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オバマに決定 米大統領選民主党指名に関する、ある米国人記者の根強い見方

それにしても長い予備選挙だった。当初ヒラリー優勢が伝えられたと思ったら、各地の選挙で抜きつ抜かれつを繰り返す大接戦。代議員の数でオバマが優勢となり、やっと勝負が見え始めたのは5月の事である。米国民はさぞや手に汗握るデッドヒートを楽しんでいるのかと思いきや、CNNのサーベイでは、「いい加減長過ぎ」が6割を超え、皆さんいささかウンザリしている様子。

ヒラリーが撤退宣言を出さず、ミシガンとフロリダの一般投票の無効を根拠に勝負に執着し続けた事も決着がつかなかった原因である。これを書いている6月3日時点でまだ敗北宣言は出ていない。ここまで来ると“往生際の悪さ”がいささか際立ってくるが、ヒラリーとしてはフロリダとミシガンが正式にカウントされていれば逆転もありえたかもしれないという事実がよほど腹に据えかねるのだろう。ダンナであるクリントン元大統領が「これでそろそろ終わりかも」的な発言をしてしまい、“夫婦間の意見の相違”に失笑まで起こる始末である。

現時点でオバマの指名はほぼ決定した。オバマ対マケインの勝負がまた見ものだな、と思っていたのだが、知り合いの米国人記者に言わせると、そんな考え方は米国を知らない証拠、なのだそうである。

外国人とはいえ結構長く米国にいるし、それなりに米国の事も知っているつもりである。米国を知らないと言われては沽券に関わる。10年も米国で仕事をしているんだぜ、と反論してみるが、記者氏は一向に動じない。「その10年間住んでたのはどこだい? LAとシアトルか。じゃあしょうがないな。いいか、西海岸と東海岸はアメリカの外皮みたいなもんなんだ。それを剥いた中身がアメリカなんだよ。アメリカの大部分はとんでもなく保守的なんだ」彼の言によれば、“アメリカの本質”、中西部や南部は、まだまだ保守的・人種差別的で、黒人候補を容認するような土壌はまったくないという。共和党としては、オバマが指名されて本当にホッとしているはずだ、というのが彼の見解だ。

南部の一部がとんでもなく保守的な事くらい知っている。しかしオバマは実際各地で予備選を勝ち抜いてきた訳だし、ポテンシャルの高い候補だからこそ民主党も推してきたのだろうと反論してみるが、彼はまるで取り合わない。「実際の大統領選挙になってみろ、黒人である事を理由に投票しない奴が続出するぞ」

彼の名誉のために言っておくが、人種差別とは無縁の人物だ。というより、保守や差別をなにより嫌うあまり、勤めていたテキサスの大手新聞社を辞め、リベラルなシアトルに移ってきた人である。保守的な土地や人間の事を知り尽くしているという点で、リベラルとしては稀有な人物でもある。そういう彼の言葉は、確かに真実味がある。

彼が言うには、白人は黒人に対して潜在的な恐怖感を持っているという。かつて黒人を奴隷として迫害した事に対する復讐を恐れているというのだ。これは決して偏った意見ではない。以前のコラム(オバマとヒラリー、黒人層の見方は?http://mediasabor.jp/2008/01/2008_1.html)にも書いたが、オバマが白人層に容認されたのは、アフロ・アメリカン、つまり奴隷の末裔ではなかった点が大きい。オバマが通っていた教会の牧師が、白人に対して敵愾心を持つ人物だというだけで、オバマの立場が危なくなったのは記憶に新しい。オバマはこの教会を離脱する事で白人層の不安を払拭したが、この事実だけでも白人層のアフロ・アメリカン的なものに対する拒否反応がいかに強いか分かろうというものだ。

アフロ・アメリカンとしてのバックグランドを持たぬがゆえにオバマは支持されているのである。しかし、アメリカで生まれ育ったオバマがアフロ・アメリカン文化とのリンクを持たないわけがない。この点を巧妙につけば、民主党支持者のかなりの数が選挙ではマケイン支持に変節してしまう可能性は高い。

こういう見方をする米国人は共和党・民主党を問わずかなり多い。更に進んで、ヒラリー脱落の一因となったミシガン・フロリダの選挙問題は、共和党の陰謀だと言い出す輩さえいる。手ごわいヒラリーよりも、倒しやすいオバマの方が共和党としてはありがたいというわけだ。さすがにそれは被害妄想にしても、人種問題の根深さを垣間見せる選挙である。

件の記者氏の予想では、マケイン陣営はオバマの非白人性を徹底的に掘り返す作戦に出るだろうという事である。オバマの経験不足を突くよりもそっちの方がよほど効果的というのがその理由だ。オバマの足場は、日本人が思っているよりもはるかに不安定なようだ。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○藤永茂 私の闇の奥 「オバマ現象/アメリカの悲劇(1)」2008/02/27
 「オバマ現象」がアメリカを死に至らしめる病となる可能性は、やはり、
 否めません。「オバマ現象」は白人アメリカがバラク・オバマを待ちに
 待ったメシアとして熱狂的に迎えている現象ではなく、黒人の男を
 アメリカ合衆国大統領として擁立しようと熱心に努力する自分たちの姿こそ、
 アメリカ白人の心の正しさ、寛容さ、美しさを映すものであるとする自己陶酔、
 自己欺瞞こそが「オバマ現象」の真髄である−−これが私の言いたい所なのです。
http://huzi.blog.ocn.ne.jp/darkness/2008/02/post_01be.html


○Beyond Words 2008/06/05
 バラク・オバマの人種問題に関する演説の日本語訳
 「われら合衆国の人民が、より完全な連邦を形成するために」
  ペンシルバニア州フィラデルフィア/2008年3月18日
http://d.hatena.ne.jp/krhghs/20080605/p1


○ニューヨークの遊び方 2008/06/06 
 「オバマさんの “This was the moment”スピーチ」
 オバマさんの公式サイトには、「We did it」のフレーズ。このサイト
 では、勝利演説(25分ほど)の映像も視聴できるようになってます。
 この演説、ぜひとも聴いてみてください。日本の政治家の演説と
 比べたら確実にカルチャーショックを感じます。
http://nyliberty.exblog.jp/8730520/

 

 


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