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飛ぶべきか飛ばざるべきか…環境とバカンスの板挟みに悩むデンマーク人

7月、バカンスシーズン真っ盛りのデンマーク。年間6週間の有給休暇が認められているこの国では、多くの人が夏の間に3週間ほどの夏休みをとるのが恒例だ。海辺のサマーハウスを目指す人もいれば、近場のヨーロッパ諸国へ出掛ける人、またタイやインド、はたまたアメリカ、オーストラリアや南米まで大遠征をする人も少なくない。しかし、今年の夏は少し様子が違う。「飛び控え」る人がフォーカスされている。デンマークの大手日刊紙、ユランズ・ポステンに、コペンハーゲン郊外のロスキレ市に住む、ある家族の今年のバカンスについての記事が2ページに渡り掲載された。

記事のあらすじはこうだ。
夫婦に6、9、12歳の子供たちという5人家族のステア家は、この夏のサンフランシスコ旅行を計画していた。しかし、とあるきっかけで、この旅行によって通常、一家が年間に排出している3倍ものCO2を排出するという事実を知って、家族で話し合った結果、サンフランシスコ行きを取りやめ、代わりにスウェーデンにある子供たちの祖父母のセカンドハウスに車で行くことにしたのだ。「世界を見るのは素敵なことだし、デンマーク人にはそうできる経済的基盤がある。でも今回、家族で話し合ったことで、海外旅行を全くやめるつもりはないけれど、もう少し良く考えて、次の機会にサンフランシスコへ行けばいい、という考えに至ったのはよいことだと思う」。ステア家の母、ナナさんはそう語っている。

これは、当然、旅行業界にとっては聞き捨てならない話だろう。デンマーク旅行代理店協会理事のラース・チュキア氏は、「サンフランシスコまで、持続可能な旅をすることは可能。ただ、現在決まった法律がなく、50にも及ぶカーボンオフセット・プロバイダーが存在するので、共通のシステムを作ることが重要であり、また、消費者が今後、持続可能な旅行がしたいという意思表示をしていくことも大切だ」と話す。

同紙によると、デンマーク人は平均して年に2回弱、飛行機を利用するという。が、それを環境のために減らしていくのはそう簡単ではなさそうだ。デンマークのグリーン・シンクタンク、コンチトの会長、マーティン・リデゴー氏は「例えば、コペンハーゲンからニースまで電車で行くとしたら、飛行機で行くのと比較して金額にして2から3倍、時間にしたら10倍以上にもなる。実際の旅で環境にかかる負荷に即した料金体系にならない限り、旅行者の習慣を変えることは難しいだろう」と語る。

では、航空会社はどう考えているのか? スカンジナビア航空の答えは、バイオ燃料だ。同社の環境マネージャー、マーティン・ポースゴー氏によると、同社は3、4年のうちに、バイオ燃料の混合燃料の使用を始め、長期的には、50%のバイオ燃料と50%の通常の航空燃料の割合にすることを目指しているそうだ。同社では2020年までに、温室効果ガスの排出を20%削減することにしており、それは搭乗者一人当たりのkmごとの温室効果ガスの排出を50%削減することに相当する。バイオ燃料の使用は、この目標達成に大きな意味を持つのだ。

現在のところ、バイオジェット燃料としては、藻、カメリナ、ヤトロファのタイプがあるが、一番期待が寄せられているのは、藻である。というのも、藻の培養は海上や水槽などで可能で、それほど場所を取らず、生育が早く、しかも陸上での食料生産と競合しないという利点があるのだ。もうひとつ、温室効果ガスの排出を削減する方法として、最新の、より経済的なモーターを搭載した新しい航空機を利用するという手がある。例えば、ボーイング社の次世代中型ジェット旅客機、ドリームライナーは、燃料の使用量が今までより25%少なくて済むという。しかし、25年と言われる旅客機の寿命を考えると、今利用されている旅客機がドリームライナーのような「省エネ」タイプに入れ替わるには相当な時間がかかりそうだ。

バイキングの時代から、デンマーク人は外へ目を向け、果敢に海外へ出て行った歴史がある。一方で、環境問題にも敏感な彼らは今、まるで遺伝子に刷り込まれているかのような海外への旅に対する思いと、環境に配慮する思いの板挟みに揺れている。それでも、デンマーク人は、今、この時点でできる、精一杯の環境対策を多くの人が心がけながら、なおも世界を旅することを止めないだろう。


http://jp.dk/morgenavisen/maindland/article1738372.ece

http://jp.dk/morgenavisen/maindland/article1738373.ece

 

 


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