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拝金主義が蔓延るフランス高級レストランと反発する料理人

フランス料理は、世界に誇る美食料理。しかし、フランスの料理界は、王座にあぐらをかいているわけではない。料理関係者達は、たゆまぬ努力をしている。フランスにおいて、料理は立派な文化。今、フランス料理界に変動がおこっている。変化を続ける料理界に、注目が集まっている。

12月1日から8日にかけて、パリで「フーディングFooding週間」が開催された。


現在、ミシュランの星がついた高級レストランは、美味しい料理を楽しむ処から、ビジネスマンの接待や交渉の場になってしまった。星をとるために巨大な投資をし、料理批評家達にごまをするシェフも少なくない。ミシュランの星がつくと、飛躍的に売り上げが伸びるのだから仕方ない。拝金主義が、料理界にも浸透している。

サン・ボネ・ル・フロワという村にある3つ星レストランのシェフ、レジ・マルコンは、ビジネスライクになりすぎている高級レストランの現在の風潮を嘆く。金儲けだけでなく、料理人としての創る喜びと顧客の満足感の両方を得るために、原点に戻るべきだと力説している。伝説の料理人アラン・シャペルの「習慣からは、喜びは生まれない。伝統に新しさを加え、均衡のとれたものを作るべきだ」という言葉が、再び引用されていた。


ビジネス的になってしまった現状を打開しようと、料理そのものをみつめる人もいる。アレキサンドル・カマ(Alexandre Cammas)とセバスチャン・デモラン(Sébastien Demorand)が、フランス高級料理の、今むかしを再現するイベントを企画した。

有名シェフを5人招聘して、フランスの伝統料理の「以前」、つまり30年前の料理と、今をときめくスターシェフらが考え出した「現在」の料理方法を比較するのだ。パリ5区にあるゴブラン美術館を会場にして、200人の招待客は、毎夜、新旧の料理を食し、調理方法の変遷を体験するというわけだ。

例えば、リッツ・ホテルのレストランのシェフ、フィリップ・ロス(Phillippe Roth)は、鶏の肉詰めに挑戦。30年前のヴァンドーム(Vendome)風(ヴァンドームはリッツ・ホテルのある広場の名前)というのは、鶏を煮込み、真ん中に肉野菜を巻いてグラタンにして、アーティチョークのスープとトリフ茸の味に仕上げたものだった。ロス氏が考える肉詰めは、鶏肉を柔らかく固め、フォアグラのソースで仕上げる。時代とともに、客の味覚も、シェフの感性も変わり、料理も新しい要素がどんどん加えられていく。

30年で、フランス料理もかなり変わった事が実感できるイベントだ。料理の文化を伝えていこうという姿勢がフランスらしさといえるだろう。


また、フランスの料理界の拝金主義に反発している若い世代もいる。「ビストロノミー」現象をつくりだした意欲的なシェフ達だ。イヴ・カンデボールド、ティエリー・ブレトン、クリスチャン・エシュベスト、アラン・デゥトルニエといった30代から40代のシェフ達は、高級ホテル、三ツ星レストランで働いた後、自分の店を開く。

料理の質は落とさずに、カジュアルな雰囲気で、リーズナブルな値段、つまり定食で40ユーロ以下で食べられる料理をだしている。手の込んだフランス料理を、普通のフランス人が、友人と、家族と、一緒に食べるべきだと思っている。安くて質のよい季節の食材を使い、サービスは伝統的なビストロスタイルで、暖かいけど慇懃ではなく、店内の装飾や食器にお金をかけないことで、リーズナブルな値段設定を実現しているのだ。


世界中から絶賛されるフランス料理。シェフや料理関係者の革新的、意欲的な試みで、変遷しつづけているからこそ、王座の地位を確保しているといえる。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○NextReality 「ミシュランガイド東京の致命的な欠陥」2008/11/22
 星つきしかリストされていないのは、星付きレストランの価値にも関わる
 問題だ。他のミシュランガイドで相当数掲載されている、星なしの
 レストランは、将来の一つ星、二つ星、三つ星の潜在的な候補でもある。
 また、それだけの数の店をミシュランが責任をもって調査したよという
 厚みの証明にもなっている。
http://d.hatena.ne.jp/rkmt/20081122/1227368105


○フードアナリスト【フジーニ日記】「アラン・シャペルに捧ぐ」 2007/11/03
 食べた人にしかわからない「消える芸術」は、多くの人を魅了してやまない。
 アラン・シャペルが信じていた料理への想いを具体的な形にしながら、
 築き上げた彼独特の料理哲学は、彼の死に際して消滅することなく多くの
 有志に引き継がれている。
http://fugini77.cocolog-nifty.com/blog/2007/11/post_8779.html

 

 


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