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マルチプラットフォーム戦略に活路、仏有料TVチャンネル「カナル・プルス」

<記事要約>

 カンヌ映画祭が14日から始まった。61回目になる今年は、有料チャンネルのカナル・ピュルスと携帯電話会社のオランジの対決が繰り広げられている。2社ともに、カンヌ映画祭の公式パートナーは、自社だと主張している。

http://www.lemonde.fr/archives/article/2008/05/14/au-festival-de-cannes-orange-pousse-canal-dans-ses-retranchements_1044790_0.html


<解説>

 今年も、ハリソン・フォードを筆頭にハリウッドの豪華ゲストがパレ・ド・コングレの赤絨毯を歩く、61回目の2週間の祝典が始まった。フランスの映画産業は、ハリウッドの大量生産、商業主義とは一線を画している。芸術的な映画を好み、精神的、財政的に支援するシステムがフランスにはできあがっている。その中で、フランスの有料チャンネルの最右翼、カナル・ピュルス(Canal +)は、役割の大きさを自負している。

 1984年から営業を開始したカナル・ピュルスは、ミッテラン政権のもと、映画産業を活性化させるために発足した最初の有料民放だ。日本のWOWWOW局と同じように、視聴者から月額使用料をとり、2─3ヶ月前に封切りした新しい映画を放映する。

 映画だけでなく、フランス人の間で熱狂的な人気を誇るサッカーの中継の多さや、ボクシングやバスケットボールといった他の局ではほとんど放映されないスポーツを放映しているのも成功の要因だ。サービスが始まった84年には18万6000人だった加入者が、現在では800万人以上に増加。

 アラン・ド・グリーフが司会をしたカルト的人気のトーク・ショウ 「ヌル・パール・タイユールNulle part ailleurs」、辛口政治批判を人形劇スタイルでみせる「ギニョール・アンフォ(Guignol Info)」が大当たりして、不動の地位を築いた。国営放送や無料の民放ではできない思い切った番組作りと辛口批判がフランスの視聴者に受け入れられた。

 87年1月には、子会社の製作会社スタジオ・カナルをつくり、フランスと海外の映画製作、配給をしている。カンヌ映画祭の大スポンサーの一社である。

 以前は、デコーダーがないと受信できなかったカナル・ピュルスの番組が、2004年から地上デジタル放送のTNTのみならず、ADSL経由でデコーダーなしで見られるようになった。これは、カナル・ピュルスの経営陣の大きな賭けだ。通信と映像業界の融合が急速に進むフランスでは、誰が勝ち組になるのかが、まだはっきりと見えていない。

 しかし、現在、一般視聴者に大きな影響力を与えているのは、インターネットのプロバイダーと携帯電話のオペレーターだろう。この二つの業種も融合に向かっている。

 オランジ(Orange)やエス・エフ・エール(SFR)といった携帯電話のオペレーターは、高速インターネット通信、携帯電話の会話と固定電話の会話、デジタル放送をすべて可能にする各社固有の万能モデムを提供している。このモデムを使えば、映画や海外ドラマをテレビ画面だけではなく、コンピューターの画面や携帯電話で見られるのが魅力であり強みだ。

 このADSL経由の映像配信システムにカナル・ピュルスも参加しているということは、一見競合相手に吸収されているようにみえるが、「コンテンツ」で勝負をすると自負しているカナル・ピュルスの強気さ加減を示している。オランジ社のADSL経由テレビの加入者は、約130万人。カナル・ピュルス社は、開拓すべき新しい市場があると見込み、携帯電話オペレーターと協力体制を組んだのだ。

 カナル・ピュルスの戦略決定の背景にあるのは、政治的要因。フランス政府は2006年に、携帯電話でテレビ番組を見られる目標を2007年末に設定していた。そのために、携帯電話業界とテレビ業界が一同に会し、技術提携を図っていた。ケーブルテレビの将来をみすえたとき、日進月歩の技術革新を遂げている通信業界と手を組むことが、生き残りの道とわかったのだろう。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○MediaSabor  2008/05/02
 「フランスの放送改革(放送と通信の融合)は、ADSL経由が先行」
http://mediasabor.jp/2008/05/adsl.html


○Courrier de Paris 「突然多チャンネル環境に」2008/03/01
 フランスの地上デジタル化は、デジタル化に伴い多チャンネル化が実現し、
 無料で十数チャンネルが見られることになり、日本とは違ってメリットが
 目に見えるデジタル化です。今回のADSL経由のテレビは、従来の
 アナログ地上波、デジタル化で見られるようになったチャンネルに加え、
 多くの専門チャンネルも見られるようになり、日本で言えばケーブルテレビ
 を導入したようなイメージです。
http://sog.blog.so-net.ne.jp/2008-03-02


○CNET  2008/03/14
 「TV、電話、ネットのトリプルプレイが大ヒットしたフランス、次の一手探るISP」
 フランスは現在、固定ブロードバンドでは欧州でも進んでいる国だ。
 ブロードバンドはADSLが2003年ごろから急速に普及し始めた。
 2003年というのは比較的遅いスタートだが、消費者は一気に受け入れた。
 これは、ADSLを提供するISPが“トリプルプレイ”として、
 インターネット、電話、TVをバンドルし、メリットを分かりやすく
 したため。この背景には、政府によるローカルループアンバンドル規制
 がある。
http://japan.cnet.com/column/europe/story/0,3800077429,20368375,00.htm


○L'ECUME DES JOURS ─日々の泡─
 ブリューノ・ガッシォが「ギニョール」から降板 2007/01/16
 「ギニョール」は、民放テレビ局TF1の20時ニュースを模した作り。
 人気キャスター、パトリック・ポワヴル・ダルヴォールの人形が
 ニュースを伝え、彼の背後にある画面のようなステージに、主要人物
 の人形が出てきて、その内容のパロディが繰り広げられるというもの。
http://hibinoawa.blog10.fc2.com/blog-entry-483.html


○パリ発フランス情報ハヤクー 2007/05/02
 「子供たちのギニョール Théâtre de Marionnettes du Luxembourg」
 ギニョール。始まりは19世紀初頭。絹織物で知られるリヨンにいた
 絹織物工の、ローラン・ムルゲさんによって作り出されたものです。
 ムルゲさんはフランス革命後に失業してしまいましたが、その後
 この人形劇で注目を浴びます。織物工だった彼は主人公ギニョール、
 妻のマドロン、靴職人のニャフロン等の人形を作りお芝居を始めた
 そうです。ギニョールとはその主人公の男性の名前からきていたんです。
http://www.hayakoo.com/guignol/

 

 


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