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本物のもみの木に本物のキャンドル---デンマークのクリスマスツリー

前回に引き続き、今回もデンマークのクリスマス、Jul(ユール)にまつわるお話を。その中でも絶対に欠かせないもののひとつがJuletræ(ユールトレ=クリスマスツリー)である。

デンマーク全250万世帯のうち、およそ150万世帯が本物のもみの木を使い、それに電飾でなく、本物のキャンドルを飾り付ける。人々は毎年、クリスマスツリー畑のそばや町の広場にオープンするツリー直売所などに出向き、それはそれは真剣にツリーを選び抜く。

全体のシルエット、バランス。飾る予定のリビングなど、部屋の天井の高さとマッチするかどうか。お気に入りの一本が見つかったら値段交渉を開始。完璧なツリーを求めるあまり、高さ、サイズ、シェイプなどが盆栽のようにコントロールされたツリーや、オーガニックのツリーを買い求めるために700DKK(デンマーククローネ*)以上を費やす人たちもいるという。が、だいたい、今年の場合は2mの高さのもので150から250DKK、2.5mの高さで300DKKから、というのが相場のようだ。(*12月15日現在、1DKKは約17円)

デンマーク・クリスマスツリー栽培者協会(http://www.ps-xmastree.dk/)によるとツリーの栽培者は全国に3500人ほどいる。ノルドマンモミをメインに、年間1200万本のクリスマスツリーを栽培し、この他デコレーション用の緑樹も、ノーブルモミ、ノルドマンモミを中心に年間4万2千トンを栽培している。また、デンマークは年間1千万本のクリスマスツリーを海外に輸出しており、そのうちの半分がお隣のドイツへ、その他フランス、イギリス、ノルウェー、オーストリア、スイス、オランダ、さらには香港やシンガポールにも送られている。ちなみに、昨年のツリー、デコレーション用緑樹の総輸出額は約14億DKKにも上る。

ここ数年はツリー不足で価格が上昇、昨年だけでも10%増しだとか。クリスマスツリーとして人気のあるノルドマンモミは、栽培に少なくとも7から8年はかかる。21世紀が始まった頃はツリーの価格がそれほど高くなく、多くの栽培者がこの時期にツリー作りを止めてしまったのが、今の価格上昇の主な原因だ。「ツリー不足は深刻。この先何年かは価格が上がり続ける可能性もあります。幸い、次の世代の木々が育ってきてはいますが、魔法をかけて、それらの成長を早めることは私たちにもできませんからね」。ツリー栽培兼販売業者のグンナー・ステファンセン氏は、フリーペーパー“Urban”のインタビューで、こう答えている。(http://www.urban.dk/article/20081205/nyheder/81205002/1104/pcindland/

こうして、各家庭に今年もやってきたクリスマスツリーは、それぞれの家に代々受け継がれているクリスマス・デコレーションや、子供たちが作る伝統的な飾りで彩られる。ユール・アフトゥン(クリスマス・イヴ)にアヒルやガチョウの丸焼きや豚の皮付きグリル、カラメル・ポテト・煮込んだケールのディナー、そしてリスアラマン(アーモンド入りのミルク粥)のデザートを食べた後、クリスマスツリーにろうそくを灯し、デンマークにたくさん伝わるクリスマスの歌を何曲も歌いながら、炎揺らめくツリーのまわりをぐるぐる踊るのがこちらの習慣だ。その後、ツリーの下に置いてある、たくさんのプレゼントをひとつずつ開けていくのがならわしである。

ツリーに本物のろうそくを灯すなんて、と眉をひそめる人も日本にはいるかもしれない。しかも、そのまわりを歌いながらぐるぐる踊るなんて、ちょっと聞いたところ危険極まりない感じもする。でも、こちらの人はもちろんバケツの水を用意しているし、子供にも火の扱いやツリーのまわりでふざけすぎないように、よく言って聞かせる。

私も、デンマークに来て初めてその光景を目にした時、「危なくないの? 子供たちは大丈夫?」と思わず聞いた。彼らは「子供たちに、火の扱いについて教えるいい機会だから。それに、子供たちの胸に刻まれるクリスマスの風景は、やっぱり本物のモミの木とその香り、それに本物のろうそくの灯りでなくては。プラスチックのツリーに、電飾の灯りでは、暖かさも美しさも感じられないでしょう?」と答えた。確かに、そう思う。私自身、毎年クリスマスツリーを見るたび、感動してつい涙ぐんでしまう。それほどの美しさと厳かな雰囲気が、モミの木とろうそくのツリーにはある。

クリスマスの時期が過ぎると、役目を終えたツリーは暖炉や薪ストーブで燃料となる。アパート住まいで家に薪ストーブがない人のツリーは、近くの施設や森の幼稚園などに寄付され、やはり燃料として最後まで無駄なく使われる。中には、根付きのツリーを買う人もいるが、そういう人たちは、クリスマスの後、そのツリーを庭に植える。ちなみに、ノルドマンモミは約10年の成長段階で1本につき10kg弱のCO2を吸収するそうだ。

1808年に、ドイツから初めてデンマークに伝えられたというクリスマスツリー。年に一度の大切な行事を彩る本物のモミの木のツリーは、伝統的にも、産業的にも、環境的にも、今ではデンマーク人にとって、なくてはならないものなのだ。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○London日記 「クリスマス・ツリーが高騰?」 2008/11/28
  英国に対し、モミの木の輸出を行うデンマークの「Nordmann Fir」社によると、
 今年の英国への輸出は例年の200万本から30万本に減少したとのことです。
http://tweety-you.jugem.jp/?eid=9

 

 


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