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世界が注目!「ペットボトルに入った水はもう売らない」と決めた町

<記事要約>

オーストラリア初の“ペットボトル入り飲料水のない町”(Australia's first bottled-water-free town)バンダヌーンに、デザイン会社ストリート・ファニチャー・オーストラリア(SFA)が、水飲み場に設置する給水器3台を進呈した。

市販のペットボトル入り飲料水の利用を減らす活動しているNPO団体ドゥ・サムシングを支援するために、不正開封防止装置付きの浄水器をデザインしたSFAは、「アクア・ステーション」と名付けたこの設備が、全国の街角で見られるようになることを期待している。

「アクア・ステーションの狙いは、再利用できる容器を持ち歩くよう人々に促すこと。我々のメッセージは、ランドフィル(=埋め立て)ではなく、リフィル(=詰め替え)しよう、だ」と、SFAの共同設立者ダレル・コニビア氏は言う。

2009/7/22 FoodWeek Online(http://www.foodweek.com.au)より


<解説>

オーストラリアのニュー・サウス・ウェールズ州サザンハイランドにある小さな町バンダヌーンで、ペットボトル入り飲料水の販売禁止が圧倒的多数の支持を得て決議されたのは、今月上旬のこと。人口約2,500人のうち355人が住民集会に参加し、反対票を投じたのはたった1人だけだった。町では、無料の給水ポイントを新しく設けるほか、再利用できるプラスチック容器や冷たい水道水を店頭で安価に購入できるようにする計画だ。

ペットボトルに入った水に関しては、これまでにも省庁や地方議会などの機関が公費で購入しないことを決めたり、イベント会場での販売を禁止したり、水道水を見直そうと呼びかけたり……といった動きはあったものの、あくまで限られた場所や時間、もしくはエコ意識の高い人たちの活動でしかなかった。

地域コミュニティで「売らない」と決めたのは、国内初のこと。おそらく世界でも初めてでは?  ということで、ニューヨーク・タイムズやBBCから、アルジャジーラまで、世界中のメディアがこぞって報道した。発案者である地元の自転車屋兼カフェのオーナーは、住民投票の翌日だけで70件以上のインタビューをこなし、そのPR効果は100万豪ドル(7月24日現在のレートで約7,700万円)を超えると地元メディアに語っている。SFAのように、企業や団体からもたくさんの支援の手が差し伸べられ、大きな反響を呼んでいる。

子豚が活躍するオーストラリア映画『ベイブ』のロケ地として知られるサザンハイランド地方は、首都キャンベラとシドニーの間に位置する牧歌的な田園地帯で、どちらかといえば村といった方がぴったりくる小さな田舎町から、世界的な注目を浴びる環境ムーブメントがスタートしたのが、何ともオーストラリアらしい。

ここでいうペットボトル入り飲料水とは、スティル・ウォーターと呼ばれる炭酸なしの水、またはそれに味・香りを付けたフレーバー・ウォーターのこと。炭酸飲料やフルーツジュース、スポーツドリンクなどは今までと変わりなく販売される。

当然ながら、飲料業界や関連団体からは、猛反対の声が上がっているのだけれど、周辺一帯をカバーする地元紙の意識調査では、決議を支持する人が8割。ペットボトルの生産や流通にともなう温室効果ガス排出量がやり玉にあげられるなど、環境面では明らかに反対派の分が悪い。

ただ、この国のおもしろいところは、住民投票の際にたとえ1人でも堂々と反対票を投じる人がいたように、少数派からも、

「リサイクルを徹底するのが先でしょ!」
「どうして水だけ?」
「ほかのソフトドリンクを買ってしまうことになるから、健康にかえって悪い」
「消費者の選択の自由を奪うのはおかしい」

などと、さまざまな声が上がっていること。これに対し、「良質の水道水は蛇口をひねるだけで容易に手に入る」というのが、バンダヌーンの住人たちの基本的かつシンプルな主張だ。

そもそも、この一連の騒動のきっかけは、シドニーのノーレックス社がバンダヌーンで汲み上げた地下水をボトル詰めにして販売する開発計画を押し進めようとしたこと。数年に渡って反対運動を繰り広げてきた住民の一人が、ペットボトル入り飲料水そのものに「ノー」を突きつけることに思い至り、環境団体やメディアを巻き込んで、世の中に一石を投じたというわけだ。

そういえば、2003年に“オーストラリア初のレジ袋のない町”(Australia's first plastic-bag-free town)となったタスマニア島のコールズ・ベイも、人口約200人の小さな町だった。当時、レジ袋の規制やエコバッグはまだまだ珍しかったため、国内のみならず、世界中から注目され、言いだしっぺとなった地元のパン屋店主は、後に島民栄誉賞に相当する「タスマニアン・オブ・ジ・イヤー賞」や、コミュニティ分野で大きな影響を及ぼしたオーストラリア人に贈られる「2005年ローカルヒーロー賞」を受賞することとなった。

オーストラリア人は、前例のないことをやるのが大好きなのだ。誰かの小さな思いつきや呼びかけが賛同を得て広がり、大きなうねりとなって社会に変化をもたらす――それが理想論ではなく、時折実際に起こるのを目の当たりにすると、何だか元気がわいている。ペットボトル入り飲料水をめぐる今後の展開にご注目あれ。

 

【関連情報】

○水道水 vs ペットボトル水 クールな人は水道水を飲んでいる?
http://www.nygreenfashion.com/html/learn/bottledwater.html

○ペットボトルよりも水道水の方がキレイってほんと?
「Tappening Project」から学ぶ水の正しいえらび方
http://greenz.jp/2008/08/22/tappenening-project/

○水筒ブーム到来で、脱ペットボトルなるか?
『常温タイプの水筒』で考える「日本人の水道水離れ」
http://diamond.jp/series/miyama/10015/

○水 <解説編>ボトルウォーター・ビジネスを考える
http://www.dear.or.jp/world/water.html

○WaterPlanet2009 みずのがっこう:給水オアシス
http://www.thinktheearth.net/jp/waterplanet/oasis/

 

 


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