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「都産都消」社会へ

  • 株式会社ジャパンライフデザインシステムズ 代表取締役社長 
  • 谷口 正和

 東京、上海、ニューヨーク、ロンドンなど、世界的に都市の時代が進行しているが、一言で言えばそれは「消費する都市」である。地方や外国で生産された物や商品を情報化して、ものすごい勢いで消費していくのが都市だ。その勢いに拍車がかかればかかるほど、都市は巨大化していくだろう。

 国単位で食料自給率の低下が叫ばれている。日本は約39%で、先進国ではダントツの低さだ。ちなみに03年度だが、世界のベスト3は、1位オーストラリア237%、2位カナダ145%、3位フランス122%、である。

 この食料自給率を都市に当てはめたらどうなるだろうか。東京は39%どころでは無い、もっともっと低いだろう。ほとんど自分たちでは食べて行けないのが巨大都市だといってもいい。

 「都産都消」とは、都市もまた自ら食糧を生産し、自然の循環にも貢献すべきだということである。一方的に消費してヒートアイランド化している場合ではないのである。都市がエコシティとなろうとするならば、「都産都消」は進むべき道なのだ。

 いくつか小さな事例が見え始めている。規模は小さくても、その向かう方向は正しいだろう。

 「銀座産はちみつ」入りスイーツは今年も人気である。銀座ミツバチプロジェクトは今年で3年目。ハチの数も約15万匹となり、採蜜量は昨年の最高1日26キログラムから今年は40キログラムへと大幅に最高記録を更新。銀座周辺のソメイヨシノなどから採れたハチミツは香りがよく、スイーツによく合う。カステラなどの定番以外に、ギモーフやオムレツケーキなどのブームスイーツ、バニラアイスやカプチーノも楽しめる。松屋銀座で期間限定販売(TokyoWalker5/28号) 。

 松屋銀座の屋上に「菜園」が登場した。世界有数の商業地になった銀座の松屋銀座は、店舗屋上に菜園を設置した。社員らが夏野菜の苗を植えた。「畑」の広さは約15平方メートルと個人のミニ菜園並だ。屋上にあるため、雨が降ったり風が吹いても流されにくい特殊な土を使用している。トマトやナスなどの苗を植えて、7月に収穫予定だそうだ。小さな屋上菜園だが、意味するところは大きい(YAHOO!ニュース5/28)。

 次の事例は「都産都消」社会への本格的な予感を感じさせる。「体験農園」の拡大である。東京都練馬区の農家・加藤義松氏が発案した「体験農園」は、都市近郊の農家が種苗、肥料などをすべて用意してくれ、農業指導までしてくれるシステムだ。

 現在、全国61個所で4000家族が参加しているそうで、個人自給率(個人がどれだけ自分の食べ物を確保できるか)7から8割を目指している。現在トマト、ジャガイモなど20種類の野菜を育てている。利用料は1年契約で43000円。週1回、数時間ほど作業すればいいという。収穫量は270キログラム、約9万円分(約3人分の年間消費量!)。すでに定員いっぱいで、更新率は9割以上である。都内では今年だけで10件、来年は20件ほど開園が予定されている。東京近郊に力を入れている理由のひとつは宅地化の防止で、「将来的には、本格的に農業をやりたいという人も出てきて欲しいですね」と加藤氏はいう(SPA6/3号)。

 東京で京都さながらの川床体験ができる場所がある。奥多摩の御岳渓谷の料亭旅館「ゆずの里 勝仙閣」では、日本名水百選の渓流沿いに京都さながらの川床を設置している。露天の座敷席で川音を聞きながら地元名産のゆずを使ったゆず懐石を味わえる。ユズ酒、自家製ゆべし、渓流で取れた稚鮎、活けマスなどの地素材とアユ尽くしを提供する。ユズ風呂などもある(TokyoWalker5/28号)。

