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【書評】伊藤直樹(著)「伝わる」のルール 体験でコミュニケーションをデザインする

  • MediaSabor 編集部

「時代の潮流を捉える」ことを標榜している当メディアにとって、「メディア」、「広告」の分野は避けて通れないテーマのひとつです。ネット時代の21世紀型広告というものを伝えるのに適した人物は誰なんだろうと暗中模索している中で、ふと目にしたのが、伊藤直樹(著)「『伝わる』のルール 体験でコミュニケーションをデザインする」の中に出てくる「インテグレーテッド・キャンペーン」という言葉です。旧来のマス広告の手法に捉われない考え方が、クリエイティブ含めて構造的な部分にまで言及されている書籍は極めて少ないといえます。「クロスメディア」とか「メディアミックス」という言葉がありますが、それらとも異なる「インテグレーテッド・キャンペーン」の考え方や組み立て方を解明する必要があると強く感じました。

昨年、GTからワイデン+ケネディ東京に移籍したクリエイティブディレクターの伊藤直樹氏を語るキーワードが、この「インテグレーテッド・キャンペーン」であり、日本における第一人者なのです。

カンヌで過去3年のうち5つのゴールドライオン(サイバー、フィルム、アウトドア、PR部門)を受賞しました。また、最近の仕事にはマイクロソフトXbox360インタラクティブOOH「BIG SHADOW」、ナイキiDのバイラルキャンペーン「NIKE COSPLAY」、ソニーウォークマンのインテグレーテッドキャンペーン「REC YOU」、ユニクロのウェブサイト「UNIQLO MARCH」、そしてリアルタイム・インタラクティブ・ドキュメンタリーの「LOVE DISTANCE」などがあります。

書籍「『伝わる』のルール 体験でコミュニケーションをデザインする」の構成は、第0講が、インタビューしたものや過去の仕事について語ったものを「広告批評」元編集長の河尻亨一氏が執筆し、第1講から第3講が伊藤氏の「広告学校」での講義をベースにした内容になっています。おもに伊藤氏から課題が出されて、企画を考えてもらい、それを講評するなかで、伊藤氏のふだんの仕事のやり方や考え方などが紹介されるといった生徒との対話形式で進んでいきます。それだけに、内容がわかりやすく、幅広い層にお薦めできる本です。

平易ですが、考えさせられるキーワードが随所に出てきます。
たとえば、人の口の端に乗る「3行」

商品が評判になっていくかどうかは、口の端に乗りやすいものかどうかが大事な要素になります。殊に現代社会は、現実のクチコミだけではなく、ブログなどで取上げられることによって、連鎖的に情報が広がっていくケースが見られます。プレスリリースがニュースサイトで、記事として扱われるかどうかも情報伝播の鍵です。そうしたことが起こるかどうかは、中心となるコアメッセージが、ムダを削いだシンプルなフレーズに整理されてなければならない、というのが伊藤氏の考えです。企画書のサマリーやプレスリリースの冒頭部が3行の伝わる文章に集約されていることが重要とのことです。

新商品を説明する際、ともすると、あれもこれもと盛り込みすぎて、過剰な表現になり、複雑化してしまうことがあります。頭でわかっていても、短い言葉で伝わる表現にすることの難しさを感じます。

伊藤氏のクリエイティブの基本は、“経験の記憶”を拠り所とした「身体性」、「体験」を伴うインタラクティブコミュニケーションです。これは、ネット時代だからこそ、人々が本能的に渇望している要素であり、人々が参加することによって、よりメッセージが深く伝わり、広がりやすくなるということが意識されているのだと思われます。

それから、最も印象に残った伊藤氏の考え方が、これからのクリエイティブディレクターが果たす役割は、建築家に近いものであるということです。建物のデザイントーンは、世界観であったり、コンセプトのようなもので、トイレや居間、階段、窓は、個々の部分として、それぞれ役割を果たしている。新たな広告像というのが、柱となるビッグアイデアを中心に、使うメディアによって表現は変われども、全体としては統合されたひとつの世界観、価値観を構築しているというイメージです。

広告批評が休刊を発表した際に、朝日新聞に掲載された業界関係者らのコメントのひとつに糸井重里氏が述べた下記の言葉があります。

■「80年代は専門職として磨かれたコピーライターが発信していたが、今は経営も
 広告も全体的に把握する『棟梁』が(作り手)に求められている」(糸井重里氏)

この糸井氏の発言と伊藤氏の考え方には、通底している部分があるように感じました。

これからのクリエイティブディレクターは、建築家とか映画監督のような役割を荷い、分業制を敷いていたとしても、それぞれのメディアごとの広告ディレクションについて、司令塔となることが求められるのでしょう。

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「伝わる」のルール 体験でコミュニケーションをデザインする

◆定価1,575円(税込)
◆伊藤直樹 著
◆四六判/192ページ
◆ISBN978-4-8443-2768-4
http://www.impressjapan.jp/books/2768
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昨年の10月末から配信を開始した当社プロデュース ビジネスポッドキャスト「ロングインタヴューズ」では、「インテグレーテッド・キャンペーン」をテーマにした伊藤直樹氏と河尻亨一氏の対談(放送時間 102分)を企画いたしました。 
http://mediasabor.jp/2009/11/post_723.html

書籍と合わせて、伊藤直樹氏の貴重な肉声を聴くことで、よりいっそう理解が
深まるものとなります。(配信時から三ヶ月間の期間限定配信となっております)

 


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