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Perfumeの対抗馬となるか!? 「Sweet Vacation」の音楽的背景に浮かぶある大物女性アーティスト

 さてさて。編集長(寺田正典)が「Perfume」について2ヶ月連続で書いていましたね。2回目(http://mediasabor.jp/2008/09/perfume_1.html)では「1970年前後の生まれの男性たちがPerfumeに萌えている」とのこと。1970年生まれの僕にとっては、なんとなく自分のことを言われているみたいで、「萌えている」と指摘されると妙に反発したくなったりして(笑)。でも、後半で「もっとストレートにPerfumeの音楽に没入しているようにも見えてくる」と書かれているように、僕自身、Perfumeそのものは愛聴していますけど、正直「萌えーっ!」って感じではないですね。まあ、11月の武道館公演には足を運ぶ予定ですけど(笑)。

  「Perfumeの音楽自体は好きです…」なんてクールな反応をすると、ファンのみなさんから懐疑の目を向けられそうですが、気取っているわけではないんです。ほかに「萌えている」ものがちゃんと存在するわけですよ。それが「Sweet Vacation」(http://www.sweetvacation.jp/)。昨年MySpace上で話題となり、知っている人には説明の必要がないほどインターネットを中心に大ブレイクした人気ユニットの「スイバケ」です。今年8月にビクターからメジャー・デビューを果たしたので、今が紹介するにはいいタイミングかな? と思い、今回はSweet Vacationについて書くことにします。

 メンバーは東京エスムジカの中核、早川大地とバンコク生まれのMay(メイ)。このMayのルックスが超キュート(うーん、事実ではあるが、こう書く自分には抵抗あるな…)で、マレーシア出身のフィッシュ・リョン(Fish Leong/http://www.fishleong.com/)やフィリピンのバービー・アルマルビス(Barbie Almalbis/http://barbiealmalbis.com/index.html)といったエイジアン・ビューティー(というか、エイジアン・キュートだねっ!)に惹かれてしまう僕にとっては抗えない魅力があるんです。

 もちろんルックスだけじゃないよ! 声がとてもカワイイ! 最初に聴いたときは「どこかで聴いたことあるな…この声」と思ったんですけど、元スーパーカーのフルカワミキでした。ウリふたつとまでは言いませんが、かなり似てます。彼女のセカンド・ソロ・アルバム『Bondage Heart』に「La La La」という曲があるのですが、Sweet Vacationと続けて聴けば、曲を覚えるまではどっちがどっちか混乱するかも…。僕はスーパーカーでフルカワミキがヴォーカルをとる曲が好きだったのですが、その理由もこれでわかったし、フルカワミキの声の魅力を再認識しました。

 …とここまでは、Sweet Vacationは「カワイイから良い!」としか言っていないので、ちゃんと音楽の話も書きますね。

 Sweet Vacationの音楽性を強引に一言でまとめるなら「エレクトロ版パワー・ポップ」になるでしょうか? E.L.O.からの影響を強く感じるのですが、E.L.O.がパワー・ポップとは一言で括れないように、Sweet Vacationの音楽も「これ」と一言で表わすのは難しい。僕が好きな音楽には「複数のジャンルのごった煮」的な傾向があると自分では思っているのですが、彼らにもそれを感じます、ただし、Sweet Vacationの音楽にはある特定の女性ミュージシャンへのオマージュがたっぷりと含まれている。そのミュージシャンとはシンディ・ローパー(Cyndi Lauper)です。以下に、具体的な話をしていきましょう。

 Sweet Vacationがインディーから出したデビュー・アルバム『Do the Vacation!!』では、シンディーの「The Goonies‘R’Good Enough」をカヴァーしています。実は、そのアルバムではマドンナ(Madonna)の「Material Girl」もカヴァーしている。たぶん、このアルバムの制作時点では、まだ早川大地の中で方向性が確定していなかったと思うんですよね。これは僕の推測ですが、Sweet Vacationが『Do the Vacation!!』を出した直後、反応の多くは若い女性からあったと思うんです。もしそこで、男性ファンからの反応ばかりだったら、ひょっとするとマドンナ路線をとっていたのかもしれない…。でも、この後にシンディ・ローパー路線へと方向性を固めていくことは、Sweet Vacationのさらなる飛躍へとつながっていったように思います。

 シンディ・ローパー路線というのはあくまで音楽上の話ですが、Mayのファッションは奇抜ではないけれど「着たいものを自由に」という感じはシンディと共通の匂いを感じるし、そんな彼女自身から“Girls Just Want To Have Fun”という雰囲気はすごく伝わってくる。おそらくそこに早川大地は、「MayはPerfumeとは違って若い女性の共感を集めることができる!」と直感したと思うんですよね。もちろん、若い女性のPerfumeファンも存在するでしょうけど、お客さんの中心層を想像するに「Perfumeファン=アラフォー男性」「Sweet Vacationファン=20代女性(&男性)」といったところではないでしょうか。そして、単に「The Goonies‘R’Good Enough」をカヴァーしているというだけではなく、シンディとの音楽的な共通項はまだあります。

 ザ・ブレインズ(The Brains)の「Money Changes Everything」にプリンス(Prince)の「When You Were Mine」、ジュールズ・シアー(Jules Shear)の「All Through The Night」にマーヴィン・ゲイ(Marvin Gaye)の「What's Going On」、そしてドクター・ジョン(Dr. John)で有名な「Iko Iko」。これらはシンディが最初の2枚のアルバムでカヴァーした曲ですが、何か気がつきませんか? 

