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2008年ネット業界展望─SNSはオープン型、コラボレーション型の時代へ(by 神田敏晶)

2008年のネット業界を占おうとすると、いくつかのトレンドがすでに見え隠れしているようだ。今年はなんといっても、ハイブリッド化した「SNSの集中と選択」の年になるだろうとボクは考えている。

米大統領選を見てみると非常にそれがわかりやすいだろう。SNSの定義を、「本人と何らかのつながりが見いだせるコミュニティメディア」と広く定義するとこれらのサービスの本質が非常に見極めやすい。


【人々がSNSで選ぶ米国大統領選】

ヒラリー・クリントン氏の展開するSNSは5つ。
http://www.hillaryclinton.com/

MySpace
Facebook
YouTube
Flickr
Eons

一方、バラク・オバマ氏の展開するSNSはなんと16にも及ぶ。
http://www.barackobama.com/

Facebook
MySpace
YouTube
Flickr
Digg
Twitter
Ebentful
Linked in
BlackPlanet
Faithbase
Eons
Glee
MiGente
MyBatanga
AsianAve
DNC Partybuilder

これらのサービスはすべて広義のSNSのサービスなのである。ポイントは、人が人のネットワークでつながり、さらにそれらのつながりが新たな人を呼び招く効果があることだ。


ここでは、オバマ氏の人種的マイノリティーに対して影響の強いSNSへのコミットメントが明確になっている。マスメディアで紹介されるメディアの姿と、SNSコミュニティで繰り広げられる人を起点としたコミュニティは、新たな結束力を生み出している。

SNSの世界では、大統領候補の行動がつぶさに把握できる。しかも自分と直でつながっている点が既存メディアとの明確な違いだ。

SNSには、支援する大統領候補の声明を読みながら、メディアの論調、対立候補の声にも耳を傾け、自分でジャッジが測れるというメリットがある。

しかも、自分の知人や地域の人たちの候補の印象やタウンミーティングでの内容がブログや、写真やビデオで表現され、人の意見を知り、多面的に支援できる点も新しい。

ブログが、より外部に対してオープンであり、エントリーごとの「ネタ」的なつながりで見知らぬ人との共感部分を、読者という形で共有するのに対し、SNSでは、クローズドでないまでも、本人が参加を認証し、ネットワークを管理しながら知人を増やしていくという特性の大きな違いがある。


【APIの公開による、他力活用型バイラルコミュニケーション】

Web2.0ブームの浸透してきた近年は、APIという技術仕様を公開すればするほど、第三者的立場の参入者たちとのコラボレーションと顧客のデータ共有がさかんになってきている。

自社のサービスに他社のサービスを組み込むことによって、APIを公開した側にもメリットを与えることができる。このような従来の概念でいうところの「タイアップ」ともいえるビジネススキームが、ネット業界ではデファクトスタンダードになりつつある。

いわば、異なる企業同士が、得意な分野を活かしつつ、互いの顧客を共有することによって、さらなる顧客満足度を向上させ、異なる企業の価値をも上げるというコラボレーション・モデルのひとつなのである。

APIを公開することの最初の成功事例は「Google Map」であった。今や数万ともいわれる利用サービスが存在する。Googleが提供するマップ上に世界中の企業、団体、個人が、コンテンツを同時多発的に大量にデータを提供しはじめた。さらにそれらが共通APIで共有されることによって、新たな価値観を生み出しはじめている。

もちろん最大のベネフィットがあるのがGoogleである。データベースを無償で公開するなんて発想は5年前にはなかったわけであり、このモデルのパイオニアとしては、それなりの先行者利益があるのは当然であろう。しかし、Googleが無料のサービスを永久に今後も続けていくという担保がない以上、オルタナティブな手段がないことは、Googleの市場独占ということを意味するのかもしれない。

最良のサービスも最適化される規模ということが必要なのかもしれない。


【2008年コラボレーション型SNSの時代】

mixiに代表される日本の標準的なSNSは、今や利用者が1000万人台に到達することによって、ほぼ興味のある人には浸透しつくした感があるだろう。

今後はネット上のさまざまなサービスに共通のIDでアクセスできるという「OpenID」というような概念も生まれ、ひとつのSNSのログインネームでいくつものSNSを相互的に乗り入れることが可能になる。また、SNS同士のオープンなプラットフォームを目指す「Open Social」も誕生した。

時代は相互に活用できる、いや共有し、コラボレーションできる機能によって、新たな価値を生み出そうとしている。

クローズドで単機能なお付き合いSNSを複数持つよりも、自分が一番使い慣れたSNSから他のサービスを追加していきながら拡張していくという仕組みが登場しはじめている。

もはや、自分の興味を自分で追求するよりも、自分と似たことに興味を持つ人たちを、ネット上で発見することのほうがたやすくなっている。さらに自分で検索するよりも、その人たちの行動をキャッチアップするだけで、自分の検索行為以上に必要な情報が短時間に得られるという状況もSNSで完成しつつある。


