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デザイン&アートの潮流

  • 株式会社ジャパンライフデザインシステムズ 代表取締役社長 
  • 谷口 正和

 いよいよ本格的なデザイン&アートの時代が来た。もはやどのような商品もサービスも、企業も地方自治体も、デザイン&アートへの配慮を抜いて、自らのイメージを語ることはできないだろう。いまっもっとも重要な意識すべき分野はと聞かれたら、躊躇なく私は「それはデザイン&アート」だと答えるだろう。

 情報には5つの段階がある。ごくごく一部の人にしか知られていないサイバー情報、それを革新的な情報として伝えるイノベーター情報、それをさらに一般市場に告知するオピニオン情報、いよいよ大きく市場化してきたときのマス情報、そして最後のレイター情報である。

 デザイン&アート情報は、この最初の位置にあるサイバー情報、イノベーター情報、オピニオン情報を担うものであり、感性の時代の市場をリードする重要なカテゴリーである。

 デザイン&アートは、いまやライフスタイルに関する全領域に浸透してきた。ファッションはいうに及ばず、エコロジーからブランディングまで、アート&デザイン領域に入ってきた。

 今アート&デザインのホットスポットは、やはりロンドンである。ロンドンは活況の続く「シティ」を中心にアートから食まであらゆるジャンルで“進化”している。アート、デザイン、フードの各ジャンルで世界のトレンドをリードするキーパーソンが結集しているのだ。詳しくは雑誌penの 2月1日号を見て欲しい。

 パリでは美術館の屋上にカプセルホテルが出現して予約殺到、話題を呼んだ。パリの美術館「パレ・ド・トーキョー」の屋上に07年11月から08年末まで設置されているモバイルホテル「エヴァーランドホテル」である。スイスのアーティストL/Bによるアート作品で、世界で唯一スイート1室のみのカプセルホテルである。

 シャネルが仕掛けるモバイルアートが世界中の話題を呼んでいる。シャネルは建築家ザハ・ハディッド氏とコラボレートし、移動可能なパビリオンをつくり、世界巡回展を開始した。まるで銀色の巨大な繭のようなパビリオンはインパクト十分。展覧会の終了後はパーツ単位に分解して運搬、次の開催地では立体的なパズルのように再構築する。資源を無駄にしないサステナブルな構造になっており、床面積は約700平方メートルだ。

 これらの例の共通点は「場」である。ホットスポットとしてのロンドン、パリのホテルの屋上の上、さらには定住する場を持たずに移動するパビリオン。いずれも、ものよりも「場」が重要なアート&デザイン拠点になっているのだ。

 銀座にブランド&アートが世界中から集まっている。これも「場」の吸引力だ。ニューヨーク五番街に匹敵するほどのブランド街となった東京銀座。GINZAが世界で注目されているのは、一流の商品を豊富に取り揃えているばかりではなく、ビル内にアートスペースやカフェを展開していることもその注目を集める理由だ。06年11月に晴海通り沿いにオープンした伊ブランドのグッチは、「Gucci BY GUCCI」展を開催、グッチのアイコンの歴史を紹介。グッチの向かいにある仏エルメスは、「サラ・ジー」展を開催。ブランド店だけでなく現代アートも集中している。もはやブランディングはアート&デザインムーブメントなしに成立しないところまで来た。

 「土に還るリップ」がニューヨークっ子に大人気である。世界中のブランドを取り揃えるニューヨークの人気コスメチェーン「セフォラ」では、2007年一番の人気商品を紹介した。それはカナダ発カーゴ化粧品「PLANT LOVE(プラント・ラブ)」。外箱が植物性紙の箱でできており、植物種子が埋め込まれている。外箱を水でふやかし鉢や庭に植えると芽が息吹く仕組みで、どんな花が咲くのかはお楽しみになっている。また、リップは15色展開で、そのうち6種はハリウッドの人気セレブたちがデザイン。リンジー・ローハン、コートニー・コックスなどが起用された。いまやエコはデザイン&アートの主役である。

 市場原理の時代だが、アートの世界にもそれは及んできた。

 芸術、アートは「マネー」との関係なくして進めない。一瞬たりとも生きながらえない。こう言い切るのは、今や日本を代表するモダンアーティストの村上隆氏である。(「芸術起業論」幻冬舎より)「何があっても作品を作りつづけたいなら、お金を儲けて生き残らなければならない」「身も蓋もないことをやったもの勝ち。身も蓋もないことにはお客さんが乗れる雰囲気がある」と宣言する。

 彼の代表作のひとつが16億円で落札されたが、アートは価格に比例するということだ。これも現代アート&デザインには重要な視点だろう。まさに村上隆氏はアート界の確信犯である。その発信拠点を東京に置くべく、同氏が主宰する有限会社カイカイキキのギャラリーが元麻布にオープンした。青島千穂氏、Mr.氏、タカノ綾氏、小出茜氏、佐藤玲氏、Mark Grotjahn氏、Seonna Hong氏、Matthew Monahan氏など世界で活躍中のアーティストたちの作品が一堂に会している。そのオープンパーティは、ハリウッドさながらの豪華なものだった。これもアートなのである。

 もはやアート&デザインと関係のないジャンルはない。価値はアート&デザインのレベルによって決まる。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○MediaSabor  2007/04/09
 『村上隆』『奈良美智』ら、日本発アートが海外でブレイクした背景
http://mediasabor.jp/2007/04/post_64.html


○フクヘン。-雑誌ブルータス副編集長、鈴木芳雄のブログ
 小山登美夫『現代アートビジネス』アスキー新書  2008/04/17
  この本を読むと、現代美術作家の名前や作品がたくさん覚えられるという
 ことはないけれど、今、とても活発になっている現代美術界の状況は
 よくわかる。それと、小山さん自身が単なるしごととしてではなく、
 本当に美術が好きなのだなということもストレートに伝わってくる。
http://fukuhen.lammfromm.jp/2008/04/post_329.html


○mama told me 2008/05/05
 「現代アートビジネス」小山登美夫 | アスキー新書
 ギャラリスト小山登美夫氏による現代アートという業界についての解説本。
 価格はどう決まるのか、日本の現代アートの状況は世界基準に照らして
 どんなものか、ギャラリストの仕事って何なのか、アートに投資する
 意味は何か、といった疑問に対して、さらりさらりと回答。見事です。
http://yokiko75.blog36.fc2.com/blog-entry-77.html


○タムタムのイタリア+東京旅日記  2008/06/09
 「ザハ・ハディッドのデコンストラクション建築」
  ザハ・ハディッドの名を有名にしたのは、なんと、日本の建築家、磯崎新で、
 香港のビクトリア・ピーク・クラブのコンペで、審査委員長だったとき、
 彼女の案を推薦し、世界を驚かせた。爆発した建物の無数の破片が、鋭い
 軌跡を宙に残しながら飛び交うという設計案は、1等賞に輝きながらも、
 実現困難とされ、建設されることはなかったが。
http://blogs.yahoo.co.jp/tamtam1250/33672663.html


○パリノルール blog 2007/03/03
 「パリに行く方におすすめの期間限定モバイルホテル」
http://www.fr-dr.com/paris/archives/2007/03/03102619.php


○エヴァーランドホテル(YouTube映像 01:04)
http://jp.youtube.com/watch?v=HfGldN1frL4

 

 


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