  
シンディ・ローパー『究極ベスト』 
ザ・ブレインズ、プリンス、ジュールズ・シアーのカヴァーが
聴ける。もちろん「Time After Time」も収録

 そう、歌い手は女性なのに、カヴァーしている曲は例外なく男性ヴォーカル・ナンバーなんです。この方法論は、Sweet Vacationにも踏襲されていきます。『Do the Vacation!!』ではBOØWYの「Honky Tonky Crazy」をカヴァーしていますし、方向性の固まった2作目『More the Vacation!!』ではコールドプレイ(Coldplay)の「Speed Of Sound」とブラー(Blur)の「Girls & Boys」、加えてTMNの「We love the EARTH」をカヴァーしています。メジャー・デビュー作となった『I miss you -ep-』ではガンズン・ロージズ(Guns N'Roses)の「Sweet Child O'Mine」をカヴァーしました。

 さらに言えば、ここがポイントなのですが、シンディもSweet Vacationもカヴァーの対象アーティストはジャンルがバラバラなんです。Sweet Vacationのカヴァーのセレクションには、明らかにシンディへのオマージュが込められていると僕は感じるのですが、どうなんでしょう?

 オマージュといえば、もっとはっきりした形で出ているものがあります。『I miss you -ep-』のタイトル曲「I miss you─ユメデアエタラ」のイントロを聴いてみてください。なんとこれ、シンディの大有名曲「Time After Time」のイントロとコード進行が同じじゃないですか! Sweet Vacationのほうはアップ・テンポだから気がつかない人もいるかもしれませんが、初めて聴いたときはビックリしました。このやり方は、かなり意識的に、リスナーに自分たちがシンディ・ローパーをリスペクトしていることを宣言しているようにも見受けられます。


『I miss you -ep-』こちらが通常盤のジャケ

 『I miss you -ep-』の初回限定盤にはDVDが付いていますが、ファンならずとも絶対に初回限定盤を購入すべきです。このDVDには「I miss you─ユメデアエタラ」のPVに加えて「The Goonies‘r’Good Enough」の今年4月のリキッドルームにおけるステージの模様が収録されているのですが、はっきり言って、これは萌えます! ヤバイです(笑)。


『I miss you -ep-』DVD付の初回限定盤

 そして、こういったSweet Vacationによるオマージュ(決めつけちゃってますけど…)がシンディ・ローパー自身の再評価にもつながっているような気がするんです。7月21日に掲載した「洋楽の紙ジャケ再発もいよいよ80年代に突入!」(http://mediasabor.jp/2008/07/80.html)でも書きましたけど、シンディはこの9月24日に武道館公演を行ないました(註:執筆時にはまだ24日を迎えていません)。数年前よりも人気が上昇していることは明らかで、今回の来日を前にPUFFYやChara、Tommy february6といった豪華メンバーが揃ったトリビュート盤『We Love Cyndi』(ちなみに、僕が所属していた音楽サークルの後輩、土岐麻子も参加してます)も出ています。

 Sweet Vacationの「The Goonies‘r’Good Enough」は、7月にフォーライフから発売されたコンピレーション『BEAUTIFUL TECHNO』にも収録されています。


『BEAUTIFUL TECHNO』Aira Mitsuki、immi以外にも
Saori@destinyのベスト・チューン(…と僕は思う)
「サヨナラリヴァイヴァル」などを収録

 正直、Sweet Vacationを「テクノ」の範疇に含めるのは微妙な感じがしますが(いわゆるテクノ・サウンドとは違って、もっとオーガニックな要素が強いです)、中田ヤスタカ絡みの曲もMEGをはじめ3曲が収録されていますし、ほかにも「ひとりPerfume」のようなAira Mitsukiやimmi(歌が「かの香織」そっくりで、最初に聴いたときは別名義かと思いました…)など旬のアーティストがたくさん選ばれています(Aira Mitsukiもimmiもこの9月にアルバムを出したばかりです)。

 Spangle call Lilli lineまでが収録されている幅広いセレクションにはちょっとビックリしましたけど、Perfumeの音楽が気に入って、次に何を聴こうか迷っている人にはオススメのコンピです!

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○BARKS  2008/09/25
 「Sweet Vacation、ワールドワイドにファン増幅中」
http://www.barks.jp/news/?id=1000043640&ref=rss


○クマチュー!! 「I Feel So Good/Sweet Vacation」 2008/05/01
 今Perfumeのブレイクでテクノポップが見直されてる中、後追いで似たような曲
 出すと本人意識せずともどうしても比較されてしまいがちですが、
 Sweet Vacationについては決して二番煎じ感の無い独特さもあり一味違う
 感じがしますし、なんといってもボーカルのMAYちゃんが超カワイくて
 キュート&エキゾチック!というのが最たるアドバンテージポイントだと思います。
http://kumachu.blog65.fc2.com/blog-entry-437.html


○Everything Is Everything 2008/01/18
 「Sweet Vacation / Do the Vacation!!」
 最近のミュージックシーンで切っても離せない乙女ハウスの最前線かつ
 突然変異的ユニット!それが某CDショップでPerfumeのベストアルバムと
 同じ視聴機に入っていて、周りの目も気にせずに全7曲フル視聴させた
 Sweet Vacationです。実話。
http://mgrca.jugem.jp/?eid=23

 

 


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