お堅いイメージの濃いＮＨＫが初めて本格的にガールズファッションを深掘りしたレギュラー番組「東京カワイイ★ＴＶ」がファッション業界人の道しるべとなりつつある。トライアル的な放送を経て、2008年春からレギュラー放送が始まってまだ１年半だが、取り上げるテーマの鮮度、綿密な取材などが評価され、今やファッションだけではなく、ビューティー、カルチャー、メディア関係者も見逃せない番組に成長した。

　タイトルにある通り、日本女性固有の感覚とされる「カワイイ」をキーワードに、東京発のガールズファッション、カルチャー、グッズをリポートしていく構成だ。意外に思われるかも知れないが、日本の主要テレビ局が自前企画で本格的なファッション主体の番組を企画したこと自体がかなり珍しい。かつてテレビ東京系で放送されていたモード解説番組「ファッション通信」は、現在、地上波放映ではなくなり、ＢＳジャパンの番組として続いている。

　ドキュメンタリー仕立てをベースとしているだけあって、「東京カワイイ★ＴＶ」はその取材の厚みがただ事ではない。ＮＨＫの特集番組や報道ニュースのような取り組みで、毎回のテーマを掘り下げていく。もっとも、「プロジェクトＸ」のような重さはなく、ポップなムードで番組は進む。

　専門家やマニアを登場させるのはもちろん、その分野のプロ、先端人たちを取材して、東京のモードエッジから立ちのぼったばかりの熱気を見事に映像化している。ファッションスナップ的手法もみられる。企業・ショップへの取材成果はビジネス目線でも参考になる。「さすがはＮＨＫ」と言いたくなるような手間暇のかけ方だ。

　８月に放送されたパリ出張ロケ編では、番組で選抜したデザイナーがパリコレクション期間中に、ミニファッションショーを開催した模様が柱になった。日本から連れて行ったモデル、タレントがランウェイウォークを披露。フランスの有名デザイナー、ジャンシャルル・ド・カステルバジャック氏を突撃取材でフロントロウに招くという離れ業まで実現して見せた。パリコレを取材する日本のテレビ番組はあっても、パリコレに「参加」してしまう番組は聞いたことがない。

　番組ナビゲーターを務めるのは、モデル経験を持つ俳優の沢村一樹と、歌手のBENI（安良城紅）、モデルの紗耶。「エロ男爵」の異名を持つ沢村一流のツッコミや混ぜっ返しと、視聴者像に近いBENIの掛け合いもこなれている。ほとんどの企画で２人が参加するロケがあり、ストリートや消費者のリアル感を伝えているのも、同番組が視聴者の共感を得ている理由だろう。スタジオで司会者がモニターを見てコメントを挟むだけのお手軽な造りではない。パリ出張では沢村も現地に赴き、素人モデルにウォークを指南した。

　海外にはファッションショーをリポートする番組があるし、芸能人のファッションを批評する番組もある。日本のワイドショーにも、街行くおしゃれ女性の着こなしをファッションチェックする企画はある。でも、取り立てて気合いを入れたおしゃれではない「普通」のストリートレベルでリアルクローズを分析するファッション番組は、世界レベルで見ても珍しい。

　広い意味の「カワイイ」に当てはまれば、メンズでも取り上げるし、ファッション以外にも目を向ける。例えば、メンズで人気のホスト系ファッションや、キャバクラ嬢が得意とする高く盛り立てた髪型「盛りヘア」なども特集した。その視野角の広さは、企画提案に参加しているブレーンの着眼点のよさを感じさせる。番組の作り手たちが面白がって仕掛けている感じが伝わるのも、同番組の勢いを支えている。

　実はＮＨＫは秘かに日本最大のファッション発信力を持つテレビ局となっている。ＮＨＫが海外へ向け、ファッションを発信する番組「TOKYO FASHION EXPRESS」も日本語字幕での逆輸入放送が始まった。海外のファッションショーも紹介されるが、日本のクリエイターを発掘しようとする意欲も強い。

　米国で人気の主婦向けおしゃれ指南番組「ティム・ガンのファッションチェック」も持ち込んだ。米国トップクラスのファッション校「パーソンズ大学」で校長を務めたファッションコンサルタントのティム・ガン氏が、おしゃれ下手の主婦を変身させる企画だ。元スーパーモデルのヴェロニカさんと一緒に主婦の自宅に乗り込んで、ワードローブを空にさせ、「最低限そろえておくべき10着」を柱に、服選び・着こなしを叩き直すというスパルタぶりが見所。ただの辛口ファッションチェックではなく、深い見識に裏打ちされたガン氏の的確なアドバイスを聞いて、視聴者も装い上手になれる点が人気を呼んでいる。

　10月からはドラマ「アグリー・ベティ３」が始まる。ファッション誌の編集に編集長秘書として雇われた、文才はあるが、ファッションセンス皆無の女の子ベティーの物語だ。舞台が有力ファッション誌という点は映画「プラダを着た悪魔」と同じ。きらびやかなモード誌の裏側を見せてくれるストーリーと、ファッション界の奇妙な生態がドラマを盛り上げている。好評を受けてのシーズン３となる。

　リアルクローズの祭典「東京ガールズコレクション」は今や東京コレクションをしのぐほどの注目を集めるファッションショー。民放ではニュースで短く伝えるだけだが、ＨＫは2007、2008年と続けて、全ブランド全ポーズをリポート。最新コレクションも「TOKYO REAL FASHION 2009秋冬」として９月19日に丸２時間かけて解説する。

　「東京カワイイ★ＴＶ」のパリデビューで披露したのは、「女子校制服」「ゴスロリ」「デコ」などの東京発ファッションだった。これらは既に日本発のカルチャーとなって世界に飛び火している。その後の同番組では、日本のギャルファッションに憧れる海外女性の来日ツアーも取り上げられた。フランスでは漫画やアニメに加えて、ジャパニーズファッションも熱気を帯びている。でも、こういったうねりをしっかり伝えている番組は「東京カワイイ★ＴＶ」しかないのが現状だ。今、この番組を見ておかないと、「カワイイ」を取り巻くリアルな消費者の気分はつかみにくいかも知れない。「ＪＫ」「筋盛り」「読モ」「ユニ隠し」「リセッショニスタ」。これらの言葉の意味が分からない人には、この番組が補習授業代わりになってくれる。

【編集部ピックアップ関連情報】

○脱 OEM宣言!! アパレルの経営者の方へ
　「必見！NHK 東京カワイイTV」　2009/05/25
　アパレルウェブも番組の取材で何回かご協力させて頂いていますが
　この番組のディレクターのセンスは抜群です。やはりこういった
　センスのある人が作製している番組なんだと、会って納得でした。
http://apalog.com/chigira/archive/616