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「I」から「WE」への地殻変動

  • 株式会社ジャパンライフデザインシステムズ 代表取締役社長 
  • 谷口 正和

 アメリカ大統領選挙もいよいよデッドヒート、民主党ではオバマ氏がほぼ確定の状況になってきた。

 ところで4月10日付の朝日新聞の記事によれば、オバマ氏とクリントン氏の演説スタイルには明らかに差があるという。オバマ氏は主語に「WE(私たちは)」を多用する。聴衆はオバマ氏の演説に合わせて「Yes we can(私たちは できる)」と声を合わせるが、「I(私は)」多用のクリントン氏の支持者は「Yes she can (彼女はできる)」と合わせるという。「I(私は)」より、「WE(私たちは)」のほうが支持されているということだ。もちろんこのように短絡できない部分もあるだろうが、あえて絞り込んだ見方をすれば、時代は「I」から「WE」へと動いていると見ていいだろう。

 21世紀は地球の時代である。それに反して、21世紀は史上初めての個人の時代だった。そのチャンピオンがアメリカだったと見ていい。もちろん、個人主義はこれからも社会趨勢の大きな軸であることは確かだ。しかし21世紀の地球経営の時代は、個人よりもさらに大切にしなくてはならない価値軸がある。それが「WE」なのである。最近の潮流で言えば、「エコロジー」がそうだ。地球の自然環境を守ろうとするエコロジーは、個人でできるものではない。それはみんなで協力しなければ成立しないものなのだ。

 地球環境や社会問題などに積極的に行動しているのは、いわゆるセレブたちである。ハリウッド・スター、ジョージ・クルーニーは、ダルフール紛争救済に熱心に活動している。昨年のカンヌ映画祭では、記者会見にたくさんの報道陣が詰め掛けることを見越して、ダルフール紛争救済を訴えた。「この問題は世界規模で取組むことが大切だ」と「WE(私たちは)」メッセージを強調した(GQ JAPAN6月号)。 セレブが社会的メッセージシンボルになりつつあるのは注目される。

 今世界的にカーシェアリングが注目されている。これなども「I」から「WE」への変化だ。マイカーからウイカーへ、である。サンフランシスコ市でカーシェアリングが人気だ。Zipcarは世界最大のカーシェアリングサービスだが、会員が急増している。Zipster(会員)が予約すると、近所の駐車場の空車が知らされてくる。会員カードで解錠して乗り、またどこかの駐車場においてくる仕組みだ(GQ JAPAN6月号)。

 リサイクルにも新しい波が出てきた。リサイクルのアート化、インテリア化である。

 鉄廃材を使っておしゃれエコ商品を開発しているのが「エコピリカ」だ。さび付いた自転車のチェーン、古着、ビニールシートの廃材で、20代から30代女性に向けて開発されるエコブランドである。ゴミとして捨てられていく廃材にデザインで命を吹き込むのがテーマだという。代表の高原月子さんは元広告代理店勤務。そこで学んだマーケティング理論を使って「誰に呼びかけるか」を分析、インターネットでデザイン案を公募した。応募作品の中からコンセプトに合う作品を制作、渋谷で展示会を開催した(日経MJ4/23)。

 最近自転車が注目されている。自転車は究極的な 「I」カーだが、その使用意識は「WE」生活圏なのだ。社会の基盤が急速にエコロジーになろうとしているなか、人々はエコロジストになり、自分のコミュニティの中で、ヘルシーでナチュラルなライフスタイルを形成しようとしている。そのような時代に最も適した移動ツール、それが「自転車」なのだ。歩くよりもちょっと速く、しかもクルマのように無駄なエネルギーを消費しない。半径4、5キロの生活圏の中で暮らすコミュニティ型ライフスタイルにはぴったりの乗り物なのである。自転車はすでに単なるツールを超えて「自転車文化」となり、新しいライフスタイルを生み出そうとしている。パーク&ライド、ウォーク&ライド、自転車シェアリングなどの新しい自転車文化を次々と生み出しつつ、市場はエコロジー、ヘルシーの方向に進んでいく。「自転車」と「LRT」(軽量軌道交通=次世代路面電車)は、エココミュニティの原則モデルになっていくのではないだろうか。

