Entry

「ポストH&M」を狙う黒船ファストファッション・ブランド群

 「ファストファッション」は日本を揺さぶり続ける。「H&M」と「ユニクロ」が2008年最大のヒットとなった日本のファッション界。2009年は米国のカジュアルウエア「アバークロンビー・アンド・フィッチ」(Abercrombie&Fitch、通称アバクロ)や、「ポストH&M」の前評判が高い「フォーエバー21」(FOREVER21)が日本進出を予定している。消費意欲が冷え込む中、スピーディーな商品投入と、リーズナブルな価格設定に強みを持つ「ファストファッション」は今年もファッション界の主役であり続けそうだ。

 H&Mは日本進出1年目の2008年、東京・銀座、原宿に出店。2009年は秋に渋谷、と新宿店を開く予定だ。2010年には大阪市へ心斎橋店を構える計画で、着々と拠点と売上高を増やしていくと予想される。

 お手ごろ価格帯に「ハイファッション」を持ち込んだ点で、H&Mは画期的だった。世界の4大コレクションで発表されるような最新モードを反映したアイテムを、リーズナブル価格でしかもスピーディーに店頭に並べる手法は、ファストファッションの新しい可能性を日本に持ち込んだ。

 ユニクロはファッションビジネス全体が沈む中、2008年11月の直営店売上高は前年比32.2%増を記録。過去最高の月間売上高を達成した。節約志向の高まりがかえって追い風になっている。12月には家庭の洗濯機で洗える「マシンウォッシャブルニット」も売り出した。

 一人勝ちの売り上げを支えているのは、ヒートテックやフリースなど、独自技術で練り上げた「オンリーワン」の商品。単に商品を売る「ショップ」ではなく、機能やメリット、そして納得感を売るというユニクロのポジショニングは、アパレルという定義すら書き換えつつある。

 H&Mとユニクロは「デザイン」と「機能」という、それぞれ異なる商品性を武器に、オリジナルな立ち位置を確保している。両者の共通点は「納得感のある値付け」だ。百貨店やラグジュアリーショップの値付けに、根本的な疑義を突き付けたからだ。「その値段は妥当か」「価格に根拠はあるのか」と。値札にふさわしい「納得」のハードルを上げた今の消費者は手強い。

 H&Mもユニクロも、国内で最も地価の高い銀座に旗艦店を構えている。だから、「場所代」は理由にならない。残るはデザイン、機能、品ぞろえ、空間、もてなし──。百貨店やラグジュアリーショップが売り物にしてきたこういった複数の要素が1つ1つ、「値段に見合う価値があるのか」と、消費者サイドから問い詰められ始めたのだ。

 これまでは「クオリティー(品質)」というぼんやりした言葉で全部をごっちゃにして、値札の妥当性を主張することができた。でも、ロープライスで機能やデザインに優れたブランドが登場したために、百貨店やラグジュアリーショップは追い込まれている。

 買い手側の目が厳しくなってきたことは、新たに日本市場に参入するファストファッション企業にとって追い風になる。しかも、値段もブランドも異なる様々なアイテムをミックスするクロステイストの着こなしが定着してきたのも、単品買いしやすいファストファッションを選びやすくしている。H&Mやユニクロなどのアイテムは、最初からミックス素材の1つとして選ばれるのを前提にデザインされているところがある。

 2009年内の日本進出が見込まれているアバクロは、同じファストファッションでも、H&Mとはずいぶん路線が異なり、米国西海岸風のカジュアル志向。主な対象年齢も10から20代と、総じて若めだ。既に進出済みの「GAP」(ギャップ)とユーザー層は重なる。日本では上陸前から輸入ショップやサイトで売れていて、日本第1号店も人気が出るのは確実だろう。

 アバクロ日本進出はアジアへの初出店ともなる。日本第1号店の場所はまだ公表されていないが、東京・銀座が有望という報道があり、今後の成り行きが興味深い。

 フォーエバー21は春にも東京都内に日本第1号店がオープンすると見られている。こちらは米国・ロサンゼルス発のカジュアルウエアで、「LAセレブ風カジュアル」という特長を持つ。

 地下1階から地上4階の5フロアという巨大な第1号店の場所は、東京・原宿のH&Mの隣といわれていて、お隣のH&Mや、歩いて1分程度のGAPとの競合が確実。買う側からすれば、一度に買い回りが楽しめる。さらに、銀座や新宿への出店も噂されている。

 ファストファッションと言っても、業態は一様ではない。H&Mやユニクロは自社で商品を企画・開発し、生産を経て、販売まで一貫して手がけるSPAという業態。「SPA」(Speciality store retailer of Private label Apparel)とは、もともとはGAPのドナルド・フィッシャー会長が1986年に発表した、自社のビジネスモデルを表した言葉だ。

 しかし、フォーエバー21は自前で大勢のデザイナーを抱えて、自社工場で生産するというわけではない。フォーエバー21向けに生産してもらった商品を仕入れて販売しているという業態だ。一般的なSPAではないのだ。素材開発への関わり具合は、ユニクロのようには高くない。