 どうだろう、東京が田舎を取り込む風景が見えてこないだろうか。都市が自然化していくイメージが湧かないだろうか。視覚的に感じるとか、イメージで理解するということはとても大事で、そのビジュアルとかイメージに近づけるように現実を変えていけばいいのだ。「都産都消」はそのためのキーワードである。

 都市は自らそのアンバランスに気づき、生産と消費の双方でバランスよく自立していく道を選ばねばならない。都市の中に食糧やエネルギーの生産力を取り込み、「都産都消」の構造を創りだしていく必要があるということだ。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○MediaSabor  2008/04/15
 「東京の食料自給率1%、自立した農家育成に取り組むオーストラリアの
  自給率230%」
http://mediasabor.jp/2008/04/1230.html


○銀座経済新聞 2008/05/23
 「松屋銀座の屋上で夏野菜を栽培へ--銀座グリーンプロジェクト始動」
  一企業として温暖化防止やヒートアイランド現象などの環境問題、
 環境意識と社内意識の向上などを目的に掲げ、同プロジェクトの
 本格展開を進めてきた。
http://ginza.keizai.biz/headline/688/


○銀座ミツバチプロジェクト通信@blog 「最高記録!」2008/05/26
  最初は、遠巻きに巣箱を眺めていた子供たちも、
 「いじめなければ刺さないんだ!」と実感してから、
 目を輝かせてミツバチを観察していました。
http://ginzahoneybee.blog114.fc2.com/blog-entry-39.html


○しろくま自由旅行 
 「大泉 風の学校 白石好孝さんへ会いに行く」 2008/05/31
  白石さんは都内で400年続く農家。
 都市農業の可能性を模索し,加藤義松さんと共に練馬方式といわれる現在の
 体験農園方式を確立した。この仕組みは都市農業の先進的な取り組みとして,
 世界的に認知され,BBCの番組「世界の都市農業」でも扱われたほど。
 インタビュー当日も韓国のTV局の取材が入っていた,いわゆる
 トップランナーだ。
http://stratosphere.cocolog-nifty.com/life/2007/05/post_2f7f.html


○グローカルネット 2007/11/15
 「エコシティー」持続可能な都市開発デザイン
  今日では、日常に使う何気ないモノから建築に至るまで、あらゆる分野で
 「自然」を優しく取り込んだ商品開発が進んでいます。もはや単なる
 「モノ」をデザインする時代は終わりました。その「モノ」によって
 生まれる人々のライフスタイル、さらには都市の姿までデザインする
 ことが求められています。
http://glocalnet.seesaa.net/article/66527435.html


○エコハウスにようこそ  「歩行者、自転車、トラムの街」 2006/11/21
  私がはじめて訪れたドイツの街がフライブルクであり、一番感動した
 のがそうした街づくりでした。その中心街は、自動車を遮断
 (裏通りに運搬車のみ入れるだけで、表通りは禁止)して、つくられて
 います。自動車は、まわりにつくられた駐車場において、徒歩か、
 自転車か、あるいは公共交通で、中心街に入るようにできています。
http://plaza.rakuten.co.jp/ecologician/diary/200611210000/


○エ・ビ・ス Eco Business Study
 「渋谷の屋上菜園都市化計画」 2007/06/30
  図書館から借りてきていた『「屋上緑化」完全ガイド』の中に、
 この本の紹介がありました。著者の小嶋和好さんは、当時、渋谷区の
 緑化推進主査。渋谷区の区役所の屋上をたった一人で緑化した人。
 しかもタダで。
http://blog.goo.ne.jp/ebisu7163/e/e4d6acb6436abdf4d098ca61ec18bbbe


○屋上 壁面緑化 2007/04/13
 「目黒区役所の屋上緑化・・・」
 この庁舎は建築家「村野藤吾」氏の建築として高く評価されています。
 その屋上にこの庭園の計画時に検討した「十五のメッセージ」とこの
 「村野藤吾」氏の名前にちなみ『目黒十五(とうご)庭』という
 名前がついた庭があります。
http://blogs.yahoo.co.jp/sappi3250/9456624.html

 

 


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