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2016夏季五輪招致を目論むブラジル リオデジャネイロが抱える障害

世界の注目が北京に集まっている時期に、ブラジルは未来をにらんでいる。

今年6月に行われた2016年夏季五輪開催地の第一次選考に、東京、シカゴ、マドリードとともに、リオデジャネイロが通過したのだ。2014年にブラジルで開催される第20回ワールドカップ記念大会に続き、五輪も誘致しようと積極的な取り組みが始まっている。

ブラジル・オリンピック招致委員会は、競技会場建設などに5億800万ドルを投じる招致計画を発表。リオデジャネイロでは2007年に柔道世界選手権、パンアメリカン競技大会が開催されており、競技施設の半分、19の既存施設が利用され、11の新しい施設が建設される。その他交通整備に26億ドル、招致活動に4200万ドルを見込んでいる。

またチベット問題が理由で北京五輪開会式に欠席を表明していた、ルラ大統領は最終的に出席。他の候補国の代表者が出席するため、五輪誘致のための判断と報道された。また北京五輪では、初戦でブラジルサッカー代表が使用したサッカー連盟のマークがついたナイキのユニフォームを、ブラジルオリンピック委員会のオリンピカス(Olympikus)のユニフォームに変更。五輪誘致に協力するため、サッカー連盟がオリンピック委員会の後押しをした形になった。

ブラジルは、首都ブラジリアが2000年五輪招致に立候補しており、リオデジャネイロでは2004年、2012年に続く3度目の挑戦となる。リオデジャネイロにとっての悲願の五輪誘致だが、今回の選考で「都市力」が落選したドーハより低く評価されており、最大の障害は治安問題だという声もある。

実際リオデジャネイロでは麻薬組織同士の抗争、警察官による市民の殺害事件が日常的に多発している。米アカデミー賞にノミネートされた映画「シティ・オブ・ゴッド」、2008年ベルリン国際映画祭金熊賞受賞の「Tropa de elite」、現在日本で公開中の「シティ・オブ・メン」で描かれる光景は、アクション映画の世界ではなくリオデジャネイロの現実を訴えている。近年では、治安悪化を理由に州知事がルラ大統領に国軍派遣を依頼することも多々ある。

治安回復は五輪のためではなく、ブラジル国民が解決を切望する問題である。世界最悪の「格差社会」、ブラジルでは所得格差が大きく、治安悪化の大きな原因になっている。ルラ左翼政権後、中流階級層の拡大が報告されているが、ブラジルの格差の歴史は長く、2016年の五輪に向けた解決政策は大いに歓迎したいが、よほど思い切った政策転換がない限り不可能だろう。

そして治安の悪さとともに、五輪開催の障害としてあげられるものが交通整備だ。オリンピックの選手村はリオデジャネイロ市中心街から車で約1時間のところへの設置が想定される。オリンピックの際の主な交通手段はバスであり、多くの道路建設計画があがっている。しかし、パンアメリカン競技大会の際も交通整備の改善が叫ばれていたが、結果大きな改善は見られず、大会開催中は街中が深刻な交通渋滞に見舞われた。五輪を開催するためには、過去の経験から学び早急に着工を推し進める必要があるだろう。


環境に関しては、環境省からも警告された湖や海に流される無処理の下水の問題、自動車の排気による大気汚染が指摘されている。小範囲での地下鉄拡大は進められるようだが、実際招致計画の中には大きく取り上げられていない。平和の祭典には、自然にあふれる美しい街リオデジャネイロが、その美しい姿を保ったまま臨むのがふさわしいのはいうまでもない。

一方で、ブラジルでの夏季五輪開催の可能性としてもあげられている経済成長は際立っている。2007年のGDP成長率は4,4%。石油の自給自足、世界一の鉄鉱石の輸出量、世界一のバイオエタノールの生産量、世界第二のアルミニウム輸出量などが経済成長を加速化させている。また2008年8月にはアメリカ大陸(カナダを除く)の純利益ランキング(2008年4月から6月)で、ブラジル国営石油会社ペトロブラス社がウォルマート社、マイクロソフト社を抜いて第3位に輝いたことも注目されている。

また現在日本国内で販売されている、ラテンアメリカファンドは2008年6月末時点で計10本だったが、7月から8月の2カ月間で野村アセット、大和証券などの9本のブラジルファンドが立ち上がる。ブラジルは金利が高く(基準金利は現在年率13%)、個人投資家の注目が集まっている結果といえよう。

2014年のサッカーW杯の開催で、インフラ面は現在よりも改良すると予想されている。また10月に全国市長選挙が予定されているが、経済成長は大きな影響を受けることなく順調に伸び続けるだろう。経済面を見れば中国とともにBRICsの一国とされるブラジルに、五輪開催の可能性は低くはないはずだ。

リオデジャネイロの人々は「開催したい。でも無理だろう。」と口をそろえる。しかし、例えばブラジルサッカーはいつだって窮地に追い込まれたときにその実力を発揮してきた。治安、交通、環境問題の改善は、国民が切実に望む緊急課題だ。チャンスをつかみ、ブラジルがどこまで大きな決断をし、実行できるか。五輪誘致のためだけでなく、ブラジルの未来をもみすえたこの動きに今後も注目していきたい。 

○Rio 2016 Candidate City「リオデジャネイロ、五輪開催候補地」(YouTube映像 02:27)
http://jp.youtube.com/watch?v=3oJkkS7nXYg&feature=related

○ブラジルオリンピック委員会
http://www.cob.org.br/


【編集部ピックアップ関連情報】

○MediaSabor  2007/10/31
 ヒーロー(BOPE)が綴る、公式犯罪告発映画「Tropa de Elite」はファシズムか
http://mediasabor.jp/2007/10/bopetropadeelite.html


○cinemacafe.net  2008-05-29
 「この貧民街はリオで一番景観のよい所にある」 『シティ・オブ・メン』監督来日会見
 ブラジルの大都市に存在する、貧困、犯罪の温床と言われる貧民街
 “ファヴェーラ”。ここで麻薬の密売に従事する少年たちを描き、
 激賞された『シティ・オブ・ゴッド』から5年。前作でメガホンを握った
 フェルナンド・メイレレスが製作を務め、同じくファヴェーラを舞台に
 しながらも、そこで犯罪には手を染めずに生きる人々を描いた
 『シティ・オブ・メン』が8月に公開される。
http://www.cinemacafe.net/news/cgi/report/2008/05/4024/


○「シティ・オブ・メン」予告編(YouTube映像 01:56)
http://jp.youtube.com/watch?v=Y6S4DQWTEMw&eurl=http://www.webdice.jp/dice/detail/597/

 

 


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