 では、フォーエバー21を支えているのは何かと言うと、カリフォルニア州にあるたくさんの中小アパレルメーカー。彼らと連携して、様々なアイデアを巧みに商品化して、膨大な商品群を生み出しているのが、フォーエバー21の特長であり、強みともなっている。

 実際、フォーエバー21のアイテム群はテイストの異なるアイテムがかなりあり、「フォーエバー21」という傘の下にたくさんのユニットがいるような仕組みが透けて見える。その意味で言えば、同社のビジネスモデルはOEM(Original Equipment Manufacturing、相手先ブランドによる生産)と問屋仕入れのいいとこ取りのような形態と見ることができそうだ。

 2009年以降に日本進出の可能性が取り沙汰されそうなブランドには、「アーバン・アウトフィッターズ(Urbanoutfitters)」と、そのお姉さん系の「アンソロポロジー(Anthropologie)」、妹分の「フリーピープル(Free People)」の3姉妹ブランドが挙げられる。アーバン・アウトフィッターズは日本語サイトも立ち上がっていて、リアル店舗の出現は現実味を帯びつつある。

 GAP系の「バナナリパブリック(Banana Republic)」は上陸済みだが、「OLD NAVY」(オールドネイビー)はまだ。アバクロ系のブランドにも、高校生に人気のサーフ系ブランド「ホリスター(Hollister Co.)」、大人っぽい「ルール No.925(Ruehl No.925)」といったブランドがある。

 「アメリカン・イーグル・アウトフィッターズ(American Eagle Outfitters)」も米国系有力カジュアルウエアブランドの一角。通販サイトでは人気が出始めている。同じく西海岸系の「ウェットシール」(Wet Seal)、「シャーロット・ルッセ」(Charlotte Russe)なども日本の通販サイトで取り扱いが始まった。「AERO」のロゴで知られる西海岸のカジュアルブランド「Aeropostale」(エアロポステール)も日本で知名度が上がってきた。

 ランジェリーの「ヴィクトリア・シークレット」(Victoria's Secret)はかねてから日本進出が確実視されてきた。米国のアパレル企業はこぞって売り上げを落としているが、ヴィクトリア・シークレットは景気低迷がはっきりした後の2008年12月に、ニューヨーク市マンハッタンに大型旗艦店をオープンし、ブランド力を証明して見せた。景気の動向に比較的影響を受けにくいアイテムだけに、ファッション逆風下でも日本進出に動く可能性がある。

 流通系企業で動きが気になるのは、ディスカウントストア大手の「ターゲット」(TARGET)。世界最大の小売業「ウォルマート」(Walmart)に次ぐ、この業態で米国第2位の規模に成長した。

 もともと百貨店だけに、ファッション分野では進んだ取り組みが多く、著名ファッションデザイナーとのコラボでも、2003年にアイザック・ミズラヒ氏と組んでこの仕掛けの先駆けとなった。最近でも「アニヤ・ハインドマーチ」や「タクーン」とのコラボを成功させている。

 ファストファッションの活況はファッションの衰退を意味しない。消費者の目が厳しくなり、高いレベルの「納得」を求めるようになったのは、むしろ中途半端なブランドや商品を振るい落とす効果を発揮するはずで、ファッションの質的向上につながると期待できる。

 他人の真似ではないデザインや、丁寧な手仕事には、ファストファッションとは別の評価軸で「納得」が得られる。存在価値が問われるのは、中途半端なもの。その意味でファストファッションは、生き残るべきファッション企業やブランドを選別してくれるのではないだろうか。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○チョコっとラブ的なにか 「マイ・ファストファッションランキング」2008/11/25
http://d.hatena.ne.jp/love_chocolate/20081125/p2


○Victoria's secret fashion show 2008 2009 part 1(YouTube 04:32)
http://it.youtube.com/watch?v=qft2xSDBr3c

 

 


  • いただいたトラックバックは、編集部が内容を確認した上で掲載いたしますので、多少、時間がかかる場合があることをご了承ください。
    記事と全く関連性のないもの、明らかな誹謗中傷とおぼしきもの等につきましては掲載いたしません。公序良俗に反するサイトからの発信と判断された場合も同様です。
  • 本文中でトラックバック先記事のURLを記載していないブログからのトラックバックは無効とさせていただきます。トラックバックをされる際は、必ず該当のMediaSabor記事URLをエントリー中にご記載ください。
  • 外部からアクセスできない企業内ネットワークのイントラネット内などからのトラックバックは禁止とします。
  • トラックバックとして表示されている文章及び、リンクされているWebページは、この記事にリンクしている第三者が作成したものです。
    内容や安全性について株式会社メディアサボールでは一切の責任を負いませんのでご了承ください。
トラックバックURL
http://mediasabor.jp/mt/mt-tb.cgi/956