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サンパウロのストリートから世界の美術館へ 「オス・ジェミオス」

黄色い顔に細い手足。壁いっぱいに描かれた作品は、周りの風景に驚くほど一体化しており、街行く人々の関心を誘う。どことなくさびしげな表情のキャラクターと、カラフルな色使いが独特の雰囲気をかもし出している。夢から覚めたばかりのような表情はブラジルの厳しい現状を憂いでいるようだ。

時に社会、政治批判を含んだ内容のこれらの作品は、グラフィックアーティスト、オス・ジェミオスのものだ。1974年、サンパウロ生まれの双子のグスタヴォとオッタヴィオのユニットで、オス・ジェミオス(Os Gemeos)はポルトガル語で「双子」という意味だ。1987年より、ブラジル独自のストリートアートスタイル確立に大きな影響を与えてきた。伝統的ヒップホップとグラフィティの影響を大きく受けている。

ブラジル人にとってストリートとは、椅子を並べてビールを飲んだり、サッカーの練習をしたり、サンバを踊ったりする公共の生活の場。そんなストリートを作品製作の場として選ぶアーティストは年々増えている。「落書き」か「芸術」かの議論はブラジルでも行われているが、基本的に持ち主の許可さえ取れればペイントすることは違法ではなく、街中に様々なアーティストの作品があふれている。


オス・ジェミオスはその中でも、ストリートから世界の主要美術館へと飛び出したブラジルを代表する存在だ。「私たちにとってストリートは、学校でした。」と彼らはいう。生まれ育った街の壁からペイントを始め、描くことのみでなく人生の面でも多くのことを学びつつ、世界へと向かった。



2008年にはロンドンのテート・モダンのストリートアート展に参加。その他にもアメリカのコニーアイランドにおけるプロジェクトで描かれた18メートルの作品が有名だ。彼らの作品はブラジル、アメリカ、ドイツ、キューバ、イギリス、ギリシャなど、世界各地のストリートに散らばっている。

彼らの作品は、描く場所の人々の生活を土台に、独創的な彼らの感覚を大切に即興で生み出されたものだ。「描かれるものは私たちが見たものだ。」と彼らはいう。「その土地のにおいを嗅ぎ、そこに私たち二人の歴史を織り交ぜていく作業をしている」。そして紙上で構想を練ることはあっても、実際ペイントし始めたらその時々のインスピレーションで大幅な変更をすることを恐れないという。

そんな彼らの姿勢は、「海に浮かぶ小さな船」と自称する「スタイル」に基本があるようだ。「“スタイル”という言葉はリミットを生み出す。私たちは常に自分たちを表現できるデザインを探してきたし、常に描いてきた。今日の私たちのスタイルは、私たちが好きなこと全部がミックスされている。スタイルは、私たちから自然に生まれ変化を続けるだろう。」



現在はストリートだけでなく、立体的なオブジェや美術館展示用の作品も手がけており、世界各地で展覧会も開いている。また、ハンク・レヴィン監督の映画「GINGA(ジンガ)」のグラフィティアート製作を担当したことから、「シティ・オブ・ゴッド」の監督でもあるフェルナンド・メイレレスに高く評価された。それがきっかけでRede Globo局のドラマ「シティ・オブ・メン」のアニメーションを手がけた。「新しい経験だった。」とオッタヴィオはいう。要請があった時に2人がフェルナンド・メイレレスに伝えた言葉は、「遊んでみようか。どんな風になるのか見てみよう!」

変化をおそれず遊び心たっぷりで挑む2人の作品は、すでに壁から飛び出して世界の多様な分野を闊歩している。


▼オスジェメオス  インタビュー(英語)
http://jp.youtube.com/watch?v=VuTi4nZv_cI&feature=related

▼kelburn castleでの製作模様
http://jp.youtube.com/watch?v=__C-MjmVUrU&feature=related

 


【編集部ピックアップ関連情報】

○カポエィラ日誌 女子部  2008/11/27
 「ネオ・トロピカリア--ブラジルの創造力」レポート
 この展示の最大の目玉は、「オス・ジェミオス」の、この展覧会の
 ために製作された作品。これはもうどうにも私の貧相な言葉では解説
 できないので、皆さん観て来てください!すごいから。一見の価値あり。
http://casa14.pokebras.jp/e66548.html

 

 


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