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農業×モード=「ノード」の夢

 農業とファッション。無縁と思われてきたこの2つが結び付きつつある。「ノギャル(農業+ギャルの造語)」という言葉も生まれ、農業に関心を持つ都市住民も増えてきた。土と触れ合い、自然を実感する農作業は、「食の安全」、環境問題への意識の高まりを背景に、ぐっと身近になっている。そして、都市住民のまなざしが持ち込まれるようになって、農作業の際に身を包む農業ファッションも変わる気配を見せ始め、農業×モード=「ノード」もあながち夢ではなくなってきたようだ。

 「ギャル社長」として知られた藤田志穂さんが農業に取り組んでいる。新潟県大潟村で作られた減農薬米を、「シブヤ米」として売り出すそうだ。5kg袋入りのあきたこまちを今秋からでネット販売する計画だ。

 藤田さんはファッション性の高い農作業着の開発も視野に入れている。祖父母は新潟県で農業をしていたそうで、藤田さん自身も農作業を手伝った経験があるという。

 あるファッション企業は社員総出で農作業に参加するというプロジェクトを続けている。農業を通じて大地の恵みや土との交わり、共同作業の意味などを実感する目的で、こういった取り組みは意義が大きそうだ。市民農園や家庭菜園に打ち込む都会人が増えるなか、こうした「週末ファーマー」を意識した農業ファッションが提案されていくのは確実な流れだ。

 食、そしてそれを支える農は、ファッション意識の高い人にとっても大きな関心事。ファッションは大好きだが、食事には無頓着というのは、どちらかと言えばまれだろう。最近ではラグジュアリーブランドがショップ内にレストランやカフェを併設するのが当たり前になってきた。

 オーガニックコットンは既にトップモードの世界でも重要な素材となっている。アレルギーや敏感肌にもやさしいオーガニック素材は着心地もよく、天然の風合いにも味がある。「食の安全」ならぬ、「服の安全」にも関心が高まっていると言えるだろう。

 農業ファッションは洗練されていないイメージが一般にはあるようだが、近年は必ずしもそうではない。若い層が農業を継ぐ世代になって、ストリートファッションを田畑に持ち込む動きが広まり、農の現場はウエア面で変化を遂げつつある。

 次世代の農業ウエアをデザインする試みも始まった。NPO法人日本アグリデザイン評議会が主催した「アグリデザインアワード2008」では「長袖Tシャツ」をテーマにファッションコンテストが開催された。「畑に行くのが楽しくなる」「いつも快適に作業ができる」などを条件に斬新な農業ウエアが発表された。

 農業ファッションは農作業でしか使えないわけではない。実用性・機能性を意識したミニマルデザインは農作業以外のアクティブな日にも似合うはずだ。例えば、ドイツのファッションデザイナー、ベルンハルト・ウィルヘルムは日本の鳶職・大工ルックをモチーフに、裾のすぼまったニッカボッカ風ファッションを提案した。マルタン・マルジェラは地下足袋を思わせる、親指独立型のシューズを発表して話題を呼んだ。日本発の農業ファッションが世界進出を果たす夢がないわけでもないだろう。

 エコやLOHASなどの気分を追い風に、都会でも野菜づくりがライフスタイルの一部になり始めた。近場の市民農園に出掛ける人もいれば、ベランダ菜園でプチ自給自足に取り組む人もいる。JR東日本は恵比寿駅ビル「アトレ恵比寿」の屋上を4月29日から「エビスグリーンガーデン」として一般開放した。庭園の一部は36区画の菜園として一般に貸し出す。

 小田急電鉄は高級住宅地の成城学園に会員制の貸し菜園「AGRIS SEIJO(アグリス セイジョウ)」を開いた。駅前すぐというもったいないような立地に、約5000平方メートルの敷地を確保。都心では珍しい300区画もの菜園を設けた。

 単に土地を貸し出すだけの旧来型市民菜園とは別物。クラブハウスにはシャワールーム・更衣室があり、行き帰りとは違う農業ファッションに着替えて畑仕事に集中するモチベーションを高めることができる。農作業後には汗を流してさっぱりできる。菜園を見渡せるラウンジやテラスで、自慢の作物を話題に会員同士が語り合う姿には、エコリュクスの雰囲気が漂う。

 「クラインガルテン」も各地に広がっている。「クラインガルテン」とは、短期間の滞在ができる宿泊施設を備えた滞在型市民農園の事。ドイツ語で「小さな庭」という意味だ。千葉県栗源町、茨城県笠間市、山梨県北杜市、新潟県小千谷市、長野県四賀村などのクラインガルテンは首都圏からの申し込みで一杯だという。

 ファッション・映像・食などの分野で、プロ育成事業を展開している「バンタン」は東京発「アグリ・ルネサンス」を提唱した。農業の持つ魅力をフレッシュな観点から認知していこうとする試みで、ファッションを通じて農業を考える「アグリ・ファッションコンテスト」も開いた。若い層が農作業を楽しめる着こなしを提案するのは、「形から入る」という意味でも有用だろう。

 日本の就農者は約220万人にまで減った。しかも、2015年には少子高齢化や若者の農業離れがさらに進むと見られ、150万人にまで減少すると予測されている。1980年に53%あった食料自給率は2005年には40%にまで落ち込んだ。その原因は農業政策や少子高齢化によるところが大きいかも知れないが、「農業はダサい」という見た目のイメージが影響している部分も決して無視できない。ファッションを通じた農業の活性化は、エコ気分にそそのかされた一過性のブームで終わらせてはあまりにももったいない。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○Business Media 誠:松田雅央の時事日想
 「クラインガルテン――この世の天国まで徒歩2分」2008/04/22
 市街地に住んでいても、自然に触れたいと思う人は多い。しかし週末用に
 別荘を持つというのも非現実的……そんな人に、クラインガルテンという
 提案はどうだろうか? 特に人口減少に悩む街の活性化や環境保全には、
 意外な効果がありそうだ。
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/0804/22/news025.html


○シブヤ経済新聞 2009/04/14
 アトレ恵比寿に巨大「屋上庭園」─貸し菜園、ウッドデッキなど
 JR東日本は2004年以降、ヒートアイランド現象軽減を目的に首都圏の各施設で
 屋上緑化を導入。恵比寿は23施設目で、過去最大規模になるという。
http://www.shibukei.com/headline/6051/


○『MICHIYOSHI NAOE』The first MODE Laboratory
 「若者女性の農業ファッション革命」 2009/05/24
 とかく、田舎、汚い、重労働と言ったイメージが先行するなか、
 若い女性が、農業に着手するために、ファッションからはじめようと
 言うのがテーマであるそうだ。
http://10740828.blog123.fc2.com/blog-entry-353.html


○農業ほっとけない 「農業へ就職」  2009/04/10
 最近の景気の後退により、雇用情勢が悪化し、リストラ、派遣切り、
 外国人労働者の帰国などなど雇用に関するいやなニュースが多いこのごろ、
 農業への就職が確実に増えています。
http://hirono-jimu.cocolog-nifty.com/nougyo/2009/04/post-84dc.html

 

 


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