【新たなポータルサービスとしての「スタートページ」】

すでに、新たな概念としての「スタートページ」と呼ばれる、Trunc.jp (http://trunc.jp/)や nendo.tv (http://nendo.tv/)が、知人のニュースとマスメディアのRSSニュースを同様に処理をはじめ、Googleのサービスも必要なものだけを取り込み、日々いろんなサービスを統合(アグリゲーション)化しつつ成長している。

もちろん、iGoogleというサービスもある。最初の概念は2005年フランスの「netvibes.com(http://www.netvibes.com/)」から始まった。「netvibesユニバース」として、メディアや企業からの情報も、自分のページに取り込めるアイデアを実装している。

すでに企業からの情報は「広告」という「メディア」を経由したものではなく、企業の情報の窓がユーザーのスタートページに直結されるようになっている。しかし、もうすでに広告はうざく感じられ、自社のメッセージの表現も企業側のスタンスではなくユーザーサイドにたった表現が求められる時代というような変革も現れてきている。

これからの企業は自社製品やサービスが、本当に該当するユーザーのためになるのかどうかを慎重に考えてから情報を提供しなければならなくなってくる時代である。それは「ユーザー直の時代」になればなるほど求められる傾向だろう。

これらのサービスの特徴は、ブラウザのタブの一番左端に駐在し、何時間もの接続時間と何度もアクセスするという粘着性を生み出している。もはやサービスという存在を超え、ブラウザの中の駐留型アプリケーションであり、メディアを選択するコントローラーという様相を見せ始めた。

2008年、広義のSNSとしてのスタートページの動きは、続々と登場してきそうだ。しっかり、注目しておいて損はないと思う。


《編集部ピックアップ関連情報》

○MediaSabor  2008/02/18
 ヒラリーがネットで切実な寄付金願い「3日で300万ドル必要」
http://mediasabor.jp/2008/02/2008_3.html


○MediaSabor  2008/02/05
 「草の根でオバマ米大統領候補者を支援するYouBama(動画共有サイト)が発足」
http://mediasabor.jp/2008/02/youbama.html


○MediaSabor  2007/10/07
 「NO STYLE広告論 米大統領選挙にも影響しそうなオバマ・ガール現象を読む」
http://mediasabor.jp/2007/10/no_style_2.html


○koress.jp 「OpenIDの襲来に備えよ!」 2007/10/13
 たぶん、2008年のインターネット(Webサービス)業界はOpenIDによる
 WebサービスのID体系の統一の荒波に揉まれることになると思う。
 日本のサービスプロバイダは、OpenIDの襲来に備えるべき。
http://koress.jp/2007/10/openid.html


○ITmedia アンカーデスク 
 「思い切ってOpenIDを信頼しよう」2008/02/22
http://www.itmedia.co.jp/anchordesk/articles/0802/22/news084.html


○ITmedia News  2008/01/18
  「Yahoo!、OpenIDサポートを表明
  ――Yahoo! IDで対応サイトへのログインが可能に」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0801/18/news011.html


○Yet Another Hackadelic 2008/02/14
 「@IT西村さんのOpenIDの記事が秀逸過ぎる件」
http://d.hatena.ne.jp/ZIGOROu/20080214/1202966549


○FPN 「“OpenProfile”で SNS と転職サイトが変わる?」2008/01/31
 聞き慣れない言葉かと思いますが、“OpenProfile”というのは
 本エントリー用に作った言葉です。皆さんは、新しい SNS や
 転職サイトに登録する度に毎回同じプロフィールを記入するのが
 面倒と思いませんか?
http://www.future-planning.net/x/modules/news/article.php?storyid=3050


○メディア・パブ 「Googleの“OpenSocial”の全貌が明らかに」 2007/11/02
http://zen.seesaa.net/article/64063285.html


○social web rambling  2007/11/01
 「ソーシャルネットでGoogleが満塁ホームラン―OpenSocialを発表」
 OpenSocialはまた単に海の向こうの話題でもない。独自にプラットフォーム
 を作っても有力なアプリケーション開発者に振り向いてもらえないような
 中小、ニッチ狙いのSNSでもAPIにOpenSocialを採用すればアメリカを始め
 全世界の人気のあるアプリケーションを呼び込める。TechCrunchの記事中
 でマイク・アリントンが「新たな金鉱が発見された」と評しているが、
 まさにそのとおりだ。日本からもこのゴールドラッシュに誰か参戦
 しないものか?
http://socweb.blog80.fc2.com/blog-entry-138.html


○WIRED VISION  濱野智史の情報環境研究ノート
 「OpenSocial」は日本のSNSをめぐる状況を変えるのか? 2007/11/08
http://wiredvision.jp/blog/hamano/200711/200711081100.html


○CNET  2008/01/08
 「ウェブの2008年、最大の期待株はオープンソースムーブメントだ」 
http://japan.cnet.com/column/rwweb/story/0,2000090739,20364180,00.htm


○CNET  オンラインパネルディスカッション 2007/11
 Google「Open Social」公開、SNSに何が起きる?
http://japan.cnet.com/panel/story/0,3800077799,20360277,00.htm

 

 


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