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ブランドの行く末を左右する生き残りを賭けた「セカンドライン」の成否

 消費マインドが冷え込んだ消費者はラグジュアリーブランドの「真価」に疑いのまなざしを向けつつある。一方、危機感を抱いたブランド側は価格を下げた「セカンドライン」に期待をかける。ただ、ブランドイメージを崩しかねない「セカンドライン」は美味なる毒薬でもある。

 「セカンドライン」とは、ランウェイショーで披露されるような主力ブランド(シグネチャーライン、コレクションライン、ファーストラインとも呼ぶ)よりは価格の安い二番手ラインの事だ。セカンダリーライン、ディフュージョン(普及)ラインともいう。ただ、有力なセカンドラインの中にはランウェイショーを開くところもあり、「1.5」「裏シグネチャーライン」といった位置付けのブランドも少なくない。

 ある程度人気を確立したブランドが高級イメージを大切にしながらも、顧客層を広げる際にセカンドラインをスタートさせるケースが多い。例えば、「マーク ジェイコブス」の「マーク バイ マーク ジェイコブス」がそうだ。

 ファーストライン「GIORGIO ARMANI」には「EMPORIO ARMANI」「ARMANI COLLEZIONI」という2つのサブラインが存在する。「VERSACE」にはディフュージョンライン「VERSUS」(ヴェルサス)」があり、「DOLCE&GABBANA」にはセカンドライン「D&G」がある。比較的最近スタートした例には「クロエ」の「シーバイクロエ」や、「アナ スイ」の「ドーリーガール バイ アナ スイ」が日本でも人気を博している。3月に「マルニ」も「サマーエディション」という新ラインをスタートさせた。

 一般的に言って、セカンドラインはデザインの精緻さや、生地の質、手の込んだ加工などの点でシグネチャーラインに劣る。デザイナーのセンスを生かしつつ、生産プロセスを合理化して、量の販売を目指すというビジネス重視型のラインだ。シグネチャーラインに多い1点物志向ではなく、売れ筋を狙ったアイテムにも力を入れる。リーズナブルな価格帯を設定して、比較的若い年齢層にも手が出しやすくしているのは、次の顧客予備軍を育て、囲い込む意味が大きい。

 2月にセカンドライン「Under.Ligne(アンダー・リーニュ)」をスタートさせた、ニューヨークコレクション参加ブランドの「ドゥーリー」(Doo.Ri)。見事なドレープのジャージードレスが得意な、手仕事志向のデザイナーだ。ニューヨークコレクションでデビューを飾ったのは2003年シーズンの事で、これまでの先輩ブランドの例に照らして言えば、セカンドラインのデビューはかなり早い方に属する。

 このように、セカンドラインは知名度を得たブランドが出すものという常識は崩れつつもある。「ドゥーリー」はファッション業界人やファッショニスタには既に知られていて、評価も高いが、一般的に知名度がまだあまり高くない。こうした「知る人ぞ知る」的な新鋭ブランドがセカンドラインを出すのは、早い段階から認知度を高めるためにセカンドラインを活用するという新しいアプローチと見える。

 もともとニューヨーク発のブランドは作品にもビジネスにもスピード感があり、その気風のおかげで、世界でも最も多くの若手デザイナーに活躍の場が与えられている。先頃、オバマ米大統領の就任式後舞踏会で、ミシェル夫人がドレスを着た中国系デザイナーのジェイソン・ウーもまだ26歳という若さで一夜にして、スターダムにのし上がった。

 「ドゥーリー」は丁寧な手仕事志向のブランドだけに、コレクションラインは量産が利きにくい。当然、売り上げも伸ばしにくく、景気低迷期には厳しいビジネス環境に追い込まれかねない。しかし、セカンドラインであれば、消費マインドが冷え込んでいる時期でも、まだ購買意欲を引き出しやすい。

 もちろん、ブランド立ち上げには準備期間が必要だから、今回のセカンドラインがリーマン・ショック後の景気後退を受けた緊急避難だとは言い切れないが、結果的とは言え、今のファッションマーケットの温度に見合った取り組みになったようだ。こうした既成概念にとらわれない仕掛けが許される点も、ニューヨークモード界のよさと言えるだろう。

 ファッション売り場に客を呼び戻そうと懸命の百貨店業界では、セカンドラインやリーズナブルプライス商品に、従来以上のスペースを割く動きが強まっている。「買ってもらえそうな価格帯」のアイテムをそろえないと、フロア自体の存在意義を問われかねない状況だけに、高額ラインを減らしてでも、値ごろ感のあるラインを集めたいという百貨店の思いは切実だ。

 完全なセカンドラインではないが、コラボで割安アイテムを売り出す試みも相次いでいる。有力デザイナーとの期間限定コラボは、「H&M」「ターゲット」などが得意とする手法だ。「アレキサンダー・マックイーン」ブランドのセカンドライン「McQ」は米国の流通大手「ターゲット」とのコラボに参加した。デザイナー側にとってもシグネチャーブランドを傷つけずに、新たなファンとキャッシュを稼げるメリットがあり、「限定型コラボ」はさらに勢いづく気配。ユニクロも春夏物で4組のNYデザイナーとのコラボを発表済みだ。

 今後はこうした生き残りを賭けたセカンドライン、コラボアイテムの投入が相次ぐ可能性がある。しかし、セカンドラインを決して出さない「シャネル」のような別格ブランドは孤高のポジションを守り続けるだろう。妹格の「ミュウミュウ」を持つものの、性格付けを変えて、実質的に別ブランドとして成功させている「プラダ」のような例もある。各ブランドはセカンドラインへの取り組みを通して、戦略・方向性をあらためて問われることになる。

 セカンドラインを上手に使って、イメージを崩さずにファン層の裾野を広げるのは、ブランドにとって目先の生き残りにも、ビジネスボリュームの拡大にも欠かせない。広い意味での「第2ブランド」をどう育てていけるかどうか次第で、ブランドがうつむき続けてしまうか、頭を上げて進んでいけるかが決まる時代が来ている。

 

 


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