 おしゃれな女性誌が盛んに自転車を取り上げている。ELLEjapon6月号は「いま、ファッション・ピープルは自転車に夢中!」と題して自転車を愛する世界のクリエーターを取材している。ニューヨークでセレクトショップを経営するケイトはブルックリンの自宅からお店まで20分の自転車通勤。パリのセレクトショップ、コレットの広報ナデージュは自転車レンタルを利用。「車は嫌い。自転車だと自由を感じる」と彼女は言い切る。長らく続いてきた自動車時代の根底に、何らかの変化が起きていることが読み取れる。

 随所に起きている「I」から「WE」への変化を見逃してはならないだろう。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○MediaSabor  2007/09/13
 「ベルトラン・ドラノエの環境政策 パリの自転車レンタル・サービス
 Velib (ヴェリブ)が人気」
http://mediasabor.jp/2007/09/velib.html


○CNET  2008/01/23
 エニグモ、個人のモノをなんでもシェアするサービス
 「ShareMo(シェアモ)」を開始
 エニグモでは、「買うよりシェア」、「捨てるよりシェア」、そして
 「所有よりシェア」というエコロジカル、かつエコノミカルな
 消費スタイルを確立させ、大量消費社会から、環境に優しい循環型社会
 の実現に貢献したいとしている。
http://japan.cnet.com/mobile/story/0,3800078151,20365553,00.htm


○一休ブログ 2008/02/10
 「ソーシャルアパートメントを見学してきました」
 ソーシャルに住むことで1人でいるよりも多くの刺激を吸収できるのでは、
 ということで、以前からゲストハウスに注目して自分でも住んでいた
 のですが、いろんな国籍、考え方の方々と刺激や気づきに溢れた
 おしゃべりができたり、パーティーして楽しんだり、自由でありつつ他人
 の主義を尊重し慮るバランス感覚を意識するようになったり、実際すごく
 楽しくてもうやめられないなって実感しています。
http://blog.mynet.co.jp/uchino/2008/02/post_28.html


○SWEET PARADISE 
 「ソーシャルアパートメント」 って、今・・・  2007/11/07
  ロンドンで4年間どっぷりとハウスシェアにつかっていた私にとっては、
 このトピックは否応なしに自分の心に留まった。
 日本では、不動産ビジネスとしてのパッケージ感と、「孤独感を
 解消しますよ」というメッセージが謳われていて、欧米のいわゆる
 “ハウスシェア”とは根本にある思想と、実際の住居の使用が正確には
 一致しないかもしれませんが。ネットでは“SNSの現実版”なんていう
 フレーズも広まっているようだし。
http://sp108.blog108.fc2.com/blog-entry-17.html


○シブヤ経済新聞 2008/02/25
 外苑前に米自転車メーカー「スペシャライズド」日本初コンセプト店
http://www.shibukei.com/headline/5036/


○ITmedia News  2008/03/19
 「ネットにイラスト、こんなにあるとは」――
 10万ユーザー突破したイラストSNS「pixiv」の“想定外”
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0803/19/news059.html


○POLAR BEAR BLOG 「知識共有を阻む37の壁」2006/09/05
http://akihitok.typepad.jp/blog/2006/09/37_efa5.html


○WIRED VISION 「公と私の新しい関係を模索する時代へ」2008/01/11
  2008年は環境問題がさらに世界的なキーワードになることは間違い
 なさそうである。地球環境問題を捉える時には個人の利害と全体の
 利害の相反という問題に我々は直面することになる。個人の豊かさの
 追求の総和が地球環境を破壊してきたため、個人の豊かさの追求に
 制限をかけてでも、社会全体の利益を守ることが求められる社会に
 突入しようとしている。
http://wiredvision.jp/blog/fujimoto/200801/200801110100.html


○Business Media 誠:神尾寿の時事日想 2008/04/10
 「利用者の中心は30代――日本でも広がるカーシェアリング」
 カーシェアリングとは、会員制でレンタカーよりも短時間の貸出を行う、
 新しいクルマの利用法だ。先行する欧州では公共交通の1つとみなされ
 ており、CO2削減に効果が出るなどの調査結果もある。カーシェアリング
 に注力するオリックス自動車に、日本における利用状況を聞いていく。
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/0804/10/news042.html


○Business Media 誠:松田雅央の時事日想 2008/04/15
 「都市交通新時代――トラムと車が共存できる街」
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/0804/15/news037.html


○ecopirika(エコピリカ) exhibition(YouTube映像 01:36)
http://jp.youtube.com/watch?v=cd3L7JdiDYE


○REISMは、リノベーションを通じて『今までにない中古不動産の新たな
 カタチ』を確立するための、オリジナルリノベーションブランドです。
http://jp.youtube.com/user/REISMpj

 

 


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