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「モテ」時代

  • 株式会社ジャパンライフデザインシステムズ 代表取締役社長 
  • 谷口 正和

■モテが文化成熟度の物差し?

 「いまや、モテが最大価値とされる時代になっている」(AERA編集長・尾木和春氏)。「モテは他人を経由した自己肯定」(石田かおり氏・駒沢女子大学人文学部准教授、資生堂客員研究員)。「モテの問題は自信のなさと直結」「モテはすべての消費基本」(インフィニティ代表取締役・牛窪恵氏)。

 いずれも『宣伝会議』(3/1号)より引用させていただいたものだ。

 「モテ」への関心が、今あらゆる世代と市場に広がっている。まさに「モテはすべての消費基本」なのだ。見た目年齢も、自己演出やセルフプロデュースで編集していく時代である。顧客の「モテ」をサポートし、実現していくプロが求められてくると同誌は予測している。

 ちょっと前に始まった「ちょいワルおやじ」ブームは、まさに生活に余裕を持ち始めた中高年男性の「モテ願望」の走りだった。人間、衣食住の基本レベルを超えれば、求めるものは文化である。かつての平安時代の貴族文化から、江戸時代、特に文化文政期の町民文化に至るまで、「色好み」は時代文化の基本だった。モテルために文化を学び、教養を身につけ、自己を磨き上げていったのだともいえる。

 世界から見て、日本くらい豊かで安全な国もないという。平成も21年たった今日、日本文化はいよいよ平安時代、江戸時代の成熟度に近づきつつある。光源氏や好色一代男がそろそろ登場してもおかしくないのかもしれない。いずれにせよ、単なるイケメンを超えた文化的コンテンツ豊かなモテ男、モテ女が出てもいいころだ。


■男女ともに「他者視点」重視
 
 女の子のニュースターはキャバ嬢である。もちろん雑誌やテレビなどのメディア、あるいはウワサなどで作り上げられた面もあるだろうが、若い女性にまでもキャバ嬢は一種の憧れのシンボルになりつつある。

 少し前の情報になるが、15から22歳の「Z世代」(Y世代の次)に行った「なりたい職業・してみたい仕事」(カルチャースタディーズ研究所、2007年夏)によれば、「キャバクラ嬢・ホステス」が9位にランクインした(1位:歌手、ミュージシャン、2位:音楽関係、3位:雑貨屋)。Z世代は対人サービス業を好む傾向があるという分析だった。

 『女はなぜキャバクラ嬢になりたいのか?―「承認されたい自分」の時代』(光文社新書)の著者・三浦展氏は、そのキャバ嬢人気の社会的要素を1.ギャル文化の進化 2.女らしさ観の多様化 3.雇用情勢の悪化 4.メディアの影響、と分析する。キャバ嬢志向の女の子たちの共通傾向は「他人からの評価」重視である(マリ・クレール4月号)。   

 この「他人からの評価」重視は、今日の「モテ願望」と見事に符号する。雑誌『カワイイ!』などに登場するファッションのコンセプトは「モテ服」である。自分が気に入ったかどうかよりも、対象にもてるかどうかを判断基準にしているということである。

 「女性に不快感をもたれたくない」という理由から、男性向けの制汗剤市場が伸長している。化粧品メーカーは男性向け制汗剤市場を成長分野に位置づけた。12から49歳対象の調査(ニベア化粧品調べ)で使用率は04年の31%から08年は45%に上昇。市場規模は04年の約45億円から08年は71億円に拡大する見込み(マンダム調べ)。30代以降の男性にも使用者が広がっているという(YAHOO!3/5 )。

 他者視点で自分を見て、ステキね、モテるね、と言われたいのだ。そのように自己をスタイリングしたいと願っているのである。他者の評価点がまず1番、自己判断点は次の2番。人々は、他者によって映し出される「ベスト自己」に自分を変えようとしているということである。言い換えれば「社会化された価値」が最上の価値判断であると認識されたということだ。

 


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