ドイツでは2008年4月末に、「児童支援法」という児童保育を対象とする法案が議会に提出されている。これは、3歳までの児童を対象にした施設の増設、またその年代層のグループのうち、３５％(75万人分相当)が、施設に預けられる環境を整えることが第一の目標だ。この法案は、同年12月に施行されたが、ここでは2013年までに3歳未満児は保育の場所を提供されることと定められている。

つまり明確に言えば、2013年8月1日からは、1歳以上3歳未満の児童は、全員保育の場所に入所できる権利をもつようにすることが定められており、そのために、連邦政府は保育施設などの建設費にかかるコストの3分の１までを補助することとなった。勿論子供を預けることは義務ではないが、これによって親が希望すれば保育を受ける権利が与えられ、3歳未満児に対する保育施設の供給が、急速に進められることとなるだろう。こうした法案はまた、共働きの家庭をサポートすることを目的としており、2005年に制定された児童デイ・ケア拡大法に基づいて、3歳以下の保育水準の向上、施設とそのサービスを拡大することにも大きく貢献する予定だ。また、保育の権利を受けるのは、就労中の親だけでなく、求職中の親も子供を預けられるというのは最大のポイントと言えるだろう。つまり仕事のない親も、子供を預けることで就職活動が可能になるというわけだ。

このような保育改革のためには、まず子供達のケアをしてくれる保育士の増員が必要であると言われており、同時にまた民間企業によるサービスの提供も支援する必要があるとされている。こうした民間セクターの事業幅拡大によって、子供を持つ親達の間では、保育先の選択肢が増えるようになるだろうという期待が持たれている。

しかしながら、こうした改革にも曇りが見えてきた。例えば、保育業界への民間企業の進出により、貧富の格差が出るのではないかという懸念がある。つまり私立の場合、裕福な親が顧客ターゲットとなってしまう傾向があるため、社会福祉国家ドイツの国民には不安感があるといえるだろう。またそれ以前に、2013年に向けての改革自体、このままの流れでは不可能ではないかとの声まで出てきている。今のようなスローテンポな保育所定員拡大の動きのままで2013年を迎えてしまえば、保育の権利を持っているのに子供のための保育の場所が見つからない親達からの訴訟が、後を絶たなくなるのではないかとまで心配されている。

児童保育改革の破綻がこのように予想されている大きな原因は、キーとなる2013年保育所需要率が、予想を軽く超えるだろうと言われているためだ。実際、最近の世論調査によれば、66%の女性が保育園あるいはデイケアを取り入れたいと答えており、キャリア志向の強い若い女性研究者の場合、その希望はなんと78%という結果になっている。このままでは全体の40%が、子供のために保育所の確保を求めることになるであろうと予測される。35%というのはあくまで2005年の時点における全連邦州の平均需要率でしかないことから、将来的に見ればあまり正しい数値ではないのではないかと、現在改めて見直す必要性が問われているのである。

さらに、経済的な問題も指摘され始めた。保育政策改革のために、連邦政府が補助金を40億ユーロ（約6660億円）準備する予定となっている。サービス拡大実施に必要な金額は120億ユーロ（約2兆円）と言われているのだが、これではまだまだ足りないのではないかというのだ。特にドイツでは社会主義国家であった旧東ドイツの都市よりも、旧西ドイツの都市での保育所充足状況が深刻であり、2013年における目標達成のためには西側における施策が重要であると言えるだろう。