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地球は「カワイイ」

  • 株式会社ジャパンライフデザインシステムズ 代表取締役社長
  • 谷口 正和

■カワイイの本質

  「カワイイ」とあえてカタカナで書いたが、この「カワイイ」という言葉は、いまやすべての褒め言葉を一つに含有してしまったような言葉になった。若い世代にとって、何でも「カワイイ」が最大の褒め言葉である。オシャレなおじいちゃんも「カワイイ」し、読者モデルも「カワイイ」。デコ電も「かわいい」し、おにぎりも「カワイイ」。

 一見するとボキャブラリーが貧困になったように見えるが、見方を変えれば「感性語」とでも言うべき、新しい言語カテゴリーの誕生とも見える。一言でほとんどの褒め言葉の領域をカバーしてしまう感性言語の誕生なのだ。

  「可愛い」の語源は「かわいそう」である。大変気の毒だ→何とかしてやりたい→親身になる。その同情の気持ちが「可愛い」となったそうである。相手に対する親身な同情の気持ち、それが「可愛い」の根底にあるものなのだ。そうみると、若い世代が連発する「カワイイ」には、大変他者共感的なシンパシーが潜んでいることが分かる。自己と他者を区別しないムラ型の共同体感情が、この「カワイイ」の中に寝ているのだ。


■小さきものへの愛情

 「なにもなにも 小(ち)さきものは みなうつくし」と言ったのは、枕草子で有名な清少納言の言葉だ。

 愛でる。慈しむ。いとおしく思う。日本人の感性の中には、小さいものを愛でる、そこに洗練性を極める美意識が深く根付いている。この辺のところは、李御寧の『「縮み」志向の日本人』(講談社学術文庫)が見事に解き明かしているから、ぜひご一読いただきたい。日本の美は小さいものの集合であることがよく分かる。京都は日本美のひとつの完成形であるが、それはまるで小さな箱庭の集合体のようである。

 この見方で水の星、わが地球を愛でる感覚を「カワイイ地球」と言ってみた。地球を大切にする、地球に感謝する、地球とともに暮らす。それを「カワイイ」という日本人の感性で見てみる。

 その時、日本人の地球感性は、欧米型の物理的なエコロジー意識、サステナビリティ認識を超えて、日本感性そのものの「可愛い」とまで言える感情であることが直観できる。地球に対する深いシンパシーを持って、地球と暮らすことを夢見る。自然も、歴史も、場も、由緒も、由来も、人も、民族も、時間も、みな「カワイイ」のである。ハンチントンは文明は衝突するといったが、それはあまりにも西欧史的な見方で、対決至上主義の発想だ。日本流の「カワイイ」の視点で見れば、民族も十分に共生可能なのである。


■「カワイイ地球」発見隊

 都市のカワイイを探す「チームカワイイ」が活動している。都市や住宅のプロジェクトプランニングを手がける渋谷区のM.T.VISONSの真壁智治さんは学生が使う「カワイイ」に注目して、「カワイイ」で建築やデザインをとらえる試み「チームカワイイ」を都内学生らと結成した(朝日新聞2/6朝刊)。「カワイイ」建築、場所の共通項は 1.安心できる 2.自分が受け入れられる(居心地がいい) 3.癒される 4.疲労感を感じない 5.人とつながれる、 の5項目。この目線で、西日暮里の「夕焼けだんだん」、文京区の「本郷三丁目駅」、渋谷区の「代官山駅」を発見した。参加者の1人は「『カワイイ』は昔から日本の文化にあったあいまいな感覚で、すごく面白い」と語っている。

 今年のファッショントレンドはずばりアフリカンだ。『ヴォーグ』3月号は「アフリカに祝福を!Africa the Blessed」と号して、アフリカトレンドの大特集である。アフリカを彷彿とさせるダイナミックなプリント、目の覚めるようなアフリカンカラー、プリミティブ・アクセサリー、サバンナのヒョウにゼブラ、アニマル柄、沼地を這う蛇やクロコダイルの妖艶美、装飾的なフリンジアイテム、村のファッション、大自然が育むカラーバランス、動物の蠢きと大地を感じさせるセクシーなダークカラーなどなど。単なるファッション特集ではなく、サハラ砂漠以南のHIV感染者2600万人、ダルフールの難民は50万人、紛争による死者20万人など、アフリカの過酷な現状にも焦点を当てている。

  『ブルータス』2/15号は「みんなで農業」である。農業に惹かれはじめたトップクリエーターたちを紹介している。アートディレクターの佐藤可士和さんは「カズサ愛彩ガーデンファーム」に入会して農作業にいそしむ。デザイナーのナガオカケンメイさんは自社農場約2000坪の「D&FARM」を持つ。また「カタチから入る農業」として、草刈車など便利に使えてなおかつカッコいい農具も紹介している。最近大変な農業ブームが到来中だが、農業は「地球はカワイイ」の代表的アクションだろう。

  「可愛い地球」にふさわしい暮らし方、ライフスタイルが世界をリードし、市場を引っ張っていく。どんな商品でもサービスでも、コミュニケーションの仕方、店舗の作り方、それらすべてのカテゴリーで、そのコアに「可愛い地球」価値を内在させる時代だ。色彩のような感性価値から、食べ物、旅行、ファッションに至るまで、「可愛い地球」を軸として構成してみよう。それが必ず、顧客の深い深いところにある潜在心理を打ち、共感を呼び、そこに新しい市場、生活文化が顕在化してくるだろう。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○松岡正剛の千夜千冊  2007/06/06
 『「縮み」志向の日本人』李御寧(イー・オリョン)
  極小主義。日本にはこれがあるのではないか。ミニアチュアリズム。
 日本人はこれが好きなのだ。日本には極端ともいうほどの「縮み志向」が
 あるようなのである。本書はこんな推理をものしたのである。
 理由を考えてみた。イー・オリョンは、とりあえず6つにおよぶ「縮み志向」
 の型を分類した。入籠(いれこ)型、扇型、姉さま人形型、折詰弁当型、
 能面型、紋章型である。必ずしもぴったりこないものもあるが、何を
 言いたいのか、わかるだろうか。
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya1188.html


○医学都市伝説  四方田犬彦:「かわいい」論  2006/02/26
 日本は「かわいい」大国なんだそうである。キティちゃんとかポケモンなどの
 キャラクター商品や日本製アニメは世界にバカ売れしており、「貿易収支に
 おいて占めている位置は、対米輸出だけとってみてもすでに鉄鋼産業の
 四倍近い額」(本書より)にもなっているそうだ。そういう特異的な文化と
 なった「かわいい」を、「通時的かつ共時的に分析するはじめての試み」
 (見返しの宣伝文句)が本書というわけ。
http://med-legend.com/mt/archives/2006/02/post_793.html

 

 


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