファッションビジネスにとって2009年も「大変」な年になりそうな予感がする。

 ユニクロは景気低迷の逆風下、「一人勝ち」と言ってよい躍進を続けた。カジュアルウエア店「ユニクロ」をグループ会社の下で展開するファーストリテイリングは11月の売上高が前年同月比で32.2%増えたと発表した(国内既存店ベース)。アパレル業界が厳しい状況の中で、ユニクロの放つ輝きはあまりにも同業他社とかけ離れている。

 ただ、既存の「アパレル」というくくりでユニクロを見るのはあまり正しくない。百貨店のように商品を仕入れて売る、もしくは売り場を貸すという業態ではなく、自前で企画・製造し、直営店舗で販売するSPA(製造小売業)という業態だ。しかも、生半可なSPAではない。新素材を開発し、商品を考案するそのオリジナルな取り組みはもはやソニーやトヨタ自動車のような「発明業」の域に踏み込んでいる。

 ヒット商品となった保温肌着「ヒートテック」もその一例。最初のタイプは2003年に発売されたが、それ以降も毎年、機能を磨き上げ続けてきた。「汗をよく吸い、すぐ乾く」という売り文句はこれまでにも様々な商品に冠されてきたが、繊維メーカーと二人三脚で手塩にかけた「ヒートテック」のポリエステル長繊維は他社には真似できない。中国工場に日本から染色や縫製のベテラン職人チームを送り込んで、素材の品質管理を重ねる取り組みは、そのアプローチ自体が特許と言ってもよいほどだ。

 「黒船襲来」と騒がれた「H&M」の日本上陸も今年最大級の話題となった。日経MJが発表した2008年のヒット商品番付で、横綱は「ユニクロ・H&M」と、両ファストファッションが並び立った。

 「ハイファッション」を掲げ、最新モードを採り入れながらも、手ごろなプライスタグを付ける---。H&Mの提案する商品群は、ベーシック志向のユニクロとは対極に位置するが、ともにリーズナブルプライスと商品納得度という点で消費者の支持を集めた。ただし、勘違いしてはいけないのは、安いから何でも売れたわけではない。一定の価格帯以下にあって、際立った商品価値を持つブランド、ショップだけが集中的に買われた。その意味で言えば、消費者の選別眼はこれまで以上に鋭くなったと言ってよい。

 顧客の懐具合が寂しくなって、一番あおりを受けたのが、ラグジュアリーブランドだろう。ラグジュアリーブランドは購買意欲が高い上顧客を抱えていることから、不況に比較的強いとされてきたが、富裕層まで巻き込んだ今回の景気落ち込みからは、無縁とはいかなかったようだ。

 歳末商戦を前に、海外ラグジュアリーブランドは日本国内で相次いで値下げに踏み切った。円高還元が理由で、それ自体は当たり前の事だが、消費者の高額品離れの流れを変えるには、ラグジュアリーブランドとしては一番嫌な「価格を下げる」という苦渋の決断を強いられた結果と見える。

 ところで、ファッション誌の休刊も苦戦を物語ったが、すべてのファッション誌が部数を落としているわけではない。宝島社の女性誌「InRed」は11月号で過去最高部数を更新したという。読者目線で選ぶタイムリーな付録や、コンビニエンスストアのラックで目立ちやすい表紙デザインなどが功を奏した。

 「MARC BY MARC JACOBS」「ANNA SUI」などのブランドを紹介する宝島社の「ブランドムック」シリーズもヒットした。1000から2000円台という、通常のファッション誌よりも高い値付けでありながら、トートバッグや折り畳み傘などのレアなオリジナル付録を武器に、ブランドに近付きたい潜在的ファンをたぐり寄せた。月刊誌のような定期刊行物の雑誌ではないが、カテゴリーやスタイルにとらわれない「雑」のスピリットはむしろ、既成のファッション誌よりも濃い。

 ウェブに向かっている雑誌も多い。ヤフーの雑誌サイト「X BRAND」には「Sweet」「STORY」「marie claire」「FRaU」「美的」「CREA」「Harpers’s BAZAAR」などの有力女性誌が名を連ねた。先に挙げた「勝ち組」の「InRed」も参加している。12月からは「MISS」が加わり、今後もさらに厚みが増していくと見える。

 集英社は12月、ファッション誌「marisol」のサイトを、日本経済新聞社のニュースサイト「NIKKEI NET」内にオープンした。同社は自社雑誌のポータルサイトとして別に「s─woman.net」を持ち、雑誌掲載の商品が買える通販機能を提供している。こうした雑誌連動の物販手法はかなり前から定着していて、「マガシーク」では「CanCam」「Ray」「with」などに載ったアイテムが買える。

 一方、「VOGUE NIPPON」と「エル・ジャポン」という国際派の正統派ファッション誌はサイトでも最新ファッション情報の発信にぬかりがない。ファッション情報を通して、上質な固定読者を囲い込みたいと考えているように見える。こうしたウェブ媒体との向き合い方から、各ファッション誌の事情やポリシーが透けて見えるところがあり、このあたりの取り組み方も2009年にはさらにはっきり違いが表れそうだ。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○CNET  2008/11/25
 女性向けアドネットワーク「Glam Media」、日本向けサービス開始
 Glam Mediaは2006年に米国で設立された。運営するメディアは、米国で
 5200万人、世界中で月間約7500万人ユニークユーザー
 (コムスコア・メディアメトリックス 9月度調べ)が訪れるという。
 ファッションやライフスタイル、エンターテインメントなどの女性向け
 カテゴリーのウェブサイトを世界中で640以上ネットワークし、それらが
 持つ広告枠に対して広告を配信している。
http://japan.cnet.com/marketing/story/0,3800080523,20384149,00.htm


○SANAGI ---仕事、IT、英語、メディア、読書など 2008/11/26
 「宝島社の女性誌、過去最高の部数達成続出(らしい)@日経MJ11月26日」
 服のテイストも、キャリア系すぎず、どちらかというとナチュラルでも
 オシャレな感じで、昔のOliveを思い出します。
http://pupapupapupa.blog42.fc2.com/blog-entry-168.html


○UNIQLO HEATTECH CM 2008(YouTube 00:30)
http://jp.youtube.com/watch?v=ZJsutpL1Eh0

 

 


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