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09年の旅行動向予測---円高追い風でヨーロッパ旅行復活、国内は高速値下げでドライブ旅行、インバウンド切り札は中国のビザ緩和

 日本政府観光局がこのほど発表した2008年の日本人出国者数は1598万7000人。07年が1729万5000人だから、ざっと1年間で海外旅行者が130万人も減少した。燃油サーチャージの高騰と、世界的な経済悪化が大きな要因であることは間違いないだろう。旅行業界は2010年までに2000万人の海外旅行者を目指しているが、ここ数年市場規模は縮小しているのが現状だ。

 では、09年はどうだろうか。金融が崩壊したといわれる米国を筆頭に、世界的な規模で悪化した経済状況はすぐには回復しないだろうが、「円高が進む」という狭義的な視点に絞れば、海外旅行には間違いなく追い風になる。

 さらに、昨年、旅行業界を鬼が棍棒で殴るように? 苦しめた航空会社の燃油サーチャージは減少し、4月からは廃止される可能性も高くなってきた。このためほとんどの旅行会社は、燃油サーチャージを含んだ旅行代金をパンフレットに掲示している。4月以降燃油サーチャージが増減しても、また、廃止された場合でも、旅行代金の増減がないようにしている。これは、「旅行代金がわかりづらい」と悪評高かった昨今の旅行パンフレットから大きく様変わりしている。海外旅行大手のエイチ・アイ・エス(HIS)は「4月出発から燃油サーチャージが廃止にならなくても、HISが負担する」方針を発表している。

 燃油サーチャージの減少で、低迷していたヨーロッパ旅行が息を吹き返しそうだ。もともとヨーロッパ旅行は向学意欲の旺盛な熟年層などを中心に、根強いブームが続いていたのだが、昨年のユーロ高や燃油サーチャージ高騰など猛烈な逆風が吹いたために、若干客足が遠のいていた。

 ヨーロッパ旅行に関していえば、大手旅行会社のツアー平均価格は軒並み15―20%の値下がりとなる。現地でのショッピングも「お買い得」で、再び欧州人気が復活しそうだ。

 そのほかにも、09年はロシア旅行ブームが訪れるかもしれない。JTBは、毎年一つの国や地域を選んで特集パンフレットで詳しく紹介する「デスティネーション・クローズアップ」にロシアを選んだ。新たな人気旅行先として、ロシア旅行の需要開発をしていきたい考えだ。目玉商品は、「シベリア鉄道全線走破9200キロの旅14日間」。ウラジオストクからモスクワまで、車内でロシア人と触れ合いながら、列車の窓に移り変わるユーラシア大陸の壮大な風景を眺める旅。100万円を超えるツアー料金だが、一生に一度のドラマチックな旅を求める人には心に響くのではないだろうか。個人的にも、興味があるツアーだ。一度は行ってみたい。

 しかし、海外旅行が追い風であるということは、必然的に日本を訪れる外国人旅行者には向かい風になる。

 2008年の訪日外国人旅行者数は835万1600人と、07年の834万7000人からわずかな伸びにとどまった。最大のマーケットである韓国からの旅行者がウォン安で大幅に減ったことが大きい。政府は2010年までに外国人旅行者を1000万人とするビジット・ジャパン・キャンペーン(VJC)を展開しているのだが、目標達成には、赤信号に近い黄色信号が灯ってしまった格好だ。色彩で表現すると、完熟した伊予柑くらいか。

 それでも、外国人旅行者1000万人を本気で達成しようと思えば、切り札がある。それは、中国からの家族観光ビザ緩和である。中国からの訪日旅行者は08年に初めて100万人の大台に乗り、トップの韓国(238万人)、2位の台湾(139万人)に次いで3位に浮上している。中国の市場ポテンシャルを考えると、100万人の数字は、一握り。一方で、外国人犯罪など治安悪化を懸念する、日本の国民感情が決して小さなものではないのも確かだ。

 昨年3月から試行された中国人の家族観光ビザ制度は、中国と日本の双方から添乗員を1人ずつ付けることが義務づけられている。また、かなりの高所得者などに限られている。このため、発給事例は中国全土でわずか4組10人という。観光庁は、この規制を緩和しようと、外務省や法務省、警察庁などと協議をしており、おそらく今年中には規制緩和が行われる模様だ。民間の観光業界団体は、添乗員が不要となる富裕層向けの「個人観光ビザ」の創設も要望している。

 外国人を迎え入れるホテルや旅館、地域も、ツアーの送客人数より、旅行者の質を求めている。極言すれば、利益の薄い100人の大型団体客よりも、富裕層の3人を宿泊させたほうがいいと考える。富裕層は懸念される日本観光中の失踪の可能性も低いため、規制緩和は実現しそう。

 そして最後に、国内旅行。09年はドライブ旅行に脚光が浴びそうだ。ガソリンの値下げに加え、国土交通省と高速道路6社はなんと、土日祝の高速道路料金を地方圏の路線で、乗用車は「上限1000円で乗り放題」などとする案を発表。賛否両論あろうが、これも旅行に限っていえば、魅力だ。現行では青森から鹿児島まで片道約4万円が、2500円になるという。

 日本と単純比較はできないが、旅行先進国である欧州や米国なども、国内旅行はドライブ旅行が主流である。新鮮食材を使った料理を求めて北海道虻田町真狩村の「レストラン・マッカリーナ」に自家用車で向かう旅行者のように、目的が100キロ先の「美味しいレストランで食事するだけ」の小旅行も、成熟した大人の旅行のようでカッコイイものである。

 現在、日本では東京版に限って発行されている「ミシュランガイド」も、本来の姿であるドライブ旅行者へのガイドとして「日本全国版」が出版されるようになれば、地方の田園に佇む小さな一軒屋レストランに向けて、車のハンドルを握る老夫婦の姿も見られるかもしれない。日本各地に個性的で美味しい料理店が沢山あり、のんびりとしたドライブ旅行の途中で一軒一軒立ち寄るというのも、きっと楽しい旅である。とにかく、国内で旅行するには、移動費用はできるだけ安いに越したことはないと思う。              
                                                 

 


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