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ホンダが世界初バイオエタノール対応の二輪車販売。ブラジルを試金石に選択した背景

 ガソリンとバイオエタノールの両方で走るフレックス車が誕生してから6年。ブラジルに2つのタイヤで走るフレックス車が登場する。

 ホンダが2009年3月中に、フレックス二輪車、「CG150 TITAN MIX」の発売をブラジルで開始することを発表。バイオエタノール対応の二輪車は世界初で、ブラジル国内でも大きく報道された。

 この世界初のバイオエタノール対応の二輪車が、ブラジルで発売開始されるのには理由がある。ブラジルではフレックス車は、2003年からフォルクスワーゲン、ゼネラルモーター、フォード、フィアットにより販売開始されている。ホンダは2006年末より他の日本勢に先駆けて販売開始した。

 2008年にブラジルで生産された新車の90%は、フレックス車である。2006年から10%の増加だ。ブラジルでは金融危機の影響で2008年第4四半期より販売台数が急減したが、2009年には前年度比0,2%増と回復した。金融危機の影響が現れる以前は、ブラジル国内の自動車販売台数は増加傾向にあり、その大きな要因はフレックス車の普及だった。ブラジルはまさにフレックス車先進国で、安定した消費者層の基盤はすでに固まっている。

 フレックス車は、二酸化炭素排出量がガソリンに比べ少ないサトウキビを原料とするエタノールを使用できることから、環境にやさしい車とされる。しかしそれに加えて、ブラジルの消費者は経済的であることを、その購入の主な理由に挙げている。燃費、価格を考慮してエネルギーを選択でき、2つのエネルギーをどのような比率で給油しても走るフレックス車は消費者にとって魅力的だ。国内のほとんどのガソリンスタンドでは、ガソリンもしくはエタノールを同じ位置で給油でき、その日の価格を比べ選択したエネルギーを告げる仕組となっている。ちなみに現在燃費はガソリン1リットルあたり51キロ、エタノールでは38キロと、エタノールのほうが悪いが、2008年3月のサンパウロのエタノール価格はガソリンの55、75%で、エタノールの方が経済的だ。

 ブラジル人にエタノール給油が定着しているもう一つの理由に、「Pro Alcool(プロ・アルコール)」政策の影響がある。これは、73年の石油ショックをきっかけに、75年に政府が実施した政策で、原料をサトウキビとするエタノールを、自動車燃料として投入したのだ。エタノールの価格はガソリンの半分近くまで抑えられ、10年後の85年には、新車95%をエタノール車が占めるが、サトウキビを原料とするサトウの国際価格が高騰したことによって破綻した。エタノール100%で走る車に投入する燃料が不足するという苦い結果となった。しかし2003年のフレックス車の登場に消費者は飛びついた。75年のエタノール100%車とは異なり、ガソリンかエタノールかを選べるという点で、あきらかにリスクは低くなったのだ。
 
 このような歴史を持つブラジルを、世界初のフレックス二輪車の販売国に選んだホンダだが、ホンダのブラジル国内での二輪車のシェアは大きい。ブラジルでは2008年に191万台の新車の二輪車が登録されているが、そのうちホンダは133万台を販売している。エタノール対応の四輪車の価格は、ガソリンのみ対応の四輪車とほぼ同じだが、二輪車の販売価格が総じて四輪車に比して低いことと、フレックス二輪車の製造コストが高くなることから、今回の販売価格はガソリン仕様車より5%高くなっている。この「CG150 TITAN MIX」は年間20万台の販売を目指すとされており、ホンダのブラジル消費者への期待は小さくはない。

 ホンダ二輪車のブラジルでの販売台数は2009年に入って、前年度に比べ30%減少しており、またマナウスにある9500人の従業員のうち、1月、2月に解雇されたのは300人である。金融危機の影がちらつく今だからこその、フレックス二輪車の販売開始なのかもしれない。ブラジル各誌はこれを「政治的、経済的、環境保護的に完璧な販売開始」と歓迎している。エタノール生産段階で起きる環境破壊には依然として疑問の声もあるが、この日本企業のブラジルでの試験的販売は「政治的、経済的、環境保護的」に注目されている。

 

▼Apresentação da Honda CG 150 Mix Fuel Injection (YouTube映像 01:15)
http://www.youtube.com/watch?v=RsCUjXnjzBo&eurl=http%3A%2F%2Fdiariodonordeste.globo.com%2Fmateria.asp%3Fcodigo%3D623369&feature=player_embedded

 

 

 


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