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コミュニケーションを分断し、排他性、閉鎖性がすすむSNS、ブロゴスフィア

2008年1月15日、第44代大統領バラク・オバマが誕生する。振り返って見ると、実にドラマチックな選挙戦だった。予備選の手に汗握る接戦から始まって、マケインVSオバマのデッドヒート、最後になってオバマが直線で大きく引き離してゴール。第三者的な視点を失わないようにしようと思いながらも、オバマというニューヒーローの誕生はやはり嬉しい。リベラル色の強いシアトルに住んでいることも手伝って、思わずお祭り騒ぎに加わってしまった。

お祭り騒ぎ─ 今回の選挙戦を一言で言うならまさにこれである。特にオバマ陣営においては、最後のスパートはまさにお祭りだった。MySpace、Twitter、Eメールを始めとしたあらゆるツールから引っ切り無しに速報が入り、最新情報がもたらされた。そして勝利の直後、オバマから直接支持者に送られたメッセージ。“演説に行く前に皆にお礼を言いたい。俺たちは歴史を作った。”米国史上に残るメールである。

正確に言えば2004年の大統領選挙から、ブログやネット献金のシステムは出来上がっていたのだが、はっきりとその威力を示したという点で、2008年をヴァーチャル選挙戦元年としてよいだろう。ジョー・トレッピやロスパース(オバマの選挙参謀)によって作り上げられたソーシャルネットワークサービス(SNS)戦略は、“あんなもので何が出来る?”という共和党の見方を完全に覆した。

すっかり出遅れた共和党も、その破壊力をいやというほど思い知らされた今、インターネットをフルに使ったプロパガンダを徹底的に研究して今後に臨むのは間違いない。4年後、若者御用達だったSNSをはじめとするソーシャルツールは万人に普及し、予想もしない展開を見せているだろう。(現在のインターネットの進化のスピードでは1年後の予想さえ困難だ)

オバマの究極兵器だったSNSも4年後は両陣営が手にし、さしたるアドバンテージではなくなっているだろう。インターネットユーザーのデモグラフィーが民主党支持者の年齢層に傾いている状態はしばらく続くだろうが、これも早晩なくなるだろう。こう考えると、インターネットを使った民主党の優位というのは、いち早く新大陸を発見しただけとも言える。

この新大陸、地図にしてみるとちょっと面白い事実が浮かびあがる。マイクロソフトのリサーチャーが民主、共和双方のブロゴスフィア(ブログ圏:一つのテーマのもとに出来上がったブログのコミュニティー)の、トラックバック、書き込みを含むインタラクションを調べた結果、興味深い結果が出た。ブログ同士のインタラクションは自分の所属するブロゴスフィア内のものが殆どで、ライバルのブロゴスフィアとの繋がりは殆どないことが分かった。この種のデータはいくつかあるのだが、どれも共通している結論は、ブログやSNSのコミュニティーで、民主、共和間のインタラクションが殆どないという事である。どちらの陣営もお互いの仲間うちだけで完結していて、相手側の情報を調べたり、政治論争を行なった形跡がないのだ。

今回の選挙では、特に民主党支持者の間に相当の情報の偏りがあったと思う。オバマの情報には詳しくても、マケインの政策の細かな点は殆ど知らない、というケースはかなり多かった。ブログやSNSはある意味両陣営を完全に分断してしまったのである。これは、SNSの持つ一番大きな欠点だろう。

MySpaceやFacebookなどの人気SNSを見ても、仲間内で盛り上がる機能は盛りだくさんだが、意見を異にする人々と交わるための機能はまったくない。もともと気のあった人間同士がコミュニティーを作るためのツールなのだから当然といえば当然なのだが。こうしたブロゴスフィアやSNSの“自閉性”はインターネットコミュニティー全般の特徴でもある。インターネットのソーシャルツールは、同好の士が集まって、良い意味で(そして悪い意味でも)閉鎖的なグループを作るためのものなのだ。こういうツールを選挙に使ったものだから、お祭り騒ぎを盛り上げる効果はあっても、オープンな論争となると、少なくとも支持者レベルでは殆ど不活性だったという事になる。

こういう傾向が今後も続くとすれば、選挙戦は単なる “ファンの集い”みたいになり、両陣営が二つに分かれて石を投げ合うような状態になりかねない。せっかくここまで成長したコミュニケーションツールが、コミュニケーションを分断することになったらシャレにもならない。しかし、現状のインターネットを見ると、全般に様々なコミュニティーの排他性は加速している。世界は自閉的になっていくばかりなのである。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○アンカテ 「オバマはSNSでキャズムを超えた」 2008/11/13
 「オバマはネットをよくわかってる」「ネットをうまく使ったね」と上から目線
 で見てしまいがちだけど、そういうレベルの話じゃなくて、チーム・オバマは
 これまで誰も気がつかなかった創造的なやり方でネットを使ったと見るべき
 じゃないだろうか。
http://d.hatena.ne.jp/essa/20081113/p1


○島田範正のIT徒然  2008/11/05
 「オバマ圧勝!ネットも関係あるんだろうか?」
 私は10年前、インターネットがようやく個人に広がっていた1998年の
 ミネソタ州知事選を思い出したんですよ。実際に取材したわけじゃないけれど、
 当時はマスコミの偉いさんも、まだ「一体、インターネットってなんの役に
 立つんじゃ?さっぱりわからん」という状況だったから、面白い役立ち例だと
 思ったのです。
http://www.kddi-ri.jp/blog/srf/2008/11/05/%E3%82%AA%E3%83%90%E3%83%9E%E5%9C%A7%E5%8B%9D%EF%BC%81%E3%83%8D%E3%83%83%E3%83%88%E3%82%82%E9%96%A2%E4%BF%82%E3%81%82%E3%82%8B%E3%82%93%E3%81%A0%E3%82%8D%E3%81%86%E3%81%8B%EF%BC%9F/

 